「なぜ、同じ創業ストーリーを持っているのに、A社の会社紹介は誰の心にも残らず、B社の採用ページはSNSで何度もシェアされるのか?」
WEBマーケティングの現場で19年間、この違いに何度も直面してきました。A社は1985年創業、資本金3000万円、従業員50名…と沿革を淡々と語ります。一方、B社は「2人の技術者が深夜の町工場で、どうしても作りたかった”あの製品”」から物語が始まります。実は、両社とも創業の想いは熱く、挫折も乗り越え、顧客との出会いもドラマチックでした。にもかかわらず、なぜこれほど伝わり方が違うのでしょうか?
その答えは「センス」ではなく「要素設計」にあります。
中小企業のマーケティング支援をしていると、こんな悩みをよく耳にします。「ストーリーを書いてと言われても、何から書けばいいかわからない」「創業の想いはあるが、うまく整理できない」「3分のプレゼンでは、どこまで話していいか迷う」。
こうした悩みの本質は、ストーリーの構成要素がわかっていないことにあります。主人公が曖昧だったり、WHY(なぜ始めたか)がぼんやりしていたり、葛藤がなかったり、ビジョンで終わっていなかったり—要素が欠けているから、どれだけ「良い話」でも伝わらないんです。
ストーリーテリングは、単なる情報の羅列よりもはるかに強力な効果を持つことが、神経科学研究でも示唆されています。MedicalXpressが紹介するJNeurosci論文の要旨によれば、物語の詳細が「概念的(感情・解釈重視)」か「知覚的(具体観察重視)」かによって、異なる脳ネットワークが関与し、聴取時の活性化が後の想起を予測すると報告されています(参考:MedicalXpress|2025|物語の記憶メカニズム)。これは、構成要素が適切に設計されたストーリーがいかに記憶に残りやすいかを示しています。
当編集部では、世界的エンタメ企業で35年間ブランドマネジメントに携わった専門家の知見をもとに、ブランドストーリーの基本要素(主人公・目的・葛藤・変化・メッセージ)を、中小企業の実務で使いやすい7要素フレームに再構成しました。映画やテーマパークで使われている「物語の考え方」を、ブランドに転用したものです。
- 自社ストーリーの「どこが弱いか」を7要素で診断できる
- ストーリーの長さ・用途(30秒・3分・10分・Web)に応じて、どの要素を厚く語るべきか判断できる
- ダウンロードできる「7要素セルフチェックシート」を使って、経営会議や採用チームと共有できる
まずは7つの要素の全体像を押さえ、その後に各要素の作り方 → バランスの取り方 → チェックリストという順番で解説していきます。それでは、第1章「7つの要素の全体像」から見ていきましょう。
第1章 ブランドストーリーに必要な7つの要素(全体像)
ブランドストーリーは、感覚やセンスだけで作るものではありません。実務では「必ず含むべき構成要素」が存在します。この章では、7つの要素を一気に俯瞰し、全体像を把握しましょう。
1-1 7つの要素の一覧と一行定義
ブランドストーリーに必要な7つの要素は、以下の通りです:
| No. | 要素名 | 一行定義 |
|---|---|---|
| 1 | 主人公 | 誰の物語か |
| 2 | WHY | なぜ存在するのか |
| 3 | 葛藤 | 何と戦うのか |
| 4 | 旅 | どんなプロセスか |
| 5 | 価値観 | 何を信じるのか |
| 6 | 変容 | どう変わるのか(Before→After) |
| 7 | ビジョン | どこへ向かうのか |
これら7要素は、物語研究で知られる「ヒーローズジャーニー」(Joseph Campbell提唱)のビジネス版とも言えます。ヒーローズジャーニーは、英雄が冒険に出て試練を乗り越え、変容して帰還する物語構造を12のステージで説明したものですが、ブランド実務では7要素に絞ることで、中小企業でも使いやすくなります(参考:StoryFlint|2025|ヒーローズジャーニーは12ステージで構成される神話の法則)。
世の中には、ブランドストーリーの構成要素として「3要素」「5要素」「10要素」など、さまざまなフレームワークが提案されています。実務向けの体系的ガイドでは、「5ステップ設計法(WHY→主人公→葛藤→解決策→変容)」として整理されているケースもあり、「50年続くIPに共通する8つの要素」を挙げる例もあります(参考:ブランドストーリーテリング完全ガイド)。
本記事で「7要素」としているのは、以下の理由からです:
- 最低限の必須要素(主人公・WHY・葛藤・変容)を網羅
- 実務で差がつく要素(旅・価値観・ビジョン)を追加
- 中小企業が「30秒エレベーターピッチ」から「10分プレゼン」まで、長さに応じて要素の濃淡を調整できる
つまり、7要素は「これさえ押さえれば最低限響く」ラインと、「ここまで作り込めば競合と差別化できる」ラインの、ちょうど中間を狙ったフレームなんです。
1-2 要素間の関係性
7要素は、バラバラに存在するのではなく、時間軸と深さの2軸で整理できます。
時間軸:
- 主人公(誰が?):物語の始まりを告げます。
- WHY(なぜ始めた?):行動の根本的な動機を探ります。
- 葛藤(何と戦った?):目標達成に向けた障害や課題を描きます。
- 旅(どう乗り越えた?):葛藤を乗り越えるための具体的なプロセスと経験を示します。
- 変容(どう変わった?):旅を経て得られた成長や変化を明確にします。
- ビジョン(これからどこへ?):変化の先に描く未来と、その目指す場所を示します。
深さ軸:
- 表層(行動・出来事): 旅、変容 — 外部から観察できる具体的な行動や結果。
- 中層(動機・理由): WHY、葛藤 — 行動の背景にある動機や、内面的な闘い。
- 深層(価値観・信念): 価値観、ビジョン — ブランドの根底にある揺ぎない信念や、究極の理想。
この2軸を意識すると、「ストーリーが薄い」「何を言いたいのかわからない」という失敗を避けられます。時間軸だけ(出来事の羅列)でも、深さ軸だけ(理念の抽象論)でもダメで、両方のバランスが必要です。

1-3 7要素が揃うと何が起きるか
7つの要素が有機的に結びつくことで、ブランドストーリーは単なる情報伝達を超え、強力な共感と行動を促す力を持つようになります。
- 感情移入と信頼: 主人公の人間らしい葛藤や旅路が描かれることで、読者・聞き手は感情移入しやすくなります。そして、WHYや価値観が明確に示されることで、ブランドへの信頼感と共感が深まります。
- 行動と参加意欲: 変容によって示されるポジティブな変化と、ビジョンによって描かれる魅力的な未来は、読者・聞き手自身の行動を促し、「この物語の一部になりたい」「一緒に未来を創りたい」という参加意欲を高めます。
中小企業にとって、これは大きなメリットをもたらします。大手企業のように莫大な広告費をかけなくても、心に響くストーリーはブランドを差別化し、顧客、社員、パートナーとの強固な関係性を築く土台となります。採用、営業、PRといった様々なコミュニケーションにおいて、一貫した物語を語ることで、メッセージのブレがなくなり、ブランド力が自然と向上していくでしょう。
1-4 関連記事へのブリッジ
ブランドストーリーの全体像をさらに深く学びたい方は、以下の記事も参考にしてください。
- ブランドストーリーテリング全体戦略を俯瞰する ブランドストーリーテリング完全ガイド
- 物語構造の理論的背景を深く理解したい方は、「なぜあの会社は売れる?ブランドストーリー事例15選【5要素フレームで成果に落とし込む4ステップ】」をご覧ください。
第2章 7つの要素を一つずつ深掘り
全体像が見えたところで、各要素を一つずつ深掘りしていきます。それぞれ「何を語るべきか」「どう設計するか」を、実務レベルまで落とし込みます。
2-1 要素1:主人公 — 誰の物語か
役割:ストーリーの視点を定め、読者・聞き手が感情移入できる「軸」を作る。
よくある失敗:主人公が曖昧で、「会社全体」「創業者」「顧客」「社員」がごちゃ混ぜになる。結果、誰の視点で語られているのか不明瞭になり、共感を生みません。
設計のポイント:
創業ストーリーなら「創業者」が主人公
採用ストーリーなら「社員(未来の仲間)」が主人公
顧客向けストーリーなら「顧客自身」を主人公に
「私たちは…」で始めるなら、その「私たち」が具体的に誰を指すのかを明確にしましょう。
特にBtoB企業のように顧客の成功を支援するビジネスでは、自社を「主人公」ではなく、顧客という主人公を導く「ガイド」として位置づけるストーリー設計が極めて有効です。これは、ドナルド・ミラーの「ストーリーブランド(SB7フレームワーク)」で提唱される概念で、売り込み感をなくし、信頼されるパートナーとしての立場を確立できます。
実務では、ストーリー形式の情報が「箇条書き・データのみ」の情報と比べて、記憶定着や共感形成に優れていることが、神経科学実験でも示されています。物語の詳細が「概念的(感情・解釈重視)」か「知覚的(具体観察重視)」かによって、異なる脳ネットワークが関与し、聴取時の活性化が後の想起を予測するという報告があります(参考:MedicalXpress|2025|物語の記憶メカニズム)。
このデータから専門家として言えることは、BtoBの提案書では「知覚的な具体観察」に基づくストーリーを、採用広報では「概念的な感情・解釈」に訴えるストーリーを使い分けるべきだということです。この脳科学に基づいたストーリーの使い分けが、多くの企業で見過ごされている成功の鍵なんです。
2-2 要素2:WHY — なぜ存在するのか
役割:ブランドの「存在理由」を示し、共感の土台を作る。Simon Sinekが提唱した「ゴールデンサークル理論」では、WHY(なぜ?)→HOW(どうやって?)→WHAT(何を?)の順で語ることで、人の心を動かしやすいと説明されています(参考:Constant Contact|2024|WHYを明確にすることが顧客の感情的共感やブランドメッセージの一貫性向上に寄与する)。
よくある失敗:「利益を上げるため」「業界No.1になるため」など、手段や目標をWHYと混同する。WHYは「なぜそれをしたいのか?」という本質的な動機でなければなりません。
設計のポイント:
創業者が「どうしても解決したかった問題」
「この世界にこんなものがあったら」と思った原体験
「誰かのこんな顔が見たい」という感情
19年の実務経験から言えば、WHYが明確な企業は、採用でも営業でも「なぜあなたの会社?」という問いにブレなく答えられます。逆に、WHYが曖昧だと、「競合との違いは?」と聞かれたときに、スペックや価格の話に逃げがちになります。
2-3 要素3:葛藤 — 何と戦うのか
役割:物語に緊張感とリアリティを与え、「乗り越える価値がある」ことを示す。
よくある失敗:順風満帆なストーリーを語る。「創業から順調に成長し…」では、聞き手は感情移入できません。複数の専門的記事は、ストーリーテリングが感情的結びつきを築き、信頼形成や行動喚起に寄与すると指摘しています(参考:World Economic Forum|2025|ストーリーテリングは感情的な結びつきを築き、信頼形成や行動喚起に寄与する)。物語論では、「コンフリクト(葛藤)がないストーリーは記憶に残らない」と指摘されています。
設計のポイント:
外的葛藤: 資金不足、競合の強さ、技術的壁、法規制など、外部環境からくる困難。
内的葛藤: 自信の欠如、決断の迷い、価値観の対立など、内面的な闘い。
葛藤の見せ方には注意が必要です。「こんなに苦労しました」アピールだけでは、ネガティブな印象を与えます。重要なのは、葛藤 → 乗り越えた方法 → 学びの3点セットで語ることです。
【深掘りコラム】なぜ正直な失敗談は、最強の武器になるのか?
心理学には「アンダードッグ効果」というものがあります。これは、不利な状況にある対象を応援したくなる心理現象です。ブランドストーリーで正直な失敗談を語ることは、単なる共感を呼ぶだけでなく、このアンダードッグ効果を引き出し、顧客を「ファン」や「応援団」に変える力があります。ただし、単なる苦労自慢で終わらせてはいけません。重要なのは「失敗 → 学び → 変容」という成長の構造です。この構造があって初めて、失敗談はブランドの信頼性を飛躍的に高める資産に変わるのです。
自社の埋もれた「葛藤」を発掘する10の質問リスト
- 創業当時、業界の「当たり前」で、あなたが最も疑問に思ったことは何ですか?
- お客様から言われた言葉で、開発方針が180度変わったきっかけの一言は何ですか?
- あと一歩で諦めそうになった最大の壁と、それを乗り越える力になった出来事は何ですか?
- 製品やサービスが、お客様のどんな「不満」「不安」「不便」を解決しましたか?
- 競合他社が提供しない、あるいはできなかったことは何ですか?
- 社内で意見が真っ二つに分かれ、最終的にあなたの行動の軸となった信念は何ですか?
- 技術的な課題や資金の壁に直面した際、どのように打開策を見つけましたか?
- 市場の常識に反する決断をしたとき、どんなリスクがあり、どう乗り越えましたか?
- 予期せぬトラブルやクレームが発生した際、どのように対応し、そこから何を学びましたか?
- あなたがブランドとして「これは譲れない」と強く感じた瞬間と、その具体的なエピソードを教えてください。
2-4 要素4:旅 — どんなプロセスか
役割:主人公が葛藤をどう乗り越えたかを、具体的なエピソードで示す。
よくある失敗:結果だけを語り、プロセスを省略する。「困難を乗り越えて成功しました」では、どう乗り越えたのかがわかりません。
設計のポイント:
具体的な行動: 誰に会ったか、何を試したか、何を学んだか
転機のエピソード: 「あの日、あの人の言葉で考えが変わった」
小さな成功と失敗の積み重ね
「旅」要素は、ヒーローズジャーニーの「試練」「仲間との出会い」「宝の獲得」などのステップに対応します。ビジネスストーリーテリングの文脈では、この「旅」部分が顧客の共感を生み、「自分たちも同じような課題を乗り越えられるかも」と思わせる効果があります。
2-5 要素5:価値観 — 何を信じるのか
役割:行動の軸となる「信念」「大切にしていること」を明示し、ブランドの一貫性を支える。
よくある失敗:価値観を語らず、行動だけを見せる。すると、「なぜその行動を選んだのか?」が不明瞭になり、ストーリーに深みが出ません。
設計のポイント:
「こうあるべき」という哲学
業界の常識に対する「でも私たちは…」という反骨
譲れない一線(例:「安さより品質」「短期より長期」)
2-6 要素6:変容 — どう変わるのか
役割:Before→Afterを明確に示し、「成長」「学び」「進化」を見せる。
よくある失敗:Beforeが具体的でなく、Afterだけを語る。「以前より良くなりました」では、何がどう変わったのかわかりません。
設計のポイント:
Before:具体的な数値、状況、感情を描写
転機:何がきっかけで変わったか
After:変化の結果と、それによる新たな可能性
Before/After型のストーリーテリングは、変化の可視化により感情的共感と信頼を高め、行動喚起につながるとする事例報告が複数存在します(参考:Toast Studio|2025|Volvoの安全に関するストーリーなど、感情的ストーリーテリングの事例を紹介)。変容要素は、「売り込み」ではなく「変化の証拠」を示す行為なんです。
2-7 要素7:ビジョン — どこへ向かうのか
役割:ストーリーの終わりを「完結」ではなく「これから」で結び、読者・聞き手を未来へ誘う。
よくある失敗:ビジョンを語らず、「今はこうです」で終わる。すると、聞き手は「で、これから?」という疑問を残したまま去ります。
設計のポイント:
10年後のありたい姿(ただしスローガンではなく、具体的な情景)
「あなたも一緒に」という参加の呼びかけ
未完の物語として、続きを想像させる余白
ビジョンは「未来のありたい姿」として、ブランドストーリーの最後に置かれることで、”参加を呼びかける未来像”の役割を果たします。ビジョンが10年後も古びないかどうかは、第4章のチェックリストで確認します。
ここまで7つの要素それぞれの役割と設計ポイントを解説してきました。自社のストーリーをより深く、そして実践的に構築したい方は、以下の記事も参考にしてください。
- 実際にストーリーを組み立てる手順については ブランドストーリーの作り方:5ステップで響く物語を作る方法 をご覧ください。
- 価値観やビジョンをさらに深掘りしたい方は、「読者の心を掴む!ブランドストーリーの書き方|19年経営のプロが教える7つの感情ライティング術」も役立つでしょう。
第3章 用途別の要素バランス設計
7要素を全て語ると、長大なストーリーになります。実務では、用途に応じて要素の濃淡を調整することが重要です。この章では、30秒エレベーターピッチから10分プレゼンまで、長さ別の設計法を解説します。
3-1 必須/重要/強化要素の考え方
ブランドストーリーの7要素は、その重要度に応じて3つのレイヤーに分けられます。この考え方を理解することで、限られた時間やスペースでも効果的にストーリーを構築できます。
- 必須要素(絶対に外せない):
- 主人公: 誰の物語か、視点を確立する。
- WHY: なぜ存在するのか、ブランドの根幹を語る。
- 葛藤: 何と戦うのか、物語に深みとリアリティを与える。
これらはストーリーの土台となり、どんなに短い物語でも含めるべき要素です。 - 重要要素(できるだけ含める):
- 旅: どんなプロセスか、具体的な道のりを示す。
- 変容: どう変わるのか、成長と変化を見せる。
これらの要素を加えることで、ストーリーに肉付けがされ、より具体的な感情移入を促します。 - 強化要素(深みを増す):
- 価値観: 何を信じるのか、ブランドの信念を明確にする。
- ビジョン: どこへ向かうのか、未来への期待と参加を促す。
これらはストーリーに奥行きを与え、ブランドの独自性と魅力を際立たせ、競合との差別化に繋がります。
中小企業の場合、必ずしもすべての要素を詳細に語る必要はありません。むしろ、要素を絞ることでメッセージの焦点が合い、より強く相手に響くことがあります。まずは必須要素を固め、次に重要要素、そして強化要素と段階的に深掘りしていくのが効果的です。

3-2 企業タイプ別:どの要素を厚く語るか
企業の性質やステージによって、どの要素を前面に出すべきかは異なります。
- スタートアップ・D2C(Direct to Consumer):
- 主人公(創業者)、WHY(創業の動機)、葛藤(起業の苦労)、旅(製品開発の道のり)を厚めに語ることで、共感と応援を集めやすいでしょう。創業者自身の情熱とストーリーが、そのままブランドの魅力になります。
- 老舗企業:
- 旅(歴史と伝統)、価値観(変わらぬ信念)、変容(時代に合わせた進化)に焦点を当てます。長年培ってきた信頼と、変化に対応してきた柔軟性を物語として伝えることで、新たな顧客層にも魅力を訴求できます。
- サステナブル企業:
- WHY(社会課題解決への使命)、価値観(環境・社会への配慮)、ビジョン(持続可能な未来)、そしてそれによってもたらされる社会の変容を強調します。共感性の高いメッセージが、志を共にする顧客やパートナーを引き寄せます。
- BtoB企業:
- 葛藤(顧客が抱える課題)、そしてその課題を解決することで顧客にもたらされる変容(成功ストーリー)を厚く語ることが効果的です。「私たちが、あなたの課題をどう解決し、どう成長させたか」を具体的に示すことで、信頼と実績をアピールできます。
3-3 長さ別:30秒・3分・10分・Webサイトの要素配分
コミュニケーションの場面に応じて、ストーリーの長さを調整し、要素の濃淡を変えることが重要です。
| 用途・長さ | 目的 | 構成する主要要素 | 構成例のポイント |
|---|---|---|---|
| 30秒版 (エレベーターピッチ) | 興味を引き、「もっと聞きたい」と思わせる | 主人公 + WHY + 変容 | 「[誰が]、[なぜ]始め、[どう変わったか]」を簡潔に。 |
| 3分版 (営業・採用面接) | 信頼を獲得し、共感を得る | 必須要素 + 旅 + 変容 | 必須3要素に「[葛藤]を[旅]でどう乗り越えたか」を追加。 |
| 10分版 (プレゼン・講演会) | ファンにし、「仲間になりたい」と思わせる | 全7要素 | 全要素を時間軸に沿って展開。特に「価値観」と「ビジョン」で深みを出す。 |
| Webサイト版 (会社紹介・採用ページ) | 読者を「自分ごと化」させ、次の行動を促す | 全7要素 (読者視点) | 主人公を「読者」に置き換え、「あなたの課題」から始める。 |
- 30秒版(エレベーターピッチ):
- 目的: 初対面で興味を引き、「もっと聞きたい」と思わせる。
- 構成例: 「私は[主人公]。[WHY:こんな問題を解決したくて]この事業を始めました。その結果、[変容:こう変わりました]。」
- 例: 「私は元SEで、中小製造業のIT化を支援しています。現場の職人さんが『難しくて使えない』と諦めていたシステムを、[WHY]誰でも使える形にしたくて起業しました。今では70代の工場長も毎日使ってくださり、[変容]受注ミスが90%減りました。」
- 省略できる要素: 葛藤、旅、価値観、ビジョン(興味を持たれたら次の段階で語る)
- 3分版(営業プレゼン、採用面接):
- 目的: 採用面接、営業初回訪問など、「信頼できるか?」を判断される場面。
- 構成例: 「[主人公+WHY]で始めたが、[葛藤]という壁にぶつかり、[旅]こう乗り越え、[変容]今はこうなった。」
- 例: 「[主人公+WHY]元SEで起業しましたが、[葛藤]最初の1年は全く売れませんでした。職人さんに『お前に何がわかる』と言われ、半年間、毎朝5時に工場へ通いました。[旅]朝礼に参加し、手伝いながら、現場の言葉でシステムを説明し直しました。すると、[変容]『これなら使える』と言ってもらえ、今では口コミで10社に導入されています。」
- 省略できる要素: 価値観、ビジョン(深い共感は次の段階で)
- 10分版(プレゼン、講演、採用説明会):
- 目的: プレゼン、講演、採用説明会など、「仲間になりたい」「取引したい」と思わせる場面。
- 構成例: 全7要素を時間軸に沿って展開し、各要素に具体的なエピソードを配置。
- 設計のコツ:
- 主人公: 冒頭30秒で明示
- WHY: 1分で背景と動機を語る
- 葛藤+旅: 3〜4分で具体的なエピソードを複数
- 価値観: 旅の中で「なぜその選択をしたか」として語る
- 変容: 2分でBefore→Afterを数値と感情で
- ビジョン: 最後1分で「これから一緒に」と呼びかけ
- Web記事版(ブログ、採用ページ、会社紹介):
- 目的: 読者が自分のペースで読む形式。
- 設計のコツ:
- 主人公を「読者自身」に置き換える
- WHY: 読者の課題に共感「こんなことで困っていませんか?」
- 葛藤+旅: 「私たちも同じでした。そこで…」
- 変容: 顧客事例として、読者の未来を示す
- ビジョン: 「一緒に」ではなく、「あなたも」と呼びかけ
- Webストーリーテリングでは、読者が「自分ごと化」しやすいよう、冒頭で読者の課題を明示し、「あなたの物語」として語る工夫が効果的です。
ミニワーク:自社の「今必要な要素」を決める
ここで一度、自社のストーリーに今必要な要素が何かを簡易的に評価してみましょう。
- 各要素の重要度を評価: 7つの要素(主人公、WHY、葛藤、旅、価値観、変容、ビジョン)それぞれについて、自社のブランドにとっての「現在の重要度」を1(低い)〜5(高い)で評価します。
- 各要素の表現度を評価: 次に、現在公開している会社紹介や採用情報などで、その要素が「どの程度表現されているか」を1(低い)〜5((高い)で評価します。
- 強化ポイントを特定: 「重要度が高いのに表現度が低い要素」こそが、今あなたが強化すべきストーリーテリングのポイントです。例えば、「WHY」の重要度が5なのに表現度が1であれば、創業の想いを掘り下げて語るべきタイミングだと言えるでしょう。
この簡単なワークを通じて、漠然とした「ストーリーを作りたい」という思いを、具体的なアクションプランに落とし込むことができます。
ブランドのストーリーを、型にはめて効果的に構成したい方は、「読者の心を掴む!ブランドストーリーの書き方|19年経営のプロが教える7つの感情ライティング術」も参考にしてみてください。また、ストーリーの構成要素をより深く理解することで、プレゼンや企画書作成にも役立つでしょう。
第4章 7要素チェックリスト:自社ストーリーを診断する
ここまで7要素を学んできましたが、実際に自社のストーリーがどこまでできているかを診断しないと、改善につながりません。この章では、7要素チェックリストを使って、自社ストーリーをセルフ診断する方法を解説します。
4-1 チェックリストの使い方
- ステップ1:現状の文章を用意
- 既存の会社紹介、採用ページ、プレゼン資料など
- ステップ2:各要素の有無を確認
- 7要素それぞれについて、「明示されているか?」をチェック
- ステップ3:弱い要素を特定
- ◎(十分)、◯(あるが弱い)、△(曖昧)、×(なし)で評価
- ステップ4:優先順位をつけて改善
- まずは「×」を「△」に、次に「△」を「◯」に
ブランド監査テンプレートの事例では、自己評価と競合評価を組み合わせる構成で、監査項目は少なくとも32項目、競合数を増やすと最大で約60項目まで拡張される形になっています(参考:Column Five|2020|Brand Audit Template)。本チェックリストもこれらの要素を凝縮し、より実務で使いやすく構成しています。
4-2 7要素チェックリスト(詳細版)
以下のチェックリストを使って、自社ストーリーを評価してみましょう。
- 要素1:主人公
- 誰の視点で語られているか明確か?
- 主人公は一人(または一つのグループ)に絞られているか?
- 読者・聞き手が主人公に感情移入できるか?
- 要素2:WHY
- 「なぜ始めたか」が明示されているか?
- 手段・目標ではなく、本質的な動機が語られているか?
- WHYが利他的(顧客・社会のため)か?
- 要素3:葛藤
- 具体的な困難・壁が語られているか?
- 葛藤が「乗り越える価値のあるもの」として描かれているか?
- 失敗やネガティブな感情も正直に語られているか?
- 要素4:旅
- 葛藤をどう乗り越えたかのプロセスが具体的か?
- 転機となるエピソードが含まれているか?
- 小さな成功と失敗の積み重ねが感じられるか?
- 要素5:価値観
- 行動の判断基準となる信念が明示されているか?
- 業界の常識に対する「でも私たちは…」があるか?
- 譲れない一線が具体的なエピソードで示されているか?
- 要素6:変容
- Beforeが具体的に描写されているか?
- Afterとの差が明確か?(数値・状況・感情)
- 変容がポジティブな未来につながっているか?
- 要素7:ビジョン
- 10年後のありたい姿が語られているか?
- スローガンではなく、具体的な情景として描かれているか?
- 読者・聞き手への「参加の呼びかけ」があるか?
評価基準: ◎(十分)、◯(あるが弱い)、△(曖昧)、×(なし)
| No. | 要素 | チェック項目 | 評価例 |
|---|---|---|---|
| 1 | 主人公 | 誰の視点で語られているか明確か? | ◎ |
| 読者・聞き手が主人公に感情移入できるか? | ◯ | ||
| 2 | WHY | 「なぜ始めたか」が本質的な動機で語られているか? | △ |
| WHYが利他的(顧客・社会のため)か? | ◯ | ||
| 3 | 葛藤 | 具体的な困難・壁が語られているか? | ◎ |
| 失敗やネガティブな感情も正直に語られているか? | × | ||
| 4 | 旅 | 葛藤を乗り越えたプロセスが具体的か? | △ |
| 転機となるエピソードが含まれているか? | ◯ | ||
| 5 | 価値観 | 行動の判断基準となる信念が明示されているか? | ◯ |
| 譲れない一線がエピソードで示されているか? | △ | ||
| 6 | 変容 | Before→Afterの差が明確か?(数値・状況・感情) | ◎ |
| 変容がポジティブな未来につながっているか? | ◯ | ||
| 7 | ビジョン | 10年後のありたい姿が具体的に描かれているか? | △ |
| 読者・聞き手への「参加の呼びかけ」があるか? | × |
4-3 診断結果の活かし方
診断結果をもとに、自社ストーリーの弱点を特定し、具体的な改善アクションへつなげましょう。
- パターンA:主人公・WHY・葛藤が弱い→ ストーリーの土台が不安定です。まずはこの3要素を強化しましょう。創業者インタビューや、社員座談会を実施して、原体験を掘り起こすのが有効です。
- パターンB:旅・変容が弱い→ 結果だけ語り、プロセスが見えない状態です。「どう乗り越えたか」の具体的なエピソードを追加しましょう。年表を作り、転機となった出来事を書き出すと整理しやすくなります。
- パターンC:価値観・ビジョンが弱い→ 行動は見えるが、「なぜそう判断したか」「これからどうしたいか」が不明瞭です。経営層と価値観を言語化するワークショップを実施し、ビジョンを具体的な情景として描き直しましょう。
- パターンD:全体的に薄い→ 各要素はあるが、深みがない状態です。各要素に「具体的なエピソード1つ」を追加することから始めましょう。数値、固有名詞、五感描写を入れると、リアリティが増します。
本記事で学んだチェックリストを活用し、自社のブランドストーリーを具体的に形にしたい方は、以下の記事も参考になります。
- ゼロからストーリーを組み立てる具体的な手順は ブランドストーリーの作り方:5ステップで響く物語を作る方法 で詳しく解説しています。
- 感情を動かす文章テクニックを学びたい方は、「年表を「売れる物語」に変える!企業ストーリーの作り方5ステップ|採用・営業で響くプロの秘訣」をご覧ください。
第5章 まとめ・次のアクション
本記事では、ブランドストーリーに必要な7つの要素(主人公・WHY・葛藤・旅・価値観・変容・ビジョン)を解説しました。
5-1 要点の再確認
- 7要素は独立していない:時間軸(過去→現在→未来)と深さ軸(行動→動機→信念)の2軸で整理され、相互に補強し合います。
- 用途に応じた濃淡調整:30秒版は「主人公+WHY+変容」、3分版は「葛藤+旅」を追加、10分版は全要素を展開。Web版は読者を主人公にします。
- セルフ診断で弱点を特定:7要素チェックリストを使い、◎◯△×で評価。まずは「×」を「△」にすることから始めましょう。
5-2 次の一歩
本記事で学んだ7要素を実務に活かすには、以下のステップをお勧めします:
- ステップ1:現状診断
既存の会社紹介文、採用ページ、プレゼン資料に対して、7要素チェックリストを実施。弱い要素を特定します。 - ステップ2:要素の強化
弱い要素について、創業者インタビューや社員座談会を実施し、具体的なエピソードを集めます。 - ステップ3:用途別に再構成
30秒版、3分版、10分版、Web版それぞれに、7要素を配分し直します。 - ステップ4:社内共有
経営層、広報、採用担当で7要素チェックリストを共有し、「うちのストーリーはどう語るべきか?」を議論します。 - ステップ5:実践と改善
実際に使ってみて、反応を見ながら改善。特に採用面接やプレゼンで、「どこが響いたか?」をヒアリングしましょう。
5-3 関連記事への導線
ブランドストーリーをさらに深く学びたい方には、以下の記事もお勧めです:
- ブランドストーリーテリング完全ガイド:ストーリーテリングの全体戦略を俯瞰
- ブランドストーリーの作り方:5ステップで響く物語を作る方法:ゼロから作る具体的な手順
また、以下の記事も近日公開予定です。
- 「なぜあの会社は売れる?ブランドストーリー事例15選【5要素フレームで成果に落とし込む4ステップ】」: 心理学的な裏付け
- 「年表を「売れる物語」に変える!企業ストーリーの作り方5ステップ|採用・営業で響くプロの秘訣」: 書き方のテクニック
- 「読者の心を掴む!ブランドストーリーの書き方|19年経営のプロが教える7つの感情ライティング術」: 企業理念との統合
また、ダウンロード素材として「ブランドストーリー7要素セルフチェックシート」(Googleスプレッドシート)を用意しています。経営会議や採用チームとの共有に、ぜひご活用ください。
FAQ
Q1:ブランドストーリーの要素は「7つ」じゃないとダメですか?
A:いいえ、7つは絶対ではありません。
他のフレームワークでは、3要素(主人公・葛藤・解決)、5要素(起・承・転・結+メッセージ)、8要素、10要素など、さまざまな整理が提案されています。
本記事で「7要素」としているのは、以下の理由からです:
- 最低限の必須要素(主人公・WHY・葛藤・変容)を網羅
- 実務で差がつく要素(旅・価値観・ビジョン)を追加
- 中小企業が用途に応じて濃淡調整できる
つまり、7要素は「中小企業が実務で使いやすい」ように整理したバージョンです。もっと詳しい理論を学びたい方は、ヒーローズジャーニー(12ステップ)や、ストーリーブランディングの専門書を参照されることをお勧めします。
Q2:BtoBでも7要素は必要ですか?
A:はい、BtoBでもブランドストーリーは有効です。
ただし、要素の置き換えが必要です:
- 主人公:「創業者」ではなく「顧客担当者」を主人公に
- 葛藤:「起業時の苦労」ではなく「導入前の課題」
- 変容:「会社の成長」ではなく「業務改善・評価向上」
BtoBでは、「可愛い」「感動」よりも、「信頼」「実績」「合理性」が重視されます。そのため、価値観やビジョンよりも、「葛藤・旅・変容」(具体的な課題解決プロセス)を厚く語ることが効果的です。
また、BtoBストーリーでは、「数値の変化」(Before:受注ミス月10件 → After:月1件)を明示することで、説得力が大幅に向上します。
Q3:小さな会社で、ドラマチックな話がない場合は?
A:大きなドラマは不要です。「小さな葛藤・小さな変化」を積み上げることが響きます。
19年の実務経験から言えば、「年商100億の上場企業になりました」より、「初めての顧客が『ありがとう』と言ってくれた日」のほうが、共感を生むことが多いんです。
小さな会社でも語れること:
- 創業時の「なぜこれをやろうと思ったか」(WHY)
- 最初の顧客を獲得するまでの試行錯誤(旅)
- 「この仕事で大切にしていること」(価値観)
- お客様の「Before→After」(変容)
むしろ、大企業のような「壮大な成功物語」よりも、中小企業の「地に足ついた物語」のほうが、同じような規模の企業や個人顧客には響きやすいです。
ポイントは、「出来事の大きさ」ではなく「感情の深さ」で語ること。「初受注の嬉しさ」「失敗したときの悔しさ」「顧客の笑顔」—こうした感情を丁寧に描けば、小さなエピソードでも十分に心を動かせます。
