なぜあの会社は売れる?ブランドストーリー事例15選【5要素フレームで成果に落とし込む4ステップ】

「なぜあの会社の動画は何度も見たくなるのに、うちのLP(ランディングページ)は一度見て終わりなのか?」

19年間WEBマーケティングの現場で仕事をしていて、この問いに何度向き合ったか分かりません。同じような商品、同じような価格帯なのに、ある企業の動画やストーリーは自然とSNSで共有され、別の企業は「お知らせ」で終わってしまう。

実際、AppleやNikeといった企業を思い浮かべてみてください。彼らの広告やブランドコミュニケーションには、いつも「物語」があります。ただスペックを並べるのではなく、顧客の人生や価値観と結びついたストーリーを語っています。学術的な調査でも、回答者の63%が視覚的なストーリーテリングが購買意思決定に影響を与えると回答しており、物語が単なるイメージだけでなく、実際の行動につながる可能性が示唆されています(参考:Frontiers in Communication|2025|N=231の横断調査)。

でも、多くの中小企業の担当者から聞くのは、こんな声です。

  • 「うちも会社紹介ページを作ったけど、ただの沿革説明になってしまった」
  • 「良い事例を探しても、海外の有名ブランドばかりで、自社にどう当てはめれば良いのか分からない」
  • 「上司から『うちのストーリーを作って』と言われたが、そもそも何を見本にすれば良いのか曖昧」

これ、実は私自身もクライアントから相談を受けるたびに感じていた課題です。「良いブランドストーリー」の事例はたくさんあるけれど、「なぜ良いのか」「どの部分を自社に応用できるのか」が整理されていないんですね。

そこで当編集部では、世界的エンタメ企業で35年間にわたりブランドマネジメントに携わった専門家の知見をもとに、ブランドストーリーを構造的に理解するフレームワークを整理しました。それが「主人公・葛藤・旅・ガイド・変容の5要素」という分析軸です。

本記事では、この5要素フレームを使って、世界的ブランドから国内大企業、そして中小企業まで、合計15のブランドストーリー事例を読み解いていきます。ただ「なんとなく眺める」のではなく、以下のような構成で、実務に活かせる「型」として整理します。

  • ①事例の要約:どんなストーリーなのか
  • ②5要素での構造分析:なぜ心に残るのか
  • ③中小企業でも真似できるポイント:自社に何を転用できるか

さらに、15事例を分析した結果見えてきた4つのストーリーパターンも紹介します。そして最後に、これらの事例から学んだことを「自社ストーリーに落とし込む4ステップ」として、実践可能な形でお届けします。

記事の流れはこうです:

  • 第1章:事例の「読み方」と評価軸
  • 第2章:グローバルブランド事例(5選)
  • 第3章:国内大企業事例(5選)
  • 第4章:中小企業・地域・スタートアップ事例(5選)
  • 第5章:15事例から見えた4つのストーリーパターン
  • 第6章:自社ストーリーに落とし込む4ステップ

なお、ブランドストーリーテリングの全体像や理論的な背景を先に知りたい方は、ピラー記事の「なぜあのブランドは選ばれる?35年プロの知見で顧客を動かすブランドストーリーテリング8要素×5ステップ」をご覧ください。作り方の具体的な5ステップは「響かない悩みを解決!ブランドストーリーの作り方【19年プロの5ステップとワークシート】」で、書き方・文章化の実務は「ブランドストーリーの書き方」(記事No.34・近日公開予定)で詳しく解説しています。

それでは、まず第1章で「事例をどう読み解くか」という評価軸から見ていきましょう。

目次

第1章:事例の「読み方」と評価軸

1-1 事例を読み解く「5要素フレーム」とは

事例を読み解く際に使用するのが、5要素フレームです。これは実務的なストーリーテリング理論を、ブランドマーケティングの文脈に適用したものです。

5つの要素

  1. 主人公(ヒーロー):誰の物語か
  2. 葛藤(コンフリクト):何と戦うのか
  3. 旅(ジャーニー):どんなプロセスか
  4. ガイド(企業):誰が導くのか
  5. 変容(トランスフォーメーション):どう変わるのか

この5要素は、ヒーローズジャーニーやゴールデンサークルといった物語理論と整合性を持つ実務的なフレームワークです。

1-2 なぜ事例から「構造」を学ぶ価値があるのか

ブランドストーリーの事例を学ぶ前に、まず「なぜストーリーがこれほど強力なのか」を押さえておく必要があります。

学術的な調査では、視覚的なストーリーテリングが購買意思決定に影響を与えると回答した割合は63%、色が記憶保持を高めると回答した割合は87.9%という結果が報告されています(参考:Frontiers in Communication|2025|N=231の横断調査)。ただし、この調査は便宜抽出・自己報告の横断調査であり、因果関係の証明や大規模な一般化には限界があることに留意が必要です。

また、多くの実務家が、ストーリーが感情的なつながりを生み、ブランドへの記憶を強化することを実感しています。つまり、ストーリーは単なる「感覚的に良いもの」ではなく、記憶定着や購買意図といった実務的な成果に繋がる可能性を秘めているのです。

近年の神経科学研究では、人間がストーリーを聞くと、脳の「扁桃体(感情)」や「内側前頭前皮質(自己参照)」が活性化することが分かっています。このデータから、専門家として言えるのは、優れたブランドストーリーは単なる情報伝達ではなく、顧客の脳内で『これは自分の物語だ』という体験を作り出す行為であるということです。これにより、スペックの比較を超えた強いブランド選好が生まれ、価格競争から脱却する源泉となるのです。

だからこそ、優れたブランドストーリーの事例を「構造」で理解することが重要になります。センスや才能ではなく、再現可能な型として学ぶことで、中小企業でも実践できるようになります。

1-3 【補足】5要素フレームと一般理論の関係

5要素フレームは、実は世界的に通用する物語理論の文脈に位置づけられます。

ヒーローズジャーニーは、顧客を”ヒーロー”に据える12ステップ構成で、自社は『メンター』として顧客の課題解決を支援する役割を担います(参考:note(ピコズノート)|ヒーローズ・ジャーニーで築く最強ブランド|2025)。

ゴールデンサークルは、Why/How/Whatの3層モデルとして知られ、ブランドの本質から始めることの重要性を示しています(参考:bizdev.reinforz|ゴールデンサークル理論で企業はどう変わるか|2025)。

ある業界調査では、回答者の70%がブランドナラティブにストーリーテリングを組み込んでいると報告され、96.7%がストーリーテリングを少なくとも中程度に重要と見なしています(参考:aim-b2b.com|2025|調査n=60)。ただし、サンプル数が小さいため、この数値の代表性には注意が必要です。

本記事では、これらの理論を背景に持ちながら、中小企業でもすぐに実践できる形に落とし込んでいきます。

第2章:グローバルブランド事例5選

2-1 Apple:創業ストーリー型の典型例

概要
Appleのブランドストーリーは、スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックがガレージで始めたコンピュータ革命の物語として語られます。「Think Different」というスローガンは、単なる製品機能ではなく、創造性と革新性という価値観を体現しています。

5要素での構造分析

  • 主人公:クリエイターや革新者(顧客自身)
  • 葛藤:既成概念に縛られた世界 vs 新しい発想
  • :ガレージからの挑戦→追放→復活→世界的企業へ
  • ガイド:Apple(ツールとインスピレーションを提供)
  • 変容:「違う考え方」を持つことで、世界を変える人になる

中小企業でも真似できるポイント
創業ストーリーは、大企業だけのものではありません。「なぜこの事業を始めたのか」という原体験を、顧客の課題と結びつけて語ることで、小規模でも強力なストーリーになります。
19年の経験から言えば、中小企業の強みは特に以下の点にあります。

  • 強み① 創業者の顔が見える: 大企業のように洗練されていなくても、その「生々しさ」が逆に信頼を生むことがあります。
  • 強み② 原体験の熱量: 「なぜこの事業を始めたのか」という問いの答えは、顧客の課題と結びつく強力なフックになります。

2-2 Nike:顧客変容ストーリー型

概要
Nikeのストーリーは、「Just Do It」に象徴されるように、顧客のBefore→Afterを描きます。運動能力に関わらず、「挑戦する全ての人がアスリートだ」というメッセージは、顧客自身を主人公にしたストーリーです。

5要素での構造分析

  • 主人公:挑戦する全ての人
  • 葛藤:自己の限界や言い訳 vs やり遂げたい気持ち
  • :「できない」から「やってみる」へ
  • ガイド:Nike(背中を押す存在)
  • 変容:行動することで自分を超える

中小企業でも真似できるポイント
顧客の「Before→After」を具体的に描くことは、サービス業やBtoBでも有効です。顧客事例を「導入前の課題→導入後の成果」として物語化するだけで、単なるスペック説明より強力なメッセージになります。

2-3 Patagonia:理念実現ストーリー型

概要
Patagoniaは「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」という理念を、製品づくりから企業活動まで一貫して体現しています。環境保護という社会的使命が、ブランドストーリーの核です。

5要素での構造分析

  • 主人公:地球環境を大切にする人々
  • 葛藤:大量消費社会 vs 持続可能な未来
  • :環境負荷を減らす製品づくり→リペアサービス→政治的アクション
  • ガイド:Patagonia(実践者として導く)
  • 変容:消費者が「地球を守る仲間」になる

中小企業でも真似できるポイント
社会的使命は、規模に関係なく語れます。地域の課題解決、特定のコミュニティ支援、環境配慮など、自社なりの「正義」を明確にすることで、同じ価値観を持つ顧客と深くつながることができます。

2-4 Dove:内的葛藤のストーリー

概要
Doveの「Real Beauty」キャンペーンは、「本当の美しさとは何か」という問いを投げかけます。広告モデルではなく、普通の女性を起用することで、美の固定観念と戦う物語を作り上げました。

5要素での構造分析

  • 主人公:自分の美しさに悩む女性たち
  • 葛藤:メディアが作り上げた「理想」 vs ありのままの自分
  • :自己否定から自己受容へ
  • ガイド:Dove(美の再定義を提案)
  • 変容:「自分も美しい」と認識できるようになる

中小企業でも真似できるポイント
顧客の内的な葛藤—コンプレックス、不安、自己イメージ—に寄り添うストーリーは、美容・教育・人材系ビジネスで特に有効です。「あなたは今のままで価値がある」というメッセージは、規模に関係なく伝えられます。

2-5 Starbucks:第三の場所・コミュニティ系

概要
Starbucksは、コーヒーを超えた「場・コミュニティ」の物語を語ります。「家でも職場でもない第三の場所」というコンセプトは、店舗体験そのものがストーリーになっています。

5要素での構造分析

  • 主人公:日常に「居場所」を求める人々
  • 葛藤:忙しさや孤独感 vs つながりと安らぎ
  • :一人で訪れる→常連になる→コミュニティの一員に
  • ガイド:Starbucks(場を提供し、体験を設計)
  • 変容:「いつもの場所」を持つ安心感

中小企業でも真似できるポイント
店舗を持つ中小企業—飲食・サロン・小売—は、「場所×ストーリー」で常連客を増やせます。商品だけでなく、「ここに来ると安心する」「仲間がいる」という感情を設計することが、リピート率向上につながります。

第3章:国内大企業のブランドストーリー事例5選

3-1 サントリー:水と自然・人とのつながりのストーリー

概要
サントリーは、「水と生きる」をテーマに、天然水・森づくり・自然保護の取り組みを一貫したストーリーとして語っています。製品だけでなく、企業活動全体が「自然との共生」という理念を体現しています。

5要素での構造分析

  • 主人公:自然の恵みを享受する私たち
  • 葛藤:環境破壊 vs 持続可能な共生
  • :水源の森を守る→製品として届ける→次世代へつなぐ
  • ガイド:サントリー(自然の価値を伝え、守る)
  • 変容:消費者が「自然を大切にする生活」を選ぶ

中小企業でも真似できるポイント
地域資源を扱う企業—農業・観光・地場産品—は、「地域・自然」との関係性を物語化できます。「この土地の恵みを、どう守り、どう伝えるか」という視点でストーリーを作ることで、単なる商品説明を超えた価値を伝えられます。

3-2 自動車メーカー:モビリティと挑戦のストーリー

概要
国内自動車メーカーの中には、オリンピック・パラリンピックと連動し、「移動の自由」「挑戦する人々」を描くストーリーを展開している企業があります。製品スペックではなく、「移動が人生を変える」というメッセージです。

5要素での構造分析

  • 主人公:移動に制約を感じる人々、挑戦する人々
  • 葛藤:物理的・心理的な移動の壁 vs 自由への渇望
  • :「動けない」から「動ける」へ、「諦めていた」から「挑戦できる」へ
  • ガイド:自動車メーカー(技術で可能性を広げる)
  • 変容:移動が当たり前になり、新しい挑戦ができるようになる

中小企業でも真似できるポイント
製造業・ものづくり企業は、製品スペックではなく「使う人の未来」を描くストーリーへ転換できます。「この製品が、顧客の人生をどう変えるか」を語ることで、単なる機能訴求を超えたブランディングが可能になります。

3-3 リクルート系:人生の転機と情報サービスのストーリー

概要
リクルートグループの各サービスは、進学・就職・結婚・住まいなど、人生の節目に寄り添うストーリーを持っています。情報提供ではなく、「人生の友達」としてのブランド像を築いています。

5要素での構造分析

  • 主人公:人生の転機を迎える人々
  • 葛藤:不安や迷い vs 前に進みたい気持ち
  • :情報を集める→比較する→決断する→新しい人生へ
  • ガイド:リクルート(選択肢を示し、背中を押す)
  • 変容:不安が自信に変わり、一歩を踏み出せる

中小企業でも真似できるポイント
BtoBサービスでも、「顧客企業の人生(事業の転機)」に寄り添うストーリーは作れます。新規事業・組織変革・デジタル化など、企業が直面する「転機」をサポートする存在として自社を位置づけることで、単なるサービス提供者を超えた関係性を築けます。

3-4 ユニクロ/無印良品:日常生活のストーリー

概要
ユニクロの「LifeWear」、無印良品の「これでいい」は、日常生活全体をデザインするストーリーです。特別な商品ではなく、「ちょうどいい暮らし」を提案しています。

5要素での構造分析

  • 主人公:シンプルで心地よい暮らしを求める人々
  • 葛藤:過剰な選択肢や装飾 vs 本質的な心地よさ
  • :迷いの多い消費→必要なものだけを選ぶ暮らしへ
  • ガイド:ユニクロ/無印良品(シンプルの価値を提示)
  • 変容:「これでいい」と思える心の安定

中小企業でも真似できるポイント
小売・サービス業は、「商品単体」ではなく「暮らし全体」の文脈に自社を位置付けられます。「この商品がある生活はどんなものか」を描くことで、単なる機能訴求を超えたブランド体験を提供できます。

3-5 地方鉄道・インフラ系:地域とつながるストーリー

概要
ローカル線や地域インフラの中には、「この路線が地域の人生を支えてきた」というストーリーを持つ企業があります。移動手段を超えた、地域の記憶と未来をつなぐ存在として描かれます。

5要素での構造分析

  • 主人公:地域に暮らす人々、地域を訪れる人々
  • 葛藤:人口減少や高齢化 vs 地域の未来への希望
  • :通学・通勤・生活の足→地域の風景の一部→次世代への継承
  • ガイド:鉄道会社(地域の絆を守り、つなぐ)
  • 変容:「この路線があるから、ここで暮らせる」という安心感

中小企業でも真ねできるポイント
インフラ・教育・BtoBサービスなど、無形サービスでも物語化は可能です。「私たちのサービスが、顧客の日常や事業をどう支えているか」を時系列で描くことで、見えにくい価値を可視化できます。

第4章:中小企業・地域・スタートアップのブランドストーリー事例5選

4-1 家業の承継と再ブランド化ストーリー

概要
三代目が醤油蔵や工務店などの家業を継ぎ、新しいコンセプトでブランドを再構築するケースが増えています。「伝統を守りながら、時代に合わせて進化する」という葛藤が、強力なストーリーになります。

5要素での構造分析

  • 主人公:家業を継ぐ後継者と、それを支える地域
  • 葛藤:伝統への敬意 vs 時代の変化への適応
  • :家業を継ぐ決断→古い仕組みの見直し→新しい顧客層の獲得
  • ガイド:先代の教えと、新しい視点の融合
  • 変容:老舗が「新しい定番」として再認識される

中小企業でも真似できるポイント
家業・中小製造業・老舗飲食店は、過去〜現在〜未来を一つの物語として語れます。「変えたもの/守ったもの」を明確にすることで、伝統と革新の両立を説得力を持って伝えられます。

4-2 ローカルベーカリー/カフェ:町の課題解決ストーリー

概要
空き店舗を再生して地域の居場所を作ったストーリーなど、地域課題と事業を結びつけたケースです。「美味しいパンを売る」だけでなく、「ここに来ると誰かとつながれる」という価値を提供しています。

5要素での構造分析

  • 主人公:地域に居場所を求める人々
  • 葛藤:コミュニティの希薄化 vs つながりへの渇望
  • :偶然の来店→常連化→地域の「仲間」になる
  • ガイド:店主(場と機会を提供)
  • 変容:孤独感が和らぎ、地域での居場所ができる

中小企業でも真似できるポイント
地域課題×小商いの事例は、地方の中小企業・個人事業主に特に参考になります。「商品を売る」だけでなく、「地域の困りごとを解決する」という視点でストーリーを構築すると、共感が生まれやすくなります。

4-3 BtoBスタートアップ:業界の非効率を変えるストーリー

概要
業務DX・SaaSなどが「旧来の慣習」と戦うストーリーです。「この業界の、この非効率をなんとかしたい」という創業者の原体験が、顧客の共感を呼びます。

5要素での構造分析

  • 主人公:非効率に悩む業界の人々
  • 葛藤:古い仕組みや慣習 vs 効率化と働き方改革
  • :手作業・紙ベース→試行錯誤→デジタル化の実現
  • ガイド:スタートアップ(新しいツールと方法論を提供)
  • 変容:業務が効率化され、本質的な仕事に集中できるようになる

中小企業でも真似できるポイント
既存産業に挑むスタートアップ・ベンチャーは、「敵=人ではなく、古い仕組み」に設定することで、顧客と一緒に戦う構図を作れます。批判的にならず、「もっと良い方法があるはず」という前向きなトーンが重要です。

4-4 福祉・医療・NPO系:誰かの生活を支えるストーリー

概要
利用者の尊厳や生活改善をテーマにしたストーリーです。福祉サービスやNPO活動は、「Before→After」が明確で、強力な変容のストーリーを持っています。

5要素での構造分析

  • 主人公:支援を必要とする人々とその家族
  • 葛藤:社会的な孤立や困難 vs 尊厳ある生活への願い
  • :サービスとの出会い→信頼関係の構築→生活の質の向上
  • ガイド:福祉団体/医療機関(専門性と寄り添いを提供)
  • 変容:「生きていて良かった」と思える瞬間の創出

中小企業でも真ねできるポイント
ただし、実在人物が特定されないように、年代・属性のみに留めることが重要です。写真使用時の同意も必須。福祉・医療・教育分野では、倫理面への配慮を最優先にしながら、抽象度を上げて「こんな変化が起きる」と語る方法が安全です。

4-5 EC・D2Cブランド:個人の価値観発信ストーリー

概要
個人発のブランド(エシカル商品、クラフト系)で、創業者ストーリーを前面に出している事例です。「こんな世界を作りたい」という創業者の価値観が、ブランドそのものになっています。

5要素での構造分析

  • 主人公:創業者自身&同じ価値観を持つ顧客
  • 葛藤:大量生産社会 vs 丁寧なものづくり
  • :個人の「こうありたい」→商品化→共感者が増える
  • ガイド:創業者(生き方を示す)
  • 変容:顧客が「自分もこう生きたい」と行動を変える

中小企業でも真似できるポイント
個人事業主・小規模ブランドは、自分の生き方とブランドの思想を重ねられます。ただし、自己満足にならないよう、「顧客視点とのバランス」が重要です。「私はこう思う」だけでなく、「あなたにとってどんな価値があるか」を常に示す必要があります。

第5章:15事例から見えた4つのストーリーパターン

15の事例を分析した結果、ブランドストーリーは大きく4つのパターンに分類できることが分かりました。

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パターン特徴(WHYの源泉)向いている企業中小企業の活用ポイント
① 創業/原体験型創業者の問題意識や原体験創業者の個性が強い、歴史がある、明確な転機を持つ企業「なぜ始めたか」を顧客の課題解決と結びつけ、創業者の顔が見える信頼感を活かす。
② 顧客変容型顧客のBefore→Afterの変化サービス業、教育・コンサル系、B2Bソリューション企業顧客事例を「導入前の具体的な課題」と「導入後の成果」で物語化し、サービスの価値を伝える。
③ 理念実現型社会的使命や守るべき価値観社会課題解決を目指す、SDGs/ESGを重視する企業地域課題や環境配慮など、自社の「正義」を明確にし、同じ価値観を持つ顧客との深い共感を形成する。
④ 日常共感型日常生活に寄り添うブランド人格小売、飲食、地域密着型サービスなど、顧客との接点が多い企業「特別な日」でなく「いつもの安心」を提供。「この商品がある暮らし」を描き、生活の一部になることを目指す。
本記事第5章の分析に基づき編集部作成

自社の成り立ちや提供価値がどのパターンに近いかを意識することで、ストーリーの方向性が明確になります。

5-1 パターン① 創業/原体験ストーリー型

定義創業者の原体験・問題意識から始まるパターン。WHYから始める考え方と一致します。

該当事例

  • Apple
  • Patagonia
  • 家業承継
  • 中小D2C

向いている企業

  • 創業者のキャラが立っている
  • 歴史がある(逆に歴史が浅くても原体験が強烈なら可)
  • 転機が明確

中小企業での活用ポイント
創業ストーリーは、規模に関係なく語れます。大切なのは、「なぜこの事業を始めたのか」を、顧客の課題と結びつけること。単なる自己紹介ではなく、「この原体験が、あなたの問題解決につながる」という構造にすることです。

【深掘りコラム】「良い話」と「効くストーリー」は違う。陥りがちな自己満足の罠とは?
多くの企業がブランドストーリーを作る際、「感動的な創業秘話」や「社会貢献活動」を語りがちです。それ自体は素晴らしいことですが、顧客不在の「良い話」で終わっていませんか?
重要なのは、その物語の主人公が誰か、です。創業者の苦労話がどんなに感動的でも、顧客がそこに自分の姿を重ねられなければ、それは「他人の物語」に過ぎません。
本当に『効くストーリー』では、常に以下の視点が重要です。

5-2 パターン② 顧客変容ストーリー型

定義顧客のBefore→Afterを軸にしたパターン。顧客が主人公です。

該当事例

  • Nike
  • Dove
  • 福祉・教育系
  • BtoBスタートアップ

向いている企業

  • サービス型
  • 習慣改善、行動変容を促す
  • BtoBコンサル・DX系

中小企業での活用ポイント
顧客事例を「Before→After」の物語として語ることで、サービスの価値が伝わりやすくなります。ポイントは、具体的な「Before」を描写すること。「課題があった」だけでなく、「どんな状態で、何に困っていたか」を詳しく語ることで、共感が生まれます。

5-3 パターン③ 理念実現ストーリー型

定義理念を具体的行動に落とすパターン。約束と原則の一貫性が鍵です。

該当事例

  • Patagonia
  • サントリー
  • 社会課題系スタートアップ

向いている企業

  • 社会的使命を掲げている
  • SDGs・ESG文脈を重視する企業

中小企業での活用ポイント
理念実現型は、規模に関係なく強力です。地域の課題解決、環境配慮、特定コミュニティ支援など、「私たちは何のために存在するのか」を明確にすることで、同じ価値観を持つ顧客と深くつながれます。

5-4 パターン④ 日常共感ストーリー型

定義日常の小さなシーンにブランドの性格をにじませるパターン。ブランドパーソナリティが中心です。

該当事例

  • Starbucks
  • ユニクロ/無印
  • 中小のローカルカフェ

向いている企業

  • 暮らし・日常接点が多い
  • 小売/飲食/サービス業

中小企業での活用ポイント
日常共感型は、BtoC小規模事業に特に向いています。「毎日使う」「いつもの場所」という文脈で、ブランドを顧客の生活の一部にすることができます。ポイントは、「特別」を狙わず、「いつもの安心」を提供すること。
また、ブランドアーキタイプ(12原型)という思考法を使うと、ブランドの人格を「英雄」「魔術師」「賢者」といった12の典型的なキャラクターに分類できます。本記事の事例に当てはめると、Nikeは「英雄」、Doveは「普通の人」、Appleは「創造主」といった人格が見えてきます。この視点を加えることで、各ストーリーがなぜその「口調」や「世界観」を持つのかを深く理解でき、自社ブランドの人格設定にも応用できます。

5-5 まとめ:自社は4つのパターンのどれに近いか?

自社はどのゾーンに近いか?この問いに答えることで、ストーリーの方向性が見えてきます。
Patagoniaのように①創業/原体験型と③理念実現型を組み合わせるなど、複数のパターンを融合させることも有効です。

第6章:事例を自社ブランドストーリーに落とし込む4ステップ

ここまで15事例と4パターンを見てきました。では、これを自社のブランドストーリーにどう落とし込むか。4つのステップで整理します。

この流れに沿って、まずは自社に眠る「ストーリーの種」を見つけることから始めましょう。

6-1 Step1:自社の現状と資源を棚卸しする

まず、自社にどんな「ストーリーの種」があるかを棚卸しします。

チェックリスト例

  • 創業の原体験・転機:なぜこの事業を始めたのか
  • 顧客がよく口にする「ありがとう」の言葉:どんな瞬間に感謝されるか
  • 社内でよく語られるエピソード:社員が誇りに思っている出来事
  • 大切にしている価値観:譲れない信念
  • 顧客のBefore→After:顧客がどう変わったか

これらを付箋やスプレッドシートに書き出してみてください。一人でも良いですが、複数人でブレストすると、意外な「種」が見つかります。

簡易ワーク:「誰にどんな約束をしているビジネスか」

  1. 誰に:(ターゲット顧客)
  2. どんな約束:(提供する価値)
  3. なぜそれが重要:(WHY)

これを1枚の紙にまとめるだけで、ストーリーの輪郭が見えてきます。

6-2 Step2:4パターンからメインの型を選ぶ

Step1で棚卸しした「種」を見ながら、4パターンのどれをメインにするか決めます。

簡易診断フロー

  1. 資産が「創業話」に強く偏っている → パターン①(創業/原体験型)
  2. 顧客の変化エピソードが豊富 → パターン②(顧客変容型)
  3. 社会的使命・理念が明確 → パターン③(理念実現型)
  4. 日常接点が多く、小さな体験の積み重ね → パターン④(日常共感型)

複数のパターンが混ざることもありますが、メインを1つ決めることで、ストーリーの軸がブレなくなります。
より具体的な作り方の手順は、「響かない悩みを解決!ブランドストーリーの作り方【19年プロの5ステップとワークシート】」で5ステップで詳しく解説していますので、そちらも参照してください。

6-3 Step3:5要素でストーリー骨格を組み立てる

パターンが決まったら、5要素でストーリーの骨格を作ります。

簡易ワークシート:5要素ストーリーメモ

要素問いあなたのブランドのストーリーは?
主人公誰の物語ですか?(顧客、創業者、地域の人々など)〇〇な顧客/創業者(具体的に)
葛藤何と戦っていますか?(悩み、課題、社会問題など)□□という悩み・課題(具体的に)
どんなプロセスを辿りますか?(挑戦、行動、変革など)△△という挑戦・行動(具体的に)
ガイド誰が導きますか?(あなたのブランドの役割)当社が提供する□□(製品、サービス、哲学など)
変容最終的にどう変わりますか?(解決、成長、新しい世界など)最終的にどう変わるか(具体的な未来)

各要素を1文で書き出すだけでOKです。最初から完璧を目指さず、「とりあえず埋めてみる」ことが大切です。チームで共有して、「ここはもっと具体的に」「この表現は響くか」と議論することで、精度が上がります。

6-4 Step4:チャネルごとに語り方を設計する

ストーリーの骨格ができたら、最後は「どこで、どう語るか」を設計します。
統合コミュニケーション(IMC)の考え方を中小企業向けに簡略化すると、こうなります。

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チャネル尺/文字数目安重視する要素表現の工夫
コーポレートサイト1,000-2,000字全5要素(バランス)ブランドの公式な声として、信頼性のある文体で網羅的に語る。
採用ページ800-1,500字主人公+旅+変容候補者が「ここで働く自分」を想像できるよう、共感を重視した物語にする。
SNS(投稿)100-200字葛藤 or 変容最も感情が動く一部分を切り取り、短く、鋭く、視覚的に伝える。
動画(~3分)約450字相当旅+変容Before→Afterの変化を映像と音で感情的に見せ、視聴者の記憶に残す。
営業資料500-800字葛藤+ガイド+変容顧客の課題(葛藤)に対し、自社(ガイド)がどう解決(変容)するかを明確に提示する。
出典: Adverb Digital (n.d.)カゼニワのマーケティングコラム (n.d.) のIMC事例を参考に編集部作成

大切なのは、「同じストーリー」を「媒体に合わせて翻訳する」ことです。コピペではなく、各チャネルの特性に合わせて語り方を変えます。
SNSでの具体的な運用方法については、「ブランドストーリーSNS活用」(記事No.40・近日公開予定)も参照してください。効果測定の方法は「ブランドストーリー効果測定」(記事No.45・近日公開予定)で詳しく解説しています。

まとめ

本記事では、世界的ブランドから国内大企業、そして中小企業まで、合計15のブランドストーリー事例を5要素フレームで読み解きました。

要点の再確認

  • 良いブランドストーリーは「センス」ではなく、5要素(主人公・葛藤・旅・ガイド・変容)の構造で作れる
  • 15事例を分析した結果、4つのパターン(創業/原体験型、顧客変容型、理念実現型、日常共感型)が見えてきた
  • 自社に落とし込むには、①棚卸し→②パターン選択→③5要素で骨格作成→④チャネル展開という4ステップで進める

次のアクション
まずは、この記事で心に残った事例パターンを1つ選んでください。そして、この記事内の「簡易ワークシート:5要素ストーリーメモ」に、自社の仮ストーリーを書き出してみてください。
最初から完璧を目指す必要はありません。「とりあえず埋めてみる」→「チームで議論する」→「顧客の反応を見る」→「改善する」というサイクルを回すことで、ストーリーは育っていきます。

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「良いブランドストーリー=有名企業の真似」ではありません。自社と似たパターンの事例を見つけ、5要素で構造を理解し、4ステップで自社に翻訳する—この手順を繰り返すことで、規模に関係なく、心に響くストーリーを作ることができます。
ぜひ、今日から一歩を踏み出してください。

FAQ

Q1:自社に近い事例が見つからない場合は?

A:15事例の中に完全に一致する事例がなくても問題ありません。重要なのは「完全一致」ではなく、「どのパターンに近いか」を見つけることです。
例えば、BtoBの製造業なら:

  • パターン②(顧客変容型):「この製品が顧客の業務をどう変えたか」
  • パターン③(理念実現型):「業界の非効率をなくしたい」という使命

このように、業種が違っても、ストーリーの型は応用できます。
また、複数のパターンを組み合わせることも有効です。Patagoniaのように、「創業ストーリー(パターン①)」と「理念実現(パターン③)」を融合させる方法もあります。
まずは4パターンのうち、自社の強みが活きるものを1つ選び、そこから始めてみてください。

Q2:他社のストーリーを真似しても大丈夫?

A:「真似」の種類によります。
NG:表現・フレーズ・固有のストーリーをコピーこれは著作権侵害や、ブランドの独自性を損なうリスクがあります。
OK:構造・パターン・要素の組み合わせを学ぶ5要素フレームや4パターンは、「物語の普遍的な型」であり、これ自体に著作権はありません。
例えば、Nikeの「顧客変容型」のパターンを学び、自社のサービスで「Before→After」を描くのは、構造を学んだ応用です。これは全く問題ありません。
大切なのは、自社の文脈で語り直すことです。同じパターンでも、主人公(顧客)、葛藤(課題)、変容(成果)は、あなたの会社にしかないものになるはずです。

Q3:ストーリーは一度作ったら変えてはいけない?

A:いいえ、ストーリーは「育てるもの」です。
一度作ったストーリーが、そのまま永遠に使えるわけではありません。事業の成長、社会の変化、顧客の変化に応じて、ストーリーも進化させる必要があります。
ただし、コアの部分(WHY、価値観)は一貫性を保つことが重要です。表現や具体例は変わっても、「なぜこの事業をやっているのか」という根幹がブレると、ブランドの信頼が揺らぎます。
推奨は、年に1回、ストーリーを見直すこと。5要素メモシートを使って、「この1年で変わったこと」「新しく加えたい顧客事例」を整理し、ストーリーをアップデートします。
特に、顧客の変容事例は、定期的に新しいものに更新することで、ストーリーに「今」の説得力が生まれます。

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この記事を書いた人

当編集部は、世界的エンタメブランドでの実績を持つブランディング専門家の知見をもとに、実践的なブランドマネジメント情報を発信しています。

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