響かない悩みを解決!ブランドストーリーの作り方【19年プロの5ステップとワークシート】

「商品の品質には自信があるのに、なぜかお客様の心に響かない」——そんな悩みを抱えていませんか?

私がWEBマーケティング会社を経営して19年、多くの中小企業を支援してきた中で、この課題に何度も直面してきました。不思議なことに、スペックや価格帯が似ていても、「物語のあるブランド」だけが選ばれ続けるという現象が、どの業界でも共通して見られるのです。

たとえば、あるクラフトビールメーカーは「麦芽とホップで作られた」という機能説明ではなく、「地元の小麦農家との20年の絆から生まれた」というストーリーを前面に出すことで、大手ビールメーカーとの差別化に成功しました。地方の老舗銘菓店も、「創業者が戦後の焼け野原で子どもたちに笑顔を届けたかった」という原点の物語を語り始めてから、観光客の購入率が大きく変わったといいます。

しかし実際には、多くの企業でこんな状況が起きています:

  • 会社紹介ページに沿革はあるが、年表を並べただけで「物語」になっていない
  • 創業の想いが経営者の頭の中にしかなく、社員にすら伝わっていない
  • ストーリーを書こうとすると「自社の歴史を美化しすぎでは?」と躊躇してしまう

実務の現場で見てきた経験から言えるのは、これらは決して珍しいケースではありません。むしろ、多くの企業が同じ壁にぶつかっているのが実情です。

ではなぜ、ブランドストーリーがこれほど重要なのでしょうか。それは、人間の脳が「論理ではなく物語で覚える」ように設計されているからです。当編集部では、世界的エンタメ企業で35年活躍した専門家の知見をもとに、ストーリーテリングの理論を研究してきました。その結果、感情的つながりがブランド選好に与える影響は、機能的な優位性をはるかに上回ることが分かっています。

実際、学術研究でも裏付けられています。業界調査のまとめでは、感情的共鳴を伴うストーリーの記憶定着率は、純粋な事実情報と比較して最大22倍高いことが報告されています(参考:Amra & Elma「20 TOP STORYTELLING MARKETING STATISTICS」|2025|ストーリー主導広告は事実のみの広告に比べ22倍記憶に残りやすい)

本記事では、こうした理論的な裏付けを踏まえながら、実践的な5ステップの手法をお伝えします:

  1. Step 1: WHY(なぜ)の発見と掘り下げ
  2. Step 2: 主人公(顧客)の特定とペルソナ設計
  3. Step 3: 葛藤(コンフリクト)の設定
  4. Step 4: 解決(ソリューション)の提示
  5. Step 5: 変容(トランスフォーメーション)の描写

さらに、各ステップで使えるワークシートやチェックリストもご用意しました。記事を読み終える頃には、「自社のストーリー骨格」を書き出せる状態になっているはずです。

19年間の実務経験から学んだことは、完璧なストーリーよりも「誠実で共感できるストーリー」の方が、お客様の心に届くということ。まずは小さく始めて、反応を見ながら磨いていく——そんな実践的なアプローチをお伝えしていきます。

ブランドストーリーテリングの全体像と戦略を先に理解したい方は、ピラー記事である「ブランドストーリーテリング完全ガイド」もあわせてご覧ください。

目次

第1章 ブランドストーリーとは?会社紹介との3つの違いと重要性

1-1. ブランドストーリーの定義

ブランドストーリーとは、単なる企業の沿革や商品説明ではありません。それは「なぜこのブランドが存在するのか」という根源的な問いに答え、顧客との感情的なつながりを生み出す物語のことです。

多くの企業が作成している「会社紹介」との決定的な違いは、次の表で整理できます:

スクロールできます
要素 会社紹介(事実の列挙) ブランドストーリー(感情の物語)
主語 私たち(企業視点) あなた(顧客視点)
構成 時系列の事実列挙 葛藤 → 解決 → 変容
目的 情報伝達、信頼性の提示 感情的共鳴、価値観の共有
読後感 理解はするが、記憶に残りにくい 共感し、長く記憶に残る
行動喚起 理解どまり 購買、ファン化、推奨
※本表は記事内の主張に基づき編集部が作成。

会社紹介が「何をしているか(What)」に焦点を当てるのに対し、ブランドストーリーは「なぜそれをしているか(Why)」から始まります。これは、消費者心理の観点からも理にかなっています。

神経マーケティングの研究では、ストーリー形式で提示された情報は、単なる箇条書きや統計データよりも脳の複数領域を活性化させ、記憶への定着率が大幅に向上することが示されています。学術実験においても、ストーリーテリング形式のナレーション動画は講義形式に比べ、短期記憶スコアが有意に高いという結果が報告されています(参考:SAGE Journals「The Effects of Digital Storytelling on the Retention and Application of Knowledge」|2024|ストーリーテリング形式は講義形式に比べ短期記憶スコアが平均約1.143ポイント高い)

【専門家のインサイト】

この「短期記憶スコアの向上」が意味するのは、顧客が複数の選択肢を比較検討するまさにその瞬間に、あなたのブランドが思い出されやすくなるということです。つまり、ブランドストーリーは、購買意思決定の最終段階における「思考のショートカット」として機能する可能性を秘めているのです。これは、情報過多の現代において極めて強力な競争優位性と言えるでしょう。

1-2. なぜ今ブランドストーリーが重要なのか

デジタル時代の情報過多な環境では、単なる機能説明や価格訴求だけでは差別化が困難になっています。実際、商品の技術的な差異が縮小する中で、消費者は「共感できるブランド」を選ぶようになってきました。

注目すべきデータがあります。ストーリーテリングを通じて形成されたブランド・顧客関係は、ロイヤルティに有意に寄与し、長期的な顧客エンゲージメントにつながることが、学術的にも裏付けられています。例えばナイキの事例研究では、ブランドのストーリーテリングが顧客エンゲージメントとブランドロイヤルティに強い影響を与えると結論付けられました(参考:International Research Journal of Management, IT and Social Sciences「Impact of Brand Storytelling on Customer Engagement and Loyalty: The Case of Nike」|2025|ストーリーテリングは顧客エンゲージメントとブランドロイヤルティに強い影響を与える)

私自身、19年間のマーケティング支援の中で、この変化を肌で感じてきました。以前は「スペックが優れていればお客様は選んでくれる」という時代がありました。しかし今は、「このブランドは自分の価値観に合っているか」「このブランドの背景にある想いに共感できるか」が購買の決定要因になっているケースが増えています。

特に中小企業にとって、ブランドストーリーは大きな武器になります。なぜなら、大企業と違って:

  • 創業者の顔が見える: 経営者自身の体験や想いを直接語れる
  • 地域との結びつきが強い: 地元との関係性を物語化しやすい
  • 顧客との距離が近い: リアルな顧客の声をストーリーに反映できる

こうした「小さいからこその強み」を、物語という形で表現できるのです。

1-3. ブランドストーリーがもたらす価値と成果の測り方

効果的なブランドストーリーは、企業に次の3つの価値をもたらします:

①記憶に残る差別化

人間の脳は、物語を記憶するように進化してきました。「創業1985年、従業員50名、売上10億円」という情報は数時間で忘れられますが、「倒産寸前から社員全員で立て直した物語」は何年経っても記憶に残ります。

前述の通り、業界調査のまとめでは、感情的共鳴を伴うストーリーの記憶定着率は、純粋な事実情報と比較して最大22倍高いことが報告されています(参考:Amra & Elma「20 TOP STORYTELLING MARKETING STATISTICS」|2025|ストーリー主導広告は事実のみの広告に比べ22倍記憶に残りやすい)。これは単なる理論ではなく、実務でも体感できる大きな差です。

②感情的なつながりの構築

ブランドストーリーは、顧客との感情的な絆を生み出します。「この会社は自分と同じ価値観を持っている」「この商品の背景にある想いに共感できる」——こうした感情が、単なる取引関係を超えた信頼関係へと発展します。

ストーリーベースのマーケティングは、顧客とブランドの間に感情的な絆を形成し、ブランドロイヤルティを高めることが確認されています。例えばナイキの事例研究では、ブランドのストーリーテリングが顧客エンゲージメントとブランドロイヤルティに強い影響を与えることが示されました(参考:International Research Journal of Management, IT and Social Sciences「Impact of Brand Storytelling on Customer Engagement and Loyalty: The Case of Nike」|2025|ストーリーテリングは顧客エンゲージメントとブランドロイヤルティに強い影響を与える)

実際、私が支援してきた企業の中には、ストーリーを前面に出した途端に「商品より先に会社のファンになってくれた」というケースが複数ありました。

③採用・社内浸透での効果

ブランドストーリーは、対外的な効果だけでなく、社内でも大きな力を発揮します。

採用活動では、ストーリーを明確に語れる企業に「価値観の合う人材」が集まりやすくなります。実際、ストーリー中心の採用広報を展開した企業では、応募数の増加と採用ミスマッチの減少が報告されています。ある採用プラットフォームの事例では、ストーリー記事の活用が母集団形成や応募率向上に繋がり、1年間で約3,700名のタレントプールを構築したケースもあります(参考:Wantedly「採用戦略の成功事例9選(2025年)」|2025|1年間で約3,700名のタレントプール構築)

また、社員がブランドストーリーを理解していると、自分の仕事に誇りを持ちやすくなり、モチベーションやエンゲージメントの向上につながります。これは、特に中小企業で顕著に表れる効果です。

成果の測り方

ブランドストーリーの効果測定には、定量的な指標と定性的な指標の両方を組み合わせることが重要です。

定量的指標:
  • Webサイトの滞在時間(ストーリーページの読了率)
  • SNSのエンゲージメント率(いいね、シェア、コメント)
  • 問い合わせや資料請求の増加
  • 採用応募数の変化
  • リピート率・顧客生涯価値(LTV)の向上
定性的指標:
  • 顧客からの感想やフィードバックの質
  • 「共感した」「感動した」といった声の数
  • 社員が「誇りを持てるようになった」という変化
  • メディアや他社からの取材・言及の増加

これらの価値と測定方法を具体的にまとめたのが以下の表です。

スクロールできます
もたらす価値 代表的なKPI(定量的) 測定方法/ツール例 測定指標(定性的)
① 記憶に残る差別化 ストーリーページの滞在時間・読了率 Google Analytics 「自社らしさが伝わる」という声の収集
ブランド名での指名検索数 Google Search Console メディアやインフルエンサーからの言及
② 感情的なつながり SNS投稿のエンゲージメント率 各SNSインサイト 「共感した」「ファンになった」というUGC
リピート購入率、LTV CRM/MAツール 顧客インタビューでのロイヤルティ評価
③ 採用・社内浸透 採用サイト経由の応募数・応募率 採用管理システム(ATS) 「価値観に共感した」応募理由の増加
社員エンゲージメントスコア パルスサーベイツール 社員の自社ストーリー理解度・語り部率
出典:International Research Journal of Management, IT and Social Sciences (2025)BrandMovers Blog (2025)Wantedly (2025) の情報を基に編集部作成

ブランドストーリーテリングの理論的背景をさらに深く知りたい方は、ストーリーブランディングとは?物語で『選ばれる』ブランドを作る3つのアプローチと5つの実践ステップで詳しく解説しています。また、ストーリーを構成する各要素については「ブランドナラティブとは?顧客と「物語を育てる」5ステップ【専門家が解説】」で掘り下げています。

第2章 Step 1 – WHY(なぜ)の発見と掘り下げ

2-1. すべてはWHYから始まる

ブランドストーリーの出発点は、「なぜこのビジネスを始めたのか」という根源的な問いです。ここでいうWHYとは、単なる事業目的ではなく、「この世界で実現したいこと」「解決したい社会の課題」といった、より深い動機を指します。

この考え方は、サイモン・シネックが提唱した「ゴールデンサークル理論」として広く知られています。ゴールデンサークル理論は、Why(存在意義・目的)を中心に据え、How(それを実現するプロセス・価値・戦略)、What(外部に見える製品やサービス)へと広がる三層構造として説明されます(参考:University of Illinois「Golden Circle Leadership Template」|2025|WHYは「組織の存在理由・目的・信念」、HOWは「プロセス・戦略・手法」、WHATは「成果物・サービス・製品」)。多くの企業は「何を(What)」や「どうやって(How)」から語り始めますが、人を動かすブランドは必ず「なぜ(Why)」から語り始めます。

私自身、この理論に出会った時に「なるほど」と腹落ちしました。確かに、19年間のマーケティング実務で、成功しているブランドの共通点を分析してみると、確かにWHYが明確な企業ほど、顧客からの共感を得やすいという傾向がありました。

2-2. WHYを発見する3つの質問

では、自社のWHYをどう見つければよいのでしょうか。以下の3つの質問が、WHY発見の手がかりになります:

質問①「なぜこの事業を始めようと思ったのか?」

創業の原点に立ち返ります。経営者自身が体験した課題、社会に対する違和感、「こうあるべきだ」という理想——そこにWHYの種があります。

質問②「この事業がなくなったら、誰がどう困るのか?」

自社の存在意義を別の角度から見る質問です。「困る人がいない」なら、WHYが弱い可能性があります。

質問③「10年後、この事業を通じてどんな世界を作りたいか?」

短期的な売上目標ではなく、長期的なビジョンを問います。ここに、ブランドの本質的な価値が表れます。

これらの質問に、経営者自身が30分以上かけて向き合うことをお勧めします。即答できない場合も多いですが、それは悪いことではありません。むしろ、深く考える過程でWHYが明確になっていくものです。

2-3. WHY発見ワークシート

【ダウンロード素材1】WHY発見ワークシート

以下のワークシートを使って、自社のWHYを書き出してみましょう:

【ステップ1】創業時の原体験を振り返る
・なぜこの事業を始めようと思ったのか?
・その時、どんな課題や問題を感じていたか?
・その課題を解決したいと思った「きっかけ」は何か?

【ステップ2】社会への貢献を言語化する
・この事業がなくなったら、誰がどう困るのか?
・顧客にとって、自社の存在はどんな意味があるのか?
・社会全体に対して、どんな価値を提供しているか?

【ステップ3】理想の未来を描く
・10年後、この事業を通じてどんな世界を作りたいか?
・自分が引退する時、何を成し遂げていたら満足か?
・次の世代に何を残したいか?

【ステップ4】WHY文章にまとめる
上記の回答を踏まえて、1-2文でWHYをまとめてみましょう:

「私たちは、[課題・問題]を解決することで、[顧客・社会]に[価値・変化]をもたらし、[理想の世界]を実現したい」

2-4. WHYの掘り下げ方——5回の「なぜ?」

WHYを見つけたら、さらに深掘りします。「5回のなぜ?」という手法が有効です。

たとえば、こんな具合です:

  • 最初のWHY: 「地域の子どもたちに安全な遊び場を提供したい」
  • → なぜ? 「自分の子ども時代、遊び場がなくて寂しかったから」
  • → なぜ寂しかった? 「友達と外で遊ぶ楽しさを知らずに育ったから」
  • → なぜそれが問題? 「人間関係の築き方を学ぶ機会を失ったと感じるから」
  • → なぜそれを解決したい? 「次の世代には、豊かな人間関係の中で育ってほしいから」
  • 真のWHY: 「豊かな人間関係を育む場を、地域に作りたい」

このように掘り下げることで、表面的な動機から、より本質的なWHYへとたどり着けます。

実務的に見ると、この「5回のなぜ」は非常にパワフルです。私が支援した企業でも、この手法を使うことで「自分たちが本当にやりたかったこと」が明確になり、その後のブランディング全体に一貫性が生まれたケースが何度もありました。

2-5. WHYの落とし穴——避けるべき3つの罠

WHYを設定する際、陥りやすい罠があります:

  • 罠①「利益追求」をWHYにしてしまう

「売上を伸ばしたい」「市場シェアを拡大したい」は、WHYではなく目標です。WHYは「なぜ利益が必要なのか」「その先に何を実現したいのか」という、もう一段深い動機を指します。

  • 罠②「抽象的すぎて誰にも響かない」

「世界を良くしたい」「人々を幸せにしたい」といった抽象的すぎるWHYは、共感を生みません。自社ならではの具体性が必要です。

  • 罠③「創業者だけが理解している」

WHYが経営者の頭の中にしかない状態では、社員も顧客も共感できません。言語化し、社内外に伝える努力が不可欠です。

これらの罠を避けるためには、WHYを「具体的な体験」「実在する人物」「リアルな課題」と結びつけることが重要です。抽象論ではなく、「こういう経験をした」「こういう人に出会った」という具体的なエピソードから語ることで、WHYは説得力を持ちます。

WHYを軸にしたブランドの全体設計については、「年表を「売れる物語」に変える!企業ストーリーの作り方5ステップ|採用・営業で響くプロの秘訣」でさらに詳しく解説しています。

第3章 Step 2 – 主人公(顧客)の特定とペルソナ設計

3-1. ストーリーの主人公は誰か?

多くの企業が犯しがちな間違いは、「自社を主人公にしたストーリー」を作ってしまうことです。しかし、効果的なブランドストーリーでは、主人公は顧客です。

これは、現代のストーリーマーケティングにおける重要な原則の一つです。企業が主人公ではなく顧客を“ヒーロー”に据えるのが一般的です(参考:HubSpotブログ「Buyer Persona Research and Storytelling」|2025|ペルソナ作成で「day-in-the-life」や消費者ストーリー形式推奨)。企業は「ガイド(案内役)」であり、顧客が「ヒーロー(主人公)」として困難を乗り越えられるよう支援する物語を描くことで、より深い共感が生まれます。

私自身、この視点転換には「なるほど」と思いました。確かに、商品やサービスの説明を延々と語るよりも、「お客様がこの商品を使ってどう変わったか」を語る方が、はるかに共感を呼びます。

たとえば、ある住宅会社のストーリーを比較してみましょう:

  • ❌ 企業主役の語り方:
    「当社は創業50年、5,000棟の施工実績があります。高い技術力で、お客様の理想の家を実現します」
  • ⭕ 顧客主役の語り方:
    「子どもが増えて手狭になったアパート。『もっと広い家で、家族の時間を大切にしたい』と夢見ていた30代夫婦。しかし予算の不安で、一歩を踏み出せずにいました。そこで出会ったのが、『限られた予算で最大の価値を』という理念を持つ当社でした。設計士との何度もの打ち合わせを経て、家族の笑顔が溢れるマイホームが完成したのです」

後者の方が、読み手の感情を動かすことがわかります。

3-2. ペルソナ設計の実践

顧客を主人公にするためには、まず「どんな顧客なのか」を具体的に描く必要があります。これがペルソナ設計です。

ペルソナとストーリーテリングの関係は、学術的にも注目されています。HubSpotの報告では、基本的なペルソナ実装によってコンテンツエンゲージメントが10〜20%改善する例を紹介しています(参考:HubSpotブログ「Buyer Persona Research and Storytelling」|2025|基本的なペルソナ実装でエンゲージメントが10〜20%改善)。ペルソナに基づくパーソナライゼーションと物語形式を組み合わせたコンテンツは、顧客の共感を深め、より高いエンゲージメントにつながると考えられます。

【ペルソナ設計シート】

1. 基本情報
・年齢・性別・職業
・家族構成
・居住地域

2. 心理的特性
・価値観(何を大切にしているか)
・悩み・課題(何に困っているか)
・願望(何を実現したいか)

3. 行動パターン
・情報収集の方法(どこで情報を得るか)
・購買の決定要因(何を重視するか)
・よく使うメディア・SNS

4. ストーリーにおける役割
・ストーリー開始時点での状態
・直面している葛藤・障害
・最終的に到達したい状態

重要なのは、「実在する顧客」をベースにペルソナを作ることです。架空の理想像ではなく、実際に自社と接点があった顧客の特徴を抽出することで、リアリティのあるストーリーが生まれます。

3-3. 顧客視点で語るための3つのコツ

コツ①「You」で語る

「私たちは」ではなく「あなたは」を主語にします。たとえば:

  • ❌「私たちは高品質な商品を提供します」
  • ⭕「あなたは、本当に価値ある商品に出会えます」

コツ②「顧客の言葉」をそのまま使う

実際の顧客の声、感想、口コミの表現をストーリーに取り入れます。企業の言葉よりも、顧客自身の言葉の方が説得力があります。

コツ③「ビフォー・アフター」を明確にする

顧客が「どういう状態から」「どう変わったか」を具体的に描写します。この変化のプロセスが、ストーリーの核心です。

実際、私が支援した企業でも、「顧客インタビュー」を丁寧に行い、そこで得た生の言葉をストーリーに織り込んだケースが、最も反応が良かったという経験があります。

3-4. ペルソナの罠——避けるべき失敗パターン

ペルソナ設計でよくある失敗は:

  • 失敗①「ターゲットを広げすぎる」

「20代から60代まで全員」というペルソナは、誰にも刺さりません。ストーリーは、具体的な一人に向けて語ることで、結果的に多くの人に届きます。

  • 失敗②「理想像だけを描く」

「年収1,000万円以上、海外旅行が趣味」といった理想的な顧客像だけを描いても、現実味がありません。悩みや弱さも含めた、立体的な人物像が必要です。

  • 失敗③「データに頼りすぎる」

年齢・性別などの統計データは重要ですが、それだけではストーリーは生まれません。「なぜその人はその選択をしたのか」という心理的な動機まで掘り下げることが重要です。

ペルソナ設計は、一度作って終わりではありません。実際の顧客とのやり取りを通じて、継続的にアップデートしていく姿勢が大切です。

顧客理解を深めるためのナラティブ設計については、「なぜあの会社は売れる?ブランドストーリー事例15選【5要素フレームで成果に落とし込む4ステップ】」で多数紹介しています。

第4章 Step 3 – 葛藤(コンフリクト)の設定

【深掘りコラム】なぜ「いい話」だけではブランドストーリーにならないのか?

ブランドストーリーを作ろうとすると、多くの企業が自社の成功体験や社会貢献といった「いい話」ばかりを並べてしまいがちです。しかし、それだけでは読者の心に深く響きません。なぜなら、物語の核心は「葛藤」にあるからです。

顧客が本当に共感するのは、完璧なヒーローではなく、自分と同じように悩み、迷い、困難に直面する主人公です。ストーリーにおける葛藤は、顧客が「これは自分の物語だ」と自己投影するための“鏡”の役割を果たします。成功談だけを語るブランドは「遠い世界のすごい会社」で終わってしまいますが、葛藤を正直に語るブランドは「自分のことを理解してくれるパートナー」になれるのです。あなたのストーリーは、顧客が共感できる「リアルな葛藤」を描けているでしょうか。

4-1. 葛藤なきストーリーは記憶に残らない

すべての優れた物語には「葛藤(コンフリクト)」があります。主人公が何の困難もなく目標を達成する話は、誰の心も動かしません。ブランドストーリーも同様です。

なぜ葛藤が重要なのか。それは、人間の脳が「問題解決のストーリー」に強く反応するように設計されているからです。

心理学的には、「ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)」という物語構造が、人間の深層心理に訴えかけることが知られています。この構造では、主人公が試練(Road of Trials)や最大の危機(the ordeal)に直面し、それを乗り越えることで成長します(参考:Wikipedia「Hero’s journey」|不明|試練(Road of Trials)や最大の危機(the ordeal)が英雄の変容を促す重要な段階)。ブランドストーリーにおいても、顧客が直面する葛藤を描くことで、感情的な共鳴が生まれます。

実務的に見ても、葛藤を明確に描いたストーリーの方が、顧客の記憶に残りやすいという傾向があります。私自身、19年間のマーケティング支援で、「課題解決型のストーリー」を前面に出した企業の方が、問い合わせや共感の声が多かったという経験があります。

4-2. 3種類の葛藤——どれを描くべきか

ブランドストーリーで描ける葛藤には、大きく3つのタイプがあります:

①外的葛藤(External Conflict)

顧客が直面する具体的な問題や障害。たとえば:

  • 予算の制約
  • 時間の不足
  • 適切な情報の欠如
  • 選択肢が多すぎて選べない

②内的葛藤(Internal Conflict)

顧客の心の中にある迷いや不安。たとえば:

  • 「本当にこの選択で正しいのか?」
  • 「失敗したらどうしよう」
  • 「自分にはできないかもしれない」
  • 「周囲にどう思われるか」

③社会的葛藤(Philosophical Conflict)

顧客が感じる社会や業界全体への疑問。たとえば:

  • 「なぜこの業界はこんなに複雑なのか」
  • 「もっと誠実なサービスはないのか」
  • 「本当に必要なものは何なのか」

効果的なブランドストーリーは、これら3つの葛藤を組み合わせて描きます。特に、内的葛藤を描くことで、顧客は「自分のことを分かってくれている」と感じやすくなります。

4-3. 葛藤マップ——顧客の課題を可視化する

葛藤を整理するために、「葛藤マップ」を作成することをお勧めします。

【図表2】葛藤マップの例

【顧客】30代共働き夫婦、初めての住宅購入を検討

【外的葛藤】
・予算が限られている(頭金が少ない)
・土地選びの知識がない
・建築会社が多すぎて選べない

【内的葛藤】
・「本当に今、家を買うべきなのか?」(決断への不安)
・「ローンを払い続けられるか?」(将来への恐怖)
・「理想と現実のギャップを受け入れられるか?」(妥協への抵抗)

【社会的葛藤】
・「なぜ住宅業界は分かりにくいのか?」
・「営業マンの言うことは本当に信じていいのか?」
・「家は本当に資産なのか、負債なのか?」

このように整理することで、ストーリーで描くべき葛藤が明確になります。

4-4. 葛藤の強度——どこまで深く描くか

葛藤を描く際、「どこまで深刻に描くか」は重要な判断ポイントです。

軽すぎる葛藤は共感を生みませんが、重すぎる葛藤は顧客を不安にさせてしまいます。適切なバランスが必要です。

実務的には、次のような基準で判断します:

①業界の深刻度に合わせる

  • 医療・法律などシリアスな業界: 深刻な葛藤も可
  • 日用品・娯楽など軽めの業界: 共感しやすい程度の葛藤

②ターゲット層の感受性に合わせる

  • 20代若年層: 軽めの葛藤でも共感
  • 40-50代経営層: ある程度深刻な葛藤の方がリアル

③ブランドのトーンに合わせる

  • 誠実・信頼系ブランド: 真摯に葛藤を描く
  • 親しみ・カジュアル系ブランド: ユーモアを交えて軽く

私の経験では、「顧客インタビュー」で実際に語られた葛藤の表現をそのまま使うことが、最も適切なバランスになりやすいと感じています。

4-5. 避けるべき葛藤の描き方

葛藤を描く際の注意点もあります:

  • NG①「競合を悪者にする」

「他社の商品は粗悪で、当社だけが優れている」という描き方は、ネガティブキャンペーンになりかねません。葛藤は「業界全体の課題」として描くのが賢明です。

  • NG②「顧客を見下す表現」

「多くの人は間違った選択をしています」といった上から目線の表現は、共感を損ないます。「誰もが悩むことですよね」という共感ベースの表現が適切です。

  • NG③「解決できない葛藤を描く」

自社の商品・サービスでは解決できない葛藤を描いても、顧客は行動に移せません。描く葛藤は、必ず次のステップ「解決」につながるものを選びます。

葛藤を適切に描くことで、顧客は「この会社は自分のことを理解してくれている」と感じ、次のステップへの期待が高まります。

【深掘りコラム】なぜあなたのストーリーは途中で飽きられるのか?——「三幕構成」で読者を引き込む

本記事で解説した5ステップは物語の「要素」ですが、それを読者が飽きずに読み進められる「構成」に落とし込むことも重要です。ここで役立つのが、映画脚本術の基本である「三幕構成」です。

  • 第一幕:設定(Setup): 主人公(顧客)が日常の問題や葛藤を抱えている状態を描きます。(本記事のStep2, 3に相当)
  • 第二幕:対立(Confrontation): 主人公が解決策(あなたのブランド)と出会い、様々な障害や試練に立ち向かう過程を描きます。物語の大部分を占め、最もドラマが生まれる部分です。(Step4, 5に相当)
  • 第三幕:解決(Resolution): 主人公が葛藤を乗り越え、変容を遂げるクライマックスと、その後の新しい日常を描きます。(Step5の深掘りに相当)

多くのブランドストーリーは、第一幕(課題)からいきなり第三幕(解決!)に飛びがちです。しかし、顧客が最も共感し、感情移入するのは「第二幕」の試行錯誤の過程なのです。自社のストーリーが単なる成功事例の紹介に終わっていないか、この三幕構成の視点で見直してみましょう。

葛藤から解決への展開をさらに詳しく知りたい方は、「「小さい会社だから無理」は嘘!中小企業が響くブランドストーリーを作る5ステップ【0円から】」で詳しく解説しています。

第5章 Step 4 – 解決(ソリューション)の提示

5-1. ガイド役としての企業の登場

葛藤を描いたら、次はその解決策を提示します。ここで重要なのは、企業は「救世主」ではなく「ガイド(案内役)」として登場するという点です。

現代のストーリーブランディングでは、「顧客が主人公(ヒーロー)、企業がガイド」という役割分担が効果的とされています。企業が顧客の成功を中心に据えた物語(customer success stories)を語ることで、より高いエンゲージメントにつながると示唆されています(参考:Avy「Brand Storytelling for 2025: Emotion, Authenticity, and Measurable Outcomes」|2025|customer success storiesへとメッセージを切り替えた結果、qualified leadsが47%増加、コンバージョン率が31%改善)。ガイドの役割は、主人公(顧客)が自分の力で困難を乗り越えられるよう、知識・ツール・サポートを提供することです。

たとえば、映画『スター・ウォーズ』で言えば、主人公はルーク・スカイウォーカーですが、彼を導くのはヨーダやオビ=ワンです。ヨーダが主役を奪うのではなく、ルークが成長する手助けをする——これが「ガイド」の役割です。

ブランドストーリーでも同じです。「当社のすごい技術で全部解決しました」ではなく、「お客様が課題を乗り越えるために、私たちはこんなサポートをしました」という語り方が、共感を生みます。

5-2. 解決策の提示——3つの要素

効果的な解決策の提示には、3つの要素が必要です:

  1. 共感(Empathy)
    まず、顧客の葛藤に共感していることを示します。
    • ❌「当社の商品なら簡単に解決できます」(共感なし)
    • ⭕「その悩み、本当によく分かります。私たちも同じ経験をしてきました」(共感あり)
  2. 権威性(Authority)
    次に、なぜ自社がその解決策を提供できるのか、根拠を示します。
    • 実績(「これまで1,000社以上を支援してきました」)
    • 専門性(「20年間この分野に特化してきました」)
    • 証拠(「98%のお客様にご満足いただいています」)

    ただし、過度な自慢は逆効果です。実務的には、「実績を語りつつも謙虚に」というバランスが重要です。

  3. 明確な手順(Plan)
    最後に、顧客が何をすればよいのか、明確な行動手順を示します。
    たとえば:
    • 「ステップ1:無料相談で現状を整理します」
    • 「ステップ2:最適なプランを一緒に設計します」
    • 「ステップ3:実行をサポートし、成果を確認します」

    このように「3ステップ」など、シンプルな形で提示することで、顧客の心理的ハードルが下がります。

5-3. 解決策の信頼性を高める——証拠の示し方

解決策に説得力を持たせるためには、客観的な証拠が必要です。以下のような要素を組み込むと効果的です:

①顧客の声

実際の顧客の体験談やレビューは、最も強力な証拠です。特に、具体的な数値や変化を含む声が説得力を持ちます。

例:「導入後3ヶ月で業務時間が30%削減されました(製造業A社)」

②ビフォー・アフターの比較

数値やビジュアルで「どう変わったか」を明示します。

例:「導入前:月間問い合わせ50件 → 導入後:月間問い合わせ200件」

③第三者の評価

業界団体の認定、メディア掲載、専門家の推薦なども信頼性を高めます。

ただし、証拠を並べすぎると「売り込み感」が強くなるので、ストーリーの流れを損なわない程度に抑えることが大切です。

5-4. 解決策提示の失敗パターン

解決策を提示する際、陥りがちな失敗もあります:

  • 失敗①「機能説明に終始する」

「この商品は○○機能があり、△△が優れています」という機能説明だけでは、感情が動きません。「この機能によって、お客様の生活がどう変わるか」まで描く必要があります。

  • 失敗②「完璧すぎる解決策を提示する」

「すべての問題が一瞬で解決します!」といった過剰な約束は、逆に信頼を損ないます。現実的で誠実な解決策の方が、長期的には信頼されます。

  • 失敗③「顧客の努力を無視する」

「当社に任せれば何もしなくてOK」という姿勢は、顧客を受動的にします。「一緒に解決しましょう」という協働の姿勢の方が、長期的な関係構築につながります。

実務的に見ると、「できること・できないこと」を正直に伝えた方が、結果的に顧客との信頼関係が深まるという経験があります。

解決策から変容へのストーリー展開については、なぜ響かない?ブランドストーリーの7要素|心に刺さる物語を診断・改善するプロの構成術でさらに詳しく解説しています。

第6章 Step 5 – 変容(トランスフォーメーション)の描写

6-1. 変容こそがストーリーの核心

ブランドストーリーの最終ステップは、「変容(トランスフォーメーション)」の描写です。変容とは、顧客が商品・サービスを利用することで得る「内面的な変化」を指します。

機能的なメリットだけでなく、感情的な変化自己認識の変化まで描くことで、ストーリーは完結します。

たとえば、住宅会社のストーリーで言えば:

  • 機能的変化:「広い家を手に入れた」
  • 感情的変化:「家族との時間が増えて、毎日が楽しくなった」
  • 自己認識の変化:「『良い父親でいられている』という自信が持てるようになった」

最後の「自己認識の変化」が、最も深い変容です。これを描けると、ストーリーは読者の心に強く残ります。

6-2. 変容の3つのレベル

変容には、深さの異なる3つのレベルがあります:

レベル1:状況の変化(Have)

「何を得たか」「何が変わったか」という外的な変化。

  • 「売上が30%増加した」
  • 「時間が短縮された」

レベル2:感情の変化(Feel)

「どう感じるようになったか」という内的な変化。

  • 「安心して眠れるようになった」
  • 「自信が持てるようになった」

レベル3:自己認識の変化(Be)

「自分は何者か」という根源的な変化。

  • 「自分もプロフェッショナルになれた」
  • 「理想の自分に近づけた」

最も強力なストーリーは、この3つのレベルすべてを描きます。ただし、すべての商品・サービスで深いレベルの変容が描けるわけではありません。業種や商品特性に応じて、適切なレベルを選ぶことが重要です。

6-3. 変容を描く具体的な手法

変容を効果的に描くためには、以下のような手法が有効です:

手法①「対比」を使う

変容の前後を対比させることで、変化が際立ちます。

例:
「以前は、毎晩遅くまで残業し、家族との時間が持てず、罪悪感を抱えていました。しかし今は、効率的な業務システムのおかげで定時退社が当たり前になり、子どもの寝顔だけでなく笑顔も見られるようになりました。『良い父親でいられている』という実感が、日々の原動力になっています」

手法②「顧客の言葉」をそのまま使う

実際の顧客の感想やインタビューから、変容を語る言葉を引用します。企業が作った言葉よりも、顧客自身の言葉の方が説得力があります。

例:
「『人生が変わりました』——導入3ヶ月後、A社の社長はそう語ってくれました」

手法③「数値+感情」の組み合わせ

定量的なデータと定性的な感情表現を組み合わせます。

例:「売上が50%増加しただけでなく、『仕事が楽しい』と感じる社員が8割に増えました」

6-4. 長期的な価値——LTVとロイヤルティへの影響

変容を描くことで、短期的な売上だけでなく、長期的な関係性にも効果があります。

実際、ストーリーテリングがブランドロイヤルティに与える影響は、学術的にも確認されています。Nikeのケーススタディでは、ブランドのストーリーテリングが顧客エンゲージメントとブランドロイヤルティに強い影響を与えることが示されました(参考:International Research Journal of Management, IT and Social Sciences「Impact of Brand Storytelling on Customer Engagement and Loyalty: The Case of Nike」|2025|ストーリーテリングは顧客エンゲージメントとブランドロイヤルティに強い影響を与える)

また、業界分析では、エモーショナルロイヤルティが従来のポイント中心施策よりリピート購買を大幅に改善するとされ、コミュニティ参加者はLTVが約26%高いという示唆もあります(参考:BrandMovers Blog「The New Rules of Consumer Loyalty: What’s Actually Working in 2025」|2025|エモーショナルロイヤルティは従来のポイントシステムより65%多くリピート購買を促す)

私自身の実務経験でも、「変容」を明確に描いたストーリーを展開した企業は、一度きりの取引ではなく、長期的な関係を築けているケースが多いと感じます。

6-5. 変容の描写でよくある失敗

変容を描く際の注意点もあります:

  • 失敗①「過度な美化」

「人生が180度変わった!」といった大げさすぎる表現は、かえって信憑性を損ないます。リアルで誠実な変容の方が、共感を呼びます。

  • 失敗②「企業の成果を押し付ける」

「当社のおかげで成功しました」という語り方ではなく、「お客様自身が努力された結果です。私たちはそのお手伝いをしただけです」という謙虚な姿勢が大切とします。

  • 失敗③「感情を無視する」

数値だけの変化(「売上30%増」)だけでは、感情が動きません。「その結果、社員が笑顔で働けるようになった」といった感情面の変化も描く必要があります。

変容を描くことで、ストーリーは完結し、読者の心に残る物語になります。

変容を活用した企業の成功事例は「なぜ物語は人を動かす?脳科学×心理学で解明!ストーリーテリング理論でROIを44%高めるビジネス戦略」で多数紹介しています。また、ストーリーテリングの効果測定についてはブランドストーリー、効果不明のままでいい?予算承認率65%UP!35年のプロが教える数値化戦略で詳しく解説しています。

第7章 仕上げと展開——ストーリーを活かすために

7-1. ブランドストーリー骨格シートの作成

ここまでの5ステップを実行すると、自社のブランドストーリーの「骨格」が完成します。それを1枚のシートにまとめておくと、今後の展開がスムーズになります。

【ダウンロード素材2】ブランドストーリー骨格シート

【ブランドストーリー骨格シート】

■ WHY(なぜ):
・私たちがこの事業を始めた根源的な理由
・解決したい社会の課題
・実現したい理想の世界

■ 主人公(顧客):
・ペルソナの基本情報
・抱えている課題・悩み
・実現したい理想の状態

■ 葛藤(コンフリクト):
・外的葛藤(具体的な障害)
・内的葛藤(心の中の迷い)
・社会的葛藤(業界への疑問)

■ 解決(ソリューション):
・私たちが提供する価値
・顧客が取るべき行動手順
・信頼の根拠(実績・証拠)

■ 変容(トランスフォーメーション):
・状況の変化(Have)
・感情の変化(Feel)
・自己認識の変化(Be)

このシートを社内で共有することで、営業・マーケティング・採用など、あらゆる場面で一貫したストーリーを語れるようになります。

7-2. チャネル・媒体別のストーリー展開

完成したブランドストーリーは、さまざまなチャネルで活用できます。ただし、各チャネルの特性に合わせた調整が必要です。

スクロールできます
チャネル ストーリーの長さ 強調すべき要素 具体的な活用例
Webサイト (About Us) 長文 (1,000-2,000字) WHY, 創業の葛藤, 変容の全体像 企業の存在意義を深く伝え、共感を醸成
SNS投稿 (Instagram/X) 短文 (150-300字) 葛藤の一部 or 顧客の小さな変容 日常的な共感を呼び、ファンとの交流を促進
動画コンテンツ (YouTube) 90秒-3分 顧客のビフォーアフター (変容) 感情に訴えかけ、ブランドの世界観を伝える
営業資料 中文 (500-800字) 顧客の葛藤, 解決策, 信頼の証拠 提案の冒頭で課題認識を合わせ、信頼を獲得
採用サイト・面接 中文 (800-1,200字) WHY, 働く意義, 社員の変容 価値観に合う人材を引きつけ、入社意欲を高める
プレスリリース 短文 (300-500字) WHY, 社会的意義, 新たな挑戦 メディアの関心を引き、パブリシティを獲得
※本表は記事内の主張に基づき編集部が作成。

それぞれのチャネルで、ストーリーの「どの部分」を強調するかを戦略的に決めることが重要です。

7-3 30秒で心を掴む!エレベーターピッチの作り方

5ステップで作成したストーリー骨子を、多忙な相手にも伝わる「30秒の簡潔なピッチ」に変換するためのテンプレートです。

1. **[ターゲット]は、** (例: 地方の中小企業の経営者は、)
2. **[葛藤]という問題に悩んでいます。** (例: 素晴らしい技術があるのに、大手との価格競争で疲弊するという問題に悩んでいます。)
3. **そこで私たちは[解決策]を提供します。** (例: そこで私たちは、技術の背景にある職人の想いや地域との繋がりを物語化するサービスを提供します。)
4. **その結果、彼らは[変容]を手に入れます。** (例: その結果、彼らは価格競争から脱し、自社の仕事に誇りを持つという未来を手に入れます。)
5. **なぜなら、私たちのWHYは[WHY]だからです。** (例: なぜなら、私たちのWHYは「日本のものづくりに、再び物語の光を当てる」ことだからです。)

7-4. 社内浸透——ストーリーを組織文化にする

ブランドストーリーは、対外的なコミュニケーションだけでなく、社内文化の形成にも大きな役割を果たします。

実際、ブランドストーリーの社内浸透に関する研究では、ストーリーを明確に共有している企業では、社員のエンゲージメントやモチベーションが向上することが報告されています。ある採用プラットフォームの事例では、ストーリー中心の採用広報により、1年間で約3,700名のタレントプールを構築し、イベント参加者からの応募率は平均80%に達したケースも報告されています(参考:Wantedly「採用戦略の成功事例9選(2025年)」|2025|1年間で約3,700名のタレントプール構築)

社内浸透のための具体的な方法:

  • 経営層が繰り返し語る
    朝礼、全社会議、1on1など、あらゆる機会で経営者自身がストーリーを語ります。
  • 新人研修で必ず伝える
    入社時にブランドストーリーを伝えることで、価値観の共有がスムーズになります。
  • 社員自身にストーリーを語らせる
    「自分の言葉でブランドストーリーを語る」ワークショップを実施し、社員一人ひとりが自分事化します。
  • 社内報やSNSで共有
    定期的にストーリーを振り返る機会を作り、組織全体に浸透させます。

私が支援した中小企業でも、ストーリーが社内に浸透している企業ほど、社員が「自社の強み」を自信を持って語れるようになり、結果的に営業成績や採用成果が向上したケースがありました。

7-5. 定期的な見直しとアップデート

ブランドストーリーは「一度作って終わり」ではありません。事業の成長や社会の変化に応じて、定期的に見直す必要があります。

見直しのタイミング:

  • 年1回の定期見直し(事業年度の節目など)
  • 大きな事業転換があった時
  • 顧客からのフィードバックが変化した時
  • 社会トレンドが大きく変わった時

見直しのポイント:

  • WHYは変わっていないか(ブレていないか)
  • 顧客の葛藤は今も同じか(新しい課題が生まれていないか)
  • 解決策は現在も有効か(商品・サービスが進化していないか)
  • 変容の事例は最新か(新しい成功事例があるか)

ただし、頻繁に変えすぎると一貫性が失われます。「核となるWHYは変えず、周辺の表現や事例を更新する」というバランスが重要です。

ブランドストーリーをテンプレートで作成したい方は、近日公開予定の「ブランドストーリーテンプレート:すぐに使える作成フォーマット集(記事No.36)」をご覧ください。ストーリーのフレームワーク全体を体系的に学びたい方は、「もう迷わない!ブランドストーリー3大フレームワーク診断|最適な選び方・使い方・組み合わせ」も参考になります。効果測定についてはブランドストーリー、効果不明のままでいい?予算承認率65%UP!35年のプロが教える数値化戦略でさらに詳しく解説しています。

第8章 成功事例と失敗から学ぶ

8-1. 中小企業のブランドストーリー成功事例

ブランドストーリーは、大企業だけのものではありません。むしろ、中小企業の方が「経営者の顔が見える」「地域との結びつきが強い」という強みを活かしやすいのです。

ここでは、国内中小企業の成功事例をいくつか紹介します(個社名は一般化しています):

事例①:地方の建築会社

  • WHY:「子どもたちが安心して育つ地域を、住宅から作りたい」
  • 葛藤:若い夫婦が「予算と理想のギャップ」に悩んでいる
  • 解決:地元の木材を活用し、コストを抑えながら高品質の家を提供
  • 変容:「予算内で、家族の笑顔が溢れる家」を実現。地域の子育て世代に支持され、口コミで顧客が増加

この会社は、創業ストーリーと地域貢献の想いを前面に出したことで、大手ハウスメーカーとの差別化に成功しました。

事例②:老舗和菓子店

  • WHY:「戦後の焼け野原で、子どもたちに笑顔を届けたい」という創業者の想い
  • 葛藤:観光客は「地元の銘菓」を求めているが、どの店も似たような商品
  • 解決:創業の物語をパッケージとWebサイトで丁寧に語る
  • 変容:観光客が「単なるお土産」ではなく「物語のある贈り物」として購入。リピーターや推奨行動が増加

この和菓子店は、公式サイトで創業ストーリーを語り始めてから、問い合わせや取材依頼が増え、ブランド認知が大きく向上したとのことです。

事例③:IT系スタートアップ

  • WHY:「中小企業が『ITに苦手意識を持たなくていい世界』を作りたい」
  • 葛藤:経営者がITツール導入に「難しい」「高い」「使いこなせない」と感じている
  • 解決:シンプルで直感的なツール + 手厚いサポート体制
  • 変容:「ITが怖くなくなった」と感じる経営者が増加。導入企業の業務効率が平均30%改善

このスタートアップは、「ITに苦手意識を持つ経営者」というペルソナを明確にし、その葛藤に寄り添うストーリーを展開することで、大手との差別化に成功しました。

ただし、これらの定量データの多くは、企業の自己報告や二次資料に基づくものであり、厳密な実証研究ではない点には留意が必要です。例えば、大阪の町工場「高橋製作所」は技術発信型ブランディングにより売上が前年比30%アップしたと報告されていますが、問い合わせや採用応募数などの具体的数値は公表されていません(参考:SPD Inc.「【実例付き】中小企業がブランディングで売上アップした秘訣」|2025|高橋製作所の売上が前年比30%アップ)

8-2. よくある失敗パターンと対策

成功事例だけでなく、失敗から学ぶことも重要です。ブランドストーリー作成でよくある失敗パターンを紹介します:

  • 失敗①「美化しすぎて嘘くさくなる」

原因:創業の苦労や失敗を隠し、成功だけを強調しすぎる

対策:失敗や葛藤も正直に描く。リアルで人間味のあるストーリーの方が共感を呼ぶ

  • 失敗②「自社視点のストーリーになる」

原因:「私たちはすごい」「私たちの技術は優れている」という企業視点の語り

対策:顧客を主人公にし、「あなたの課題を解決します」という視点で語る

  • 失敗③「抽象的すぎて伝わらない」

原因:「世界を変える」「人々を幸せにする」といった抽象的な表現だけ

対策:具体的なエピソード、実在の人物、リアルな課題を描く

  • 失敗④「一貫性がない」

原因:Web、SNS、営業資料でそれぞれ違うストーリーを語ってしまう

対策:ブランドストーリー骨格シートを作成し、社内で共有する

  • 失敗⑤「社内に浸透していない」

原因:経営者だけがストーリーを知っていて、社員が語れない

対策:社員向け研修やワークショップで、全員がストーリーを自分の言葉で語れるようにする

私自身、支援してきた企業の中で、これらの失敗を経験したケースを何度も見てきました。重要なのは、失敗を恐れず、小さく始めて改善を重ねていく姿勢です。

まとめ:明日からブランドストーリーを作り始めよう

ここまで、ブランドストーリーの作り方を5つのステップでお伝えしてきました。最後に、重要なポイントを整理します:

5ステップの振り返り:

  1. WHY(なぜ)の発見: 事業の根源的な動機を掘り下げる
  2. 主人公(顧客)の特定: ペルソナを明確にし、顧客視点で語る
  3. 葛藤(コンフリクト)の設定: 外的・内的・社会的な葛藤を描く
  4. 解決(ソリューション)の提示: ガイド役として、共感・権威・手順を示す
  5. 変容(トランスフォーメーション)の描写: 状況・感情・自己認識の変化を描く

これらのステップを実践することで、単なる会社紹介ではなく、顧客の心に残る「物語」を作ることができます。

実践のための3つのアクション:

  1. まずはWHY発見ワークシートから始める
    この記事で提供したワークシートを使って、30分でもいいので自社のWHYを書き出してみてください。完璧である必要はありません。まずは「言語化する」ことが第一歩です。
  2. 顧客の声を集める
    実際の顧客にインタビューし、「なぜ当社を選んだのか」「どんな変化があったか」を聞き出します。そこから、リアルな葛藤と変容が見えてきます。
  3. 小さく始めて、反応を見る
    いきなり全チャネルで展開するのではなく、まずはWebサイトの1ページやSNS投稿から始めます。顧客の反応を見ながら、ストーリーを磨いていきましょう。

最後に伝えたいこと:

19年間のWEBマーケティング実務を通じて、私が確信していることがあります。それは、完璧なストーリーよりも、誠実で共感できるストーリーの方が、人の心に届くということです。

大企業のような華やかなストーリーを作る必要はありません。自社の経験、顧客との関係、地域との結びつき——そういった「リアルな物語」こそが、最も強力な差別化要因になるのです。

ブランドストーリーは、一度作って終わりではありません。事業の成長とともに進化し、顧客との対話を通じて磨かれていくものです。まずは小さく始めて、実践を通じて学んでいきましょう。

この記事が、あなたのブランドストーリー作りの一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。

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よくある質問(FAQ)

Q1:ブランドストーリーは、どのくらいの長さで作るべきですか?

A:チャネルによって異なりますが、基本となる「フルバージョン」は1,000-2,000字程度が目安です。これをベースに、SNS用(200-300字)、営業資料用(500-800字)など、各チャネルに合わせて短縮版を作成します。重要なのは「長さ」よりも「5つのステップがすべて含まれているか」です。短くても、WHY・葛藤・解決・変容が明確であれば効果的なストーリーになります。

Q2:文章が苦手でも、ブランドストーリーは作れますか?

A:はい、作れます。実際、文章力よりも「誠実さ」の方が重要です。まずは箇条書きやキーワードで、WHYや葛藤を書き出すことから始めてください。その後、顧客インタビューで得た「生の言葉」を使うことで、自然なストーリーが形成されます。また、社内の別の担当者や外部ライターに協力してもらうことも一つの方法です。大切なのは、「経営者自身が語りたい内容」を明確にすることです。

Q3:創業から間もないスタートアップでも、ブランドストーリーは作れますか?

A:むしろスタートアップこそ、ブランドストーリーが武器になります。歴史が浅い分、「なぜこの事業を始めたのか」という創業の熱い想いがフレッシュです。創業者の原体験、解決したい課題、理想の未来——これらを率直に語ることで、共感してくれる顧客や投資家、人材を引き寄せることができます。実績が少ない段階では、WHYと葛藤を強く打ち出すことが効果的です。

Q4:ストーリーを作った後、どこから発信すればいいですか?

A:まずは自社のWebサイト(会社概要ページやAboutページ)から始めることをお勧めします。ここに「フルバージョン」のストーリーを掲載し、それをベースにSNS、営業資料、採用ページなどに展開していきます。発信の順序としては:(1)Webサイトで基盤を作る、(2)SNSで短縮版を発信して反応を見る、(3)営業や採用の場面で口頭で語る、(4)反応をもとにストーリーをブラッシュアップ、という流れが実践的です。

Q5:競合他社と似たようなストーリーになってしまいそうで不安です

A:「創業の想い」や「顧客への貢献」という大枠は似ていても、具体的なエピソード、経営者の原体験、実在する顧客の声——これらは必ず「自社ならでは」のものになります。重要なのは、一般論ではなく「あなた自身の経験」「実際に出会った顧客」「リアルに直面した課題」を描くことです。また、WHYの掘り下げ方(5回のなぜ)を丁寧に行うことで、表面的な動機から、より深い独自性が見えてきます。

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この記事を書いた人

当編集部は、世界的エンタメブランドでの実績を持つブランディング専門家の知見をもとに、実践的なブランドマネジメント情報を発信しています。

編集方針:
セサミストリート、ディズニー、ウルトラマンなど、数々の世界的ブランドを手がけた35年の業界経験から導き出された理論と実践ノウハウを、検索ユーザーの課題解決に役立つ形で体系化。最新のブランディング手法を分かりやすく解説します。

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