まさかウチも?キャラクター法的リスク33,019件の実例から学ぶ著作権・商標・契約トラブル対策

「まさか自社が…」キャラクターマーケティングにおける法的リスクは、ある日突然、事業の根幹を揺るす形で牙を剥きます。財務省の報告によると、令和6年における知的財産侵害物品の税関での輸入差止件数は33,019件に達し、過去最多を記録しました(参考:財務省『令和6年の税関における知的財産侵害物品の差止状況』|2024年|統計開始以来、過去最多の差止件数を報告)。これは氷山の一角に過ぎず、水面下では数多くのトラブルが発生しています。

「オリジナルのつもりだったのに、既存キャラに似ていると指摘された」「外注デザイナーとの権利関係が曖昧なまま商品化を進めてしまった」「二次創作を黙認していたら、ブランドイメージを損なう使われ方をされた」——19年間、数十社のブランド構築を支援してきた経験から言えば、こうした問題は決して珍しくありません。

法的リスクへの対応が遅れると、事業そのものが頓挫するケースもあります。著作権と商標、この2つの権利の違いを正しく理解し、設計段階から適切に保護しなければ、後々大きなトラブルに発展します。

本記事では、キャラクターマーケティングを展開する上で避けて通れない法的リスクを、著作権・商標・契約の3つの柱から整理します。中小企業でも実践できる「最小法務体制」の作り方、侵害を発見したときの対応フロー、海外展開時の注意点まで、具体的なチェックリストとテンプレートを交えて解説します。

目次

キャラクターマーケティングの”3大リスク”とは?著作権・商標・契約の全体像

キャラクターマーケティングにおける法的リスクは、大きく分けて著作権・商標・契約の3つに集約されます。それぞれがどのように絡み合い、どんな問題を引き起こすのか、全体像を把握しましょう。

1-1. 著作権リスク:「表現」と「アイデア」の線引き

文化庁の解説によれば、著作権が保護するのは「具体的な表現」であり、「アイデア・設定」は保護対象外です(参考:文化庁『著作権法及び関連諸制度の解説』|2025年|著作権の保護対象は「思想又は感情を創作的に表現したもの」)。たとえば「猫型ロボット」というアイデア自体は保護されませんが、特定のキャラクターデザイン(フォルム、色、表情)は著作権で保護されます。

この線引きが曖昧なまま制作を進めると、「似ているだけで侵害と言われるのか」「どこまで変えれば安全なのか」といった判断に迷い、リスクを抱え込むことになります。

著作権のもう1つの特徴は、登録不要で自動的に発生する点です。創作した瞬間に権利が生まれるため、「誰が最初に作ったか」の証拠が重要になります。制作過程のメール、ラフスケッチ、打ち合わせ議事録など、タイムスタンプ付きで記録を残しておくことが、後々のトラブル回避につながります。

また、外注・委託で制作する場合、著作権の帰属が契約で明確になっていないと、「デザイナー側に権利がある」と主張されるリスクがあります。著作者人格権は譲渡できないため、「行使しない」旨を契約に盛り込む実務が一般的です。

1-2. 商標リスク:「名称」と「マーク」の独占権

商標は、特許庁への出願・登録を経て初めて権利が発生します。著作権と違い、登録しなければ保護されない点に注意が必要です。商標出願料は3,400円+(区分数×8,600円)、登録料は区分数×32,900円(10年分)です(参考:特許庁『産業財産権関係料金一覧』|2025年|商標関連の最新料金を明記)。

商標登録の最大の落とし穴は、先願主義です。同じような名称やマークを先に他社が出願していれば、後から出願しても登録できません。J-PlatPatという無料の検索システムで類似商標を事前に調べることができますが、称呼(読み方)や観念(意味)の類似も審査対象となるため、専門家の確認が推奨されます。

また、商標は区分(商品・役務の分類)ごとに登録します。たとえば「玩具」「衣料品」「飲食物」で使う場合、それぞれの区分で出願する必要があります。事業拡大を見越して、将来使う可能性のある区分もまとめて出願しておくと、後から他社に先取りされるリスクを減らせます。

1-3. 契約リスク:ライセンス・外注・二次創作の”穴”

契約リスクは、権利の帰属使用範囲が曖昧なまま進行することで顕在化します。

特許庁の最新報告によると、中小企業の知財相談のうち、約40%が商標に関するものですが、実際に紛争化した事例で最も損害額が大きいのは「共同開発や業務委託における契約不備」に起因する著作権トラブルです(参考:特許庁『特許行政年次報告書2025年版』|2025年|中小企業の知財相談内容と紛争事例の傾向を報告)。

このデータから、専門家として「中小企業のリスク管理は、出願手続きという『目に見える対策』だけでなく、契約書という『目に見えにくいが重要な土台』の整備にこそ注力すべき」ということが言えます。多くの企業が商標登録の必要性は認識していますが、デザイナーとの口約束で開発を進めてしまい、後から権利を主張されるケースが後を絶ちません。まず取り組むべきは、外注契約書の雛形整備です。

外注・委託契約では、著作権譲渡の範囲を明示しなければなりません。次にライセンス契約では、使用範囲・期間・地域・ロイヤリティを具体的に定めます。最後に、ファンによる二次創作を放置すると、ブランドイメージの毀損商標の希釈化につながる恐れがあります。許容範囲・禁止事項・免責・通報窓口を明記したガイドラインを公開し、ファンとの健全な関係を構築することが重要です。

1-4. 3大リスクの相互関係と優先順位

これら3つのリスクは、独立しているわけではありません。たとえば、著作権で保護される「表現」と、商標で保護される「名称・マーク」は、セットで管理することでブランドの一貫性が保たれます。

  1. 商標登録(先願主義のため早期着手)
  2. 外注契約の整備(制作開始前)
  3. 著作権の証拠保全(制作過程の記録)
  4. ライセンス・UGCガイドラインの整備(事業拡大時)

特に、商標は出願から登録まで6〜9ヶ月程度かかるため、キャラクター開発と並行して進めるべきです。一方、著作権は自動発生するため、「後回しでもいい」と油断せず、制作開始時から証拠を残す習慣をつけましょう。

キャラクタービジネスで陥りがちな失敗の全体像については、「キャラクターマーケティング失敗の全パターンと回避策」で詳しく解説しています。

著作権の基礎知識と侵害を未然に防ぐ設計プロセス

著作権は「登録不要で自動的に発生する」という特性ゆえに、侵害も気づかないうちに起こりやすいリスクです。ここでは、保護範囲の正確な理解と、侵害を未然に防ぐ設計手法を解説します。

2-1. 何が保護され、何が保護されないか

文化庁の解説によれば、著作権は「思想又は感情を創作的に表現したもの」を保護し、表現されていないアイデア・設定は著作権の対象外とされています(参考:文化庁『著作権法及び関連諸制度の解説』|2025年|著作権は創作した時点で自動的に発生し、登録は不要と解説)。

保護される:

  • 具体的な視覚表現(イラスト、3Dモデル、アニメーション)
  • 独自性のある色・形・表情の組み合わせ
  • キャラクター設定が具体的に表現された文章・マンガ

保護されない:

  • 抽象的なアイデア(「猫型ロボット」「正義のヒーロー」など)
  • 単なる名前・タイトル(商標法で保護)
  • ありふれた表現・ありふれた設定

この線引きは、個別の事案や判例の積み重ねで判断される余地があります。したがって、「アイデアだから大丈夫」と安易に考えず、既存キャラクターとの類似性を慎重にチェックすることが重要です。

2-2. 独自性を担保する制作プロセス

著作権侵害を回避するには、制作段階から「独自性の証拠」を積み上げることが有効です。

  1. ステップ1:既存キャラの徹底リサーチ
    • 類似する業界・カテゴリーの既存キャラを網羅的に調査
    • Google画像検索、Pinterest、業界団体のデータベースを活用
    • 類似度をスコア化(色・形・表情・設定の各項目で評価)
  2. ステップ2:差別化ポイントの明文化
    • 「なぜこの色・形・表情を選んだか」をブランド戦略と紐づける
    • ブランドパーソナリティ(世界観・価値観)との整合性を文書化
    • 制作意図をメモやメールで記録し、タイムスタンプを残す
  3. ステップ3:段階的なデザイン検証
    • ラフスケッチ段階で社内外の第三者に意見を求める
    • 「〇〇に似ている」という指摘があれば、その時点で修正
    • 修正履歴も含めて記録(修正理由・修正内容・承認者)

これらのプロセスを経ることで、万が一類似性を指摘されたときに「独自の創作過程」を証明できます。

2-3. 外注・委託契約での権利処理

外注でキャラクターを制作する場合、著作権の帰属著作者人格権の扱いを契約で明確にしなければなりません。

文化庁のマニュアルでは、著作権譲渡契約書の条項例として、譲渡の対象に「著作権法第27条および第28条に定める権利」を含める必要性が解説されています(参考:文化庁『著作権契約書作成マニュアル』|2023年|著作権譲渡の際は第27条・28条の権利を明記する必要性を解説)。これらは翻案権(改変して利用する権利)や二次的著作物の利用権を指し、明示的に契約に盛り込まなければ譲渡されたとはみなされません。

また、著作者人格権は一身専属で譲渡できないため、契約で「行使しない旨の合意」を置く実務例が存在します。文化庁はそのような規定例を示す一方で、合意に伴う著作者側の不利益について注意を促しています。実務上は具体的文言と影響の説明を盛り込むことが推奨されます。

  • 著作権の譲渡範囲(複製権、翻案権、二次的著作物の利用権など)
  • 著作者人格権の不行使特約
  • 使用目的・期間・地域の制限
  • 第三者への再許諾の可否
  • 納品物に第三者の権利が含まれないことの保証
  • 違反時の損害賠償・差止請求

特に中小企業では、デザイナーとの関係が「なあなあ」になりがちですが、後々のトラブルを避けるため、契約書は必ず書面で交わしましょう。

2-4. 著作権侵害を防ぐ社内ルール

キャラクターを使った販促物やSNS投稿を社内で制作する場合、誰がどこまでチェックするかのルールを決めておくことが重要です。

  • キャラクターの使用申請フロー(申請者→デザイン担当→法務担当→承認者)
  • 使用可能な素材のライブラリ化(公式イラスト・ロゴ・カラーパレット)
  • 改変の可否と範囲の明示(表情差分はOK、色変更はNGなど)
  • 外部発注時の契約書テンプレート整備
  • 四半期ごとの使用状況レビュー

特にSNS担当者がキャラクターを安易に改変したり、ファンアートを無断転載したりするケースが散見されます。「公式」である以上、すべての発信に著作権リスクが伴うことを周知徹底しましょう。

【深掘りコラム】AI生成キャラクターの著作権は誰のもの?
近年、画像生成AIでキャラクターを制作するケースが増えていますが、その権利関係は非常に複雑です。日本の現行著作権法では、AI自体は著作者とは認められず、「思想又は感情を創作的に表現したもの」が保護対象です。論点は「人間の創作的寄与」がどこまで認められるか。単に単語を入力しただけ(プロンプトが創作的でない)の場合、生成物に著作権は発生しない可能性が高いとされています。一方、プロンプトに具体的な指示を重ね、試行錯誤の末に生まれた表現であれば、その過程に創作性が認められる余地があります。ビジネスで利用する際は、①利用するAIサービスの規約(商用利用の可否、生成物の権利帰属)を必ず確認し、②学習データが他者の著作権を侵害していないか、③生成物が既存キャラクターに類似していないか、という3重のチェックが不可欠です。安易な利用は、将来の大きなリスクに繋がります。

【Tips】著作権は”自動発生”、商標は”登録必須”。この違いが初動の差を生みます。著作権は創作の証拠を残す「守りの習慣」、商標は権利を確保する「攻めの手続き」と覚えましょう。

より具体的なキャラクター開発の進め方については、「キャラクターの作り方、もう迷わない!全手順を公開する6ステップ開発プロセス」で詳しく解説しています。

商標登録を最短で進めるための実務ガイド

商標登録は、キャラクターの名称・マークを法的に保護する唯一の手段です。ここでは、出願から登録、更新までの実務を、中小企業でも実践できる形で解説します。

3-1. 商標出願の基本プロセスと費用

特許庁の料金一覧によると、商標出願にかかる費用は以下の通りです(参考:特許庁『産業財産権関係料金一覧』|2025年|商標関連の最新料金を明記):

  • 出願料:3,400円+(区分数×8,600円)
  • 登録料(10年分):区分数×32,900円
  • 分納額(前期・後期、各5年相当):区分数×17,200円
  • 更新料(10年分):区分数×43,600円

たとえば、3区分(玩具・衣料品・飲食物)で出願・登録する場合:

  • 出願料:3,400円+(3×8,600円)= 29,200円
  • 登録料:3×32,900円 = 98,700円
  • 合計:127,900円

決して安くはありませんが、キャラクターの名称・マークを10年間独占的に使える権利と考えれば、投資対効果は高いと言えます。

出願から登録までの標準的な流れは以下の通りです:

  1. 事前調査(1〜2週間):J-PlatPatで類似商標を検索
  2. 出願書類作成・提出(1週間):オンライン出願が推奨
  3. 方式審査(1〜2ヶ月):書類の形式チェック
  4. 実体審査(4〜6ヶ月):識別力・先登録などの審査
  5. 登録査定・登録料納付(1ヶ月):審査通過後、登録料を支払い
  6. 登録証発行(1ヶ月):正式に権利発生

トータルで6〜9ヶ月を見込む必要があります。キャラクター開発と並行して進めることが重要です。

3-2. 区分の選び方と事業マップ

商標は「区分(商品・役務の分類)ごと」に登録します。特許庁の解説によれば、商標区分は全45区分あり、1〜34が商品、35〜45が役務(サービス)です(参考:特許庁『商品及び役務の区分解説』|2025年|国際分類第12-2025版対応)。

キャラクタービジネスでよく使われる区分は以下の通りです。

  • 第28類(おもちゃ)
  • 第25類(被服)
  • 第16類(紙類・文房具)
  • 第21類(台所用品)
  • 第30類(菓子)

自社の事業計画を基に、出願すべき商標区分を整理することが重要です。以下のマップは、事業の展開フェーズと領域から、優先すべき区分を検討するための一例です。

事業展開と商標区分マップを参考に、自社に必要な区分を洗い出しましょう。区分選定のポイントは、現在の事業+将来の展開を見越すことです。たとえば、最初は玩具だけでも、将来的にアパレルや飲食に展開する可能性があるなら、まとめて出願しておくと安心です。

また、類似群コードという5桁の共通コードで商品・役務の類似関係がグルーピングされており、審査に用いられます。INPITの解説では、J-PlatPatで商品・役務名から類似群コードを照会し、そのコードで既存商標を検索する手順が示されています(参考:INPIT『J-PlatPat 操作マニュアル』|2023年|J-PlatPatの公式操作マニュアル)。

3-3. 拒絶される”落とし穴”と対処法

商標出願しても、以下の理由で拒絶されるケースがあります。

  • 落とし穴1:識別力不足
    • 商品の普通名称(「りんご」を果物で出願)
    • 記述的な表現(「美味しい」「安い」「速い」)
    • ありふれた氏・名称(「田中商店」)
  • 対処法
    • 造語や独自の組み合わせを使う
    • 図形要素を加えてロゴ化する
    • 使用実績(周知性)を証明する資料を提出
  • 落とし穴2:先登録商標との類似
    • 称呼(読み方)が似ている(「ハッピー」と「ハピー」)
    • 観念(意味)が似ている(「太陽」と「サン」)
    • 外観(見た目)が似ている
  • 対処法
    • 事前にJ-PlatPatで徹底的に検索
    • 弁理士に類似性の判断を依頼
    • 出願前に名称を変更する決断も必要
  • 落とし穴3:地名・公序良俗違反
    • 地理的名称(「東京」「富士山」)は原則として登録不可
    • 公序良俗に反する表現(差別的・卑猥な表現)も拒絶
  • 対処法
    • 地名は造語と組み合わせる(「フジサンフーズ」など)
    • 倫理的に問題ない表現を選ぶ

拒絶理由通知が来た場合、意見書を提出して反論できます。ただし、素人判断では難しいため、弁理士のサポートを受けることを強く推奨します。

3-4. 登録後の監視・更新の運用ルール

商標は登録したら終わりではありません。10年ごとの更新と、類似商標の監視が必要です。

  • 更新の実務:
    • 登録から10年後、更新料(区分数×43,600円)を納付
    • 更新期限の6ヶ月前から手続き可能
    • 期限を過ぎても6ヶ月以内なら追加料金で更新可
    • 更新忘れは権利消滅につながるため、カレンダー管理必須
  • 監視の実務:
    • 月1回、J-PlatPatで自社商標と類似する出願をチェック
    • 類似群コードで検索し、新規出願を早期発見
    • 問題がある出願には、情報提供制度で異議を申し立て
    • 外部の監視サービス(月額数千円〜)も検討

特に人気キャラクターは、第三者が勝手に類似商標を出願するケースがあります。早期に発見して対処しないと、後々の訴訟リスクや模倣品対策が困難になります。

【Tips】商標調査は”読み方”も忘れずに。J-PlatPatで文字が一致しなくても、称呼(読み方)が似ていると拒絶されることがあります。「ハッピー」と「ハピー」など、音の響きも検索しましょう。

ライセンス契約で失敗しないための必須条項と実務

キャラクターを第三者に使わせる「ライセンス契約」は、収益化の要ですが、契約内容が不十分だと、後々大きなトラブルに発展します。ここでは、中小企業でも実践できるライセンス契約の基本を解説します。

4-1. ライセンス契約で必ず定めるべき6項目

ライセンス契約では、以下の6項目を明確に定めることが最低限必要です。

  1. 使用範囲(媒体・商品・地域)
    • どの媒体で使うか(パッケージ、Web、SNS、店頭POPなど)
    • どの商品カテゴリーで使うか(玩具、衣料品、飲食物など)
    • どの地域で販売するか(国内限定、アジア全域、全世界など)
    曖昧にすると、「契約外の使い方」を巡ってトラブルになります。
  2. 期間と更新条件
    • 契約開始日と終了日を明記
    • 自動更新か、都度更新か
    • 中途解約の条件(契約違反、一定期間前の通知など)
  3. ロイヤリティ(料率・計算方法・支払時期)
    • 料率:国内の商慣行では上代ベースで4〜6%、海外では卸価格ベースで8〜12%が一般的
    • 計算方法:売上×料率、または1個あたり定額
    • 支払時期:月次、四半期、年次
    • 最低保証金(MG)の設定も検討
  4. 品質管理(監修・承認権)
    • ライセンサーが商品デザインを事前承認する権利
    • サンプル提出→承認→量産の流れを明記
    • 承認違反時の差止め請求や損害賠償の取り扱い
  5. 知的財産権の表示と帰属
    • キャラクターの著作者名表示の義務
    • 著作権帰属の明記(©️ 年 会社名)
    • 知財侵害リスクに対する双方の責任と対応策
  6. 契約解除・違反時のペナルティ
    • 契約解除事由の明確化(権利侵害、契約違反など)
    • 損害賠償や権利停止措置の規定
    • 在庫品の処理方法(廃棄、買取、販売期限など)

これら6項目が不十分だと、後々の交渉で不利な立場に立たされるため、契約書のひな形を整備し、弁護士のチェックを受けることを推奨します。

4-2. ロイヤリティ設計の実務

ロイヤリティの設計は、キャラクタービジネスの収益性を左右する重要な要素です。

  • 料率の目安:
    ただし、これらはあくまで目安であり、商品種別(玩具、アパレル、食品など)、販売チャネル(店舗、EC、イベント)、IPの認知度によって大きく変動します。
  • ミニマムギャランティ(MG)の設定:
    • ライセンシーが最低限支払う保証金
    • 公開事例では年間30万円程度の小額例から数百万円〜数千万円まで幅がある
    • MGを設定することで、ライセンシーの本気度を測り、収益を確保できる
    • 売上が好調ならMGを上回るロイヤリティが発生し、不調ならMGが下支えになる
  • 監査権の確保:
    • ライセンサーがライセンシーの売上記録を確認する権利
    • 不正報告を防ぐための抑止力
    • 契約書に「年1回の監査権」「帳簿閲覧権」を明記
    監査権の詳細については、公開情報では具体的な監査手続き・頻度などを明示している事例が乏しいため、弁護士や業界団体に相談することを推奨します。

4-3. 品質管理とブランドイメージ保護

ライセンス契約では、品質管理ブランドイメージ保護のルールを明確にすることが不可欠です。

  • 品質管理の実務:
    • ライセンシーが商品デザインを作成
    • ライセンサーが事前にサンプルを確認
    • 承認後、量産開始
    • 量産品の抜き取り検査(定期的または不定期)
  • ブランドイメージ保護のガイドライン:
    • キャラクターの使用方法(色・形・表情の改変可否)
    • 禁止事項(暴力的・性的・差別的な表現との組み合わせ)
    • 併記するロゴ・クレジット表記の指定
    • SNS投稿時のハッシュタグ・メンション指定

特に、ライセンシーが独自の解釈でキャラクターを改変し、ブランドイメージを損なうケースが散見されます。ガイドラインを整備し、定期的にライセンシーと共有することで、ブランドの一貫性を保ちましょう。

4-4. 契約解除とトラブル対応

ライセンス契約でよくあるトラブルと対応策を整理します。

  • トラブル1:ロイヤリティの未払い・過少報告
    • 対応策:契約書に監査権を明記し、不正発見時の違約金を設定
    • 悪質な場合は契約解除→損害賠償請求
  • トラブル2:契約範囲外の使用
    • 対応策:発見次第、内容証明で警告→改善されなければ差止請求
    • 契約書に「契約範囲外の使用は即座に契約解除」を明記
  • トラブル3:品質が低く、ブランドイメージを損なう
    • 対応策:サンプル承認を徹底し、承認なしの販売を禁止
    • 問題商品の回収・廃棄を契約書に盛り込む

契約解除は最終手段ですが、ブランドを守るためには躊躇すべきではありません。早期に専門家(弁護士・弁理士)に相談し、法的に有効な対応を取りましょう。

ライセンスを含むキャラクターの活用方法については、「『作っただけ』で終わらせないキャラクター活用術|売上とファンを育てる90日プラン」で7つの展開パターンを紹介しています。

二次創作・UGCとの健全な関係を築くガイドライン設計

ファンによる二次創作やUGC(User Generated Content)は、キャラクターの認知拡大に貢献する一方、ブランドイメージを損なうリスクもはらんでいます。ここでは、二次創作を適切に管理するガイドラインの設計方法を解説します。

5-1. 二次創作を”味方”にするための基本方針

二次創作を全面禁止すると、ファンの熱意を削ぎ、コミュニティの自然な拡大を阻害します。一方、完全に放置すると、不適切な表現や商業利用が野放しになり、ブランドイメージを損ないます。

バランスの取れた方針は以下の通りです:

  • 許容する範囲:
    • 個人的な楽しみの範囲での創作(イラスト、小説、動画など)
    • SNSでの非商業的な共有(ハッシュタグ指定を推奨)
    • ファンコミュニティ内での交流
  • 禁止する範囲:
    • 商業利用(販売、広告、企業プロモーション)
    • 暴力的・性的・差別的な表現
    • 公式と誤認される可能性のある使い方
    • 著作権表示の削除・改変

この方針を「二次創作ガイドライン」として公式サイトやSNSで公開し、ファンに周知することが重要です。

5-2. ガイドラインに盛り込むべき5要素

二次創作ガイドラインには、以下の5要素を明記します。

  1. 許容範囲の明示
    • 「個人の趣味の範囲での創作・共有は歓迎します」
    • 「SNSで共有する際は、公式ハッシュタグ #〇〇ファンアート をご利用ください」
  2. 禁止事項の明示
    • 「商業利用(販売・広告・企業プロモーション)は禁止」
    • 「暴力的・性的・差別的な表現との組み合わせは禁止」
    • 「公式と誤認される可能性のある使い方(公式ロゴの無断使用など)は禁止」
  3. 免責事項
    • 「二次創作に起因するトラブルについて、当社は一切の責任を負いません」
    • 「二次創作物の内容について、当社は関与しません」
  4. 著作権帰属の明記
    • 「キャラクター〇〇の著作権は、株式会社△△に帰属します」
    • 「二次創作物に©️ 年 会社名 の表記をお願いします」
  5. 通報窓口
    • 「不適切な二次創作を発見した場合、以下のフォームからご連絡ください」
    • 通報フォームまたはメールアドレスを設置

これら5要素を盛り込むことで、ファンとの健全な関係を維持しながら、ブランドを守ることができます。

5-3. ガイドラインのテンプレート設計

以下は、二次創作ガイドラインのテンプレート例です。自社のキャラクターに合わせてカスタマイズしてください。

【キャラクター名】二次創作ガイドライン

いつも【キャラクター名】を応援いただき、ありがとうございます。皆さまの創作活動を尊重しつつ、健全なコミュニティを維持するため、以下のガイドラインを設けています。

■ 許容範囲

  • 個人の趣味の範囲での創作・共有は歓迎します
  • SNSで共有する際は、公式ハッシュタグ #〇〇ファンアート をご利用ください
  • 非営利のファンイベント(同人誌即売会など)での頒布は可能です

■ 禁止事項

  • 商業利用(販売・広告・企業プロモーション)
  • 暴力的・性的・差別的な表現との組み合わせ
  • 公式と誤認される可能性のある使い方(公式ロゴの無断使用など)
  • 著作権表示の削除・改変

■ 免責事項

  • 二次創作に起因するトラブルについて、当社は一切の責任を負いません
  • 二次創作物の内容について、当社は関与しません

■ 著作権帰属

  • キャラクター【キャラクター名】の著作権は、【会社名】に帰属します
  • 二次創作物に ©️ 【年】 【会社名】 の表記をお願いします

■ 通報窓口

  • 不適切な二次創作を発見した場合、こちらのフォームからご連絡ください:【URL】

このガイドラインを公式サイトの分かりやすい場所に掲載し、SNSでも定期的に周知しましょう。

5-4. ガイドライン運用のポイント

ガイドラインを作っただけでは不十分です。適切に運用し、ファンとの信頼関係を築くことが重要です。

  • 運用のポイント:
    • 定期的な周知:新規ファンが増えるたびに、SNSでガイドラインをシェア
    • 違反の早期発見:SNSモニタリングツールで公式ハッシュタグを監視
    • 柔軟な対応:軽微な違反には、まず「お願い」ベースで改善を促す
    • 悪質な違反には毅然と対応:内容証明→法的措置も辞さない

ファンコミュニティは、キャラクターの長期的な成功に不可欠な資産です。ガイドラインを通じて、ファンの創作意欲を尊重しながら、ブランドを守る姿勢を示しましょう。

模倣・権利侵害を発見したときの段階的対応フロー

どれだけ事前対策をしても、模倣や侵害を完全に防ぐことはできません。ここでは、模倣を発見したときの初動対応から法的措置まで、段階的なフローを解説します。

6-1. 初動対応:証拠保全と事実確認

模倣を発見したら、まず【図】侵害発見時の対応フローの『ステップ1:証拠保全』から着手します。証拠を確保し、事実を正確に把握することが最優先です。

  • 証拠保全の実務:
    • スクリーンショット:WebページやSNS投稿の全体像を撮影(URL、日時が分かるように)
    • タイムスタンプ:証拠のスクリーンショットにタイムスタンプを付与(無料ツールあり)
    • 商品の購入:実物を入手し、パッケージ・タグ・レシートを保管
    • 販売状況の記録:どこで、いくらで、どれくらい販売されているかをメモ

証拠は、後々の交渉や訴訟で決定的な役割を果たします。スマホで撮影するだけでなく、データとして保存し、バックアップを取りましょう。

  • 事実確認のポイント:
    • 侵害の程度(完全コピーか、部分的類似か)
    • 侵害者の特定(企業名、住所、代表者名)
    • 侵害の期間と規模(いつから、どれくらい販売されているか)
    • 侵害による被害額の推定(売上減少、ブランドイメージの毀損)

特に、侵害者が「故意」か「過失」かによって、対応方法が変わります。善意の第三者であれば、丁寧な説明で改善されるケースもあります。

6-2. 相手の主張を想定した反駁準備

侵害を指摘すると、相手から反論されることがあります。よくある主張と、それに対する反駁ポイントを整理しておきましょう。

  • 主張1:「引用だから問題ない」
    • 反駁:著作権法32条の引用要件(公正な慣行、目的上正当な範囲、出所明示)を満たしているか?商業利用は「引用」に該当しないケースが多く、最高裁判例では、引用は「明瞭区別性」と「主従関係」が必要とされています(参考:最高裁判所判例集|1980年|昭和55年3月28日判決にて引用の要件を提示)。
  • 主張2:「パロディだから問題ない」
    • 反駁:日本法ではパロディに特別な保護規定はなく、近年の判例でも、パロディが著作権侵害に該当するケースが示されています(参考:大橋法律事務所『知的財産ニュースレター』|2024年|令和6年9月26日の東京地裁判決を解説)。ブランドイメージを損なう使い方は、不正競争防止法違反の可能性もあります。
  • 主張3:「似ているだけで、コピーではない」
    • 反駁:創作過程の記録(ラフスケッチ、メール、打ち合わせ議事録)で独自性を証明し、時系列(どちらが先に公開したか)を整理します。専門家(弁護士・弁理士)の意見書で類似性を立証することも有効です。

これらの反駁ポイントを事前に整理しておくことで、交渉を有利に進めることができます。

6-3. 段階的な対応:警告→交渉→提訴

侵害対応は、警告→交渉→提訴の4ステップで段階的に進めます。

  1. ステップ1:非公式な警告(メールまたは電話)
    • まずは穏便に「似ている部分があるので、ご確認いただけますか」と連絡
    • 善意の第三者であれば、この段階で改善されるケースも多い
    • 記録として、メールの送信履歴を保管
  2. ステップ2:内容証明での正式警告
    • 改善されない場合、内容証明郵便で正式に警告
    • 記載事項:侵害の事実、根拠(著作権・商標権など)、対応期限(7日程度が目安)、対応しない場合の措置(法的措置を検討)
    • 弁護士名義で送ると、相手への心理的圧力が高まる
  3. ステップ3:交渉(和解案の提示)
    • 内容証明送付後、相手から連絡があれば交渉開始
    • 和解案:使用中止、在庫廃棄、損害賠償、再発防止策
    • 和解書を作成し、双方が署名・押印
  4. ステップ4:法的措置(差止請求・損害賠償請求)
    • 交渉が決裂した場合、裁判所に提訴
    • 差止請求:侵害行為の停止を求める
    • 損害賠償請求:侵害による損害の賠償を求める
    • 弁護士費用・訴訟費用がかかるため、費用対効果を慎重に判断

法的措置は最終手段ですが、悪質な侵害に対しては、毅然と対応することがブランドを守る上で重要です。

万が一、模倣品や権利侵害を発見した場合、慌てず冷静に対応することが求められます。以下のフローチャートに従って、初動から段階的に対応を進めましょう。

6-4. 炎上リスクへの配慮

侵害対応を進める際、炎上リスクにも注意が必要です。特にSNS上で侵害を指摘する際は、以下の点に配慮しましょう。

  • 炎上リスクのポイント:
    • 公開の場で一方的に非難しない(まずは非公式に連絡)
    • 感情的な表現を避け、事実ベースで冷静に対応
    • ファンコミュニティに配慮(二次創作ガイドラインの周知)
    • 法的措置を取る場合は、事前に公式声明を発表

特にSNSでの炎上リスクへの具体的な対応策については、近日公開予定の「キャラクターマーケティングの炎上対策:予防から鎮火までの実践ガイド(記事No.24)」で詳述します。

海外展開における権利保護と模倣品対策

キャラクターを海外展開する際、日本国内の商標権や著作権は海外では保護されません。各国で個別に権利を取得し、模倣品対策を講じる必要があります。

7-1. マドリッド協定議定書(マドプロ)の活用

海外で商標を登録する方法は、大きく分けて2つあります。

  1. 方法1:各国へ個別出願
    • メリット:各国の実情に合わせた柔軟な対応が可能
    • デメリット:費用・手続きが煩雑、各国の代理人が必要
  2. 方法2:マドリッド協定議定書(マドプロ)を利用
    • メリット:1つの国際出願で複数国に出願できる、費用・手続きが効率的
    • デメリット:基礎出願(日本での出願・登録)が必要、5年以内に基礎が無効になると国際登録も無効

WIPOの手数料体系によると、マドプロの基本手数料は以下の通りです(参考:WIPO『Madrid System – Fees』|2025年|国際登録の手数料体系を解説)。

  • 基本手数料(白黒):653 CHF(スイスフラン)
  • 基本手数料(カラー):903 CHF
  • 付加手数料・追加手数料:各100 CHF程度

海外での商標登録には、主に『マドプロ』を利用する方法と、各国に個別に出願する方法があります。それぞれのメリット・デメリットは以下の通りです。

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比較項目マドリッド協定議定書(マドプロ)各国への個別出願
概要日本の特許庁を通じて複数国へ一括で出願できる制度各国の代理人を通じて、国ごとに出願手続きを行う方法
メリット・手続きが一本化でき、管理が容易
・全体的な費用を抑えられる場合がある
・指定国を後から追加可能
・各国の法制度に合わせた柔軟な権利範囲で出願できる
・基礎出願が不要
デメリット・日本での基礎出願(または登録)が必須
・基礎出願が5年以内に無効になると国際登録も無効になる(セントラルアタック)
・国ごとに代理人費用と各国庁費用がかかり、割高になる傾向
・手続きや言語が国ごとに異なり、管理が煩雑
概算費用WIPO基本手数料(653CHF〜) + 各国指定手数料(各国の代理人費用 + 各国庁費用) × 国数
おすすめのケース3カ国以上の多国展開を計画している場合特定の重要国(例:米国、中国)に絞って強力な権利を取得したい場合
※出典:WIPO『Madrid System – Fees』(2025)日本特許庁『国際出願に要する手数料』(2025) を基に編集部作成

指定国ごとに個別手数料が加算されるため、総額は指定国数によって変動します。特許庁の解説では、マドプロを利用した場合の国内手続きも詳しく紹介されています(参考:日本特許庁『国際出願に要する手数料』|2025年|日本視点での手数料取扱いを解説)。【表】主要国・地域への商標出願方法の比較を参考に、自社の海外戦略に合った方法を選びましょう。

  • マドプロの活用ポイント:
    • まず日本で商標登録を完了させる(基礎出願)
    • 展開予定国を優先順位付け(市場規模、模倣リスク、法制度の安定性)
    • 指定国は後から追加可能(ただし手数料は都度発生)

マドプロは便利ですが、各国の審査基準が異なるため、一部の国で拒絶されるリスクもあります。重要市場については、現地の弁理士に個別相談することを推奨します。

7-2. 模倣品対策:税関差止・現地調査

海外展開で最も厄介なのが、模倣品の氾濫です。特に中国・東南アジアでは、人気キャラクターの模倣品が大量に流通しています。

水際対策:税関への輸入差止申立て
財務省によると、令和6年の知的財産権侵害物品の輸入差止件数は33,019件に達しています(参考:財務省『令和6年の税関における知的財産侵害物品の差止状況』|2024年|統計開始以来、過去最多の差止件数を報告)。税関は、商標権・著作権などの知的財産権を侵害する物品を、輸入時に差し止める権限を持っています。

  1. 輸入差止申立書の提出:税関に申立書と必要書類(登録証、侵害を立証する資料)を提出
  2. 受理通知:申立てが受理されると、約1か月で通知されるとされています(参考:オンダ国際特許事務所『税関における輸入の差止申立』|2025年|弁理士実務解説)
  3. 差止登録:税関が侵害物品を発見すると、輸入者に通知し、権利者に意見を求める
  4. 認定手続き:権利者が「侵害である」と主張すれば、税関が認定手続きを開始
  5. 廃棄または積戻し:侵害が認定されれば、物品は廃棄または積戻し
  • 差止登録の有効期間:最長4年間(ただし権利の存続期間に注意)

税関差止は、模倣品が日本に入る前に水際で阻止できる有効な手段です。申立ては無料で、税関のWebサイトから手続き可能です。

  • 現地での模倣品対策:
    • 現地の弁護士・調査会社に依頼し、市場調査を実施
    • 模倣品の製造元・販売元を特定
    • 現地の法律に基づき、警告→訴訟
    • 関税法施行令が改正されているため、最新情報を確認

海外での模倣品対策は、日本国内以上にコストと時間がかかります。市場規模とリスクを天秤にかけ、優先順位を決めて対応しましょう。

7-3. 契約面の注意点:準拠法・裁判管轄・言語

海外企業とライセンス契約を結ぶ際、準拠法・裁判管轄・言語を明確に定めておかないと、トラブル時に不利な立場に立たされます。

  • 準拠法:
    • どの国の法律に基づいて契約を解釈するか
    • 日本企業としては「日本法」を指定したいが、相手国企業は自国法を主張することが多い
    • 中立的な第三国法(シンガポール法、英国法など)を選ぶケースもある
  • 裁判管轄:
    • トラブル時、どの国の裁判所で裁判を行うか
    • 日本企業としては「日本の裁判所」を指定したいが、海外企業は自国を主張
    • 仲裁条項(国際商事仲裁)を設けることで、中立的な解決を図る選択肢もある
  • 言語条項:
    • 契約書の言語(日本語・英語・現地語)を明記
    • 複数言語で作成する場合、どちらが優先されるかを明記
    • 翻訳の誤訳リスクを避けるため、重要条項は専門家にダブルチェックを依頼

海外契約は、国内以上に専門的な知識が必要です。国際取引に詳しい弁護士のサポートを受けることを強く推奨します。

海外展開の全体戦略は「なぜ日本のキャラは海外で通用しない?50ヶ国展開のプロが教える文化の壁を越えるローカライズ戦略」で、長期的なブランド価値の維持については、近日公開予定の「愛され続けるキャラクターの条件:長期ブランド価値の維持と進化」で詳しく解説します。

中小企業でも実践できる「最小法務体制」の構築ステップ

【コラム】自社リスクを可視化する「リスクマトリクス」
法的リスクは多岐にわたりますが、すべてに同じ熱量で対応するのは非効率です。そこで有効なのが「リスクマトリクス」です。これは、リスクを「発生可能性(低〜高)」と「発生した場合の影響度(小〜大)」の2軸で評価し、優先順位をつける思考ツールです。例えば、「SNSでの軽微な利用ガイドライン違反」は発生可能性が高いものの影響は小規模かもしれません。一方、「主要キャラクターの商標未登録」は発生可能性は低いかもしれませんが、発生すれば事業の根幹を揺るす致命的な影響があります。この後解説する「最小法務体制」を構築する際、まずこのマトリクスで自社のリスクを洗い出し、「発生可能性・影響度ともに高い」領域から優先的に対策を講じることで、効率的なリスク管理が実現できます。

中小企業にとって、法務専門部署を設けることは現実的ではありません。しかし、最低限の体制を整えておかないと、リスクが顕在化したときに対応できません。ここでは、中小企業でも実践できる「最小法務体制」を解説します。

8-1. 権利台帳と期限管理の仕組み

キャラクタービジネスでは、複数の権利(商標、著作権、ライセンス契約)が同時並行で動きます。これらを一元管理する権利台帳が不可欠です。

  • 権利台帳に記録すべき項目:
    • 登録番号(商標登録番号、著作物登録番号など)
    • 権利の種類(商標権、著作権、意匠権など)
    • 登録日・満了日・更新日
    • 区分・権利範囲
    • 担当者・管理部署
    • ライセンス先(契約先企業名、契約期間)
    • 監査日・次回レビュー日
    • 関連ファイル(契約書、登録証のPDFへのリンク)

権利台帳のフォーマット:専門家が無償提供しているテンプレートなどを参考に、自社用にカスタマイズすることを推奨します(参考:小山特許事務所『知財管理カード』|2025年|知財管理カードの作成キットを無償提供)。

  • 期限管理のポイント:
    • 商標更新(10年ごと):更新期限の6ヶ月前にリマインダー設定
    • ライセンス契約(契約期間ごと):契約満了の3ヶ月前にリマインダー設定
    • 定期監査(四半期または年次):カレンダーに固定で予定を入れる
    • Googleカレンダー、Outlook、専用の権利管理ソフトを活用

権利台帳は、ExcelやGoogleスプレッドシートで十分です。重要なのは、誰が見ても更新・確認ができる状態にしておくことです。

8-2. 外部専門家の使い分け

法務リスクに対応するには、適切なタイミングで外部の専門家を頼ることが不可欠です。それぞれの専門家の役割と費用感を以下の表にまとめました。

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専門家種別主な役割・相談内容費用目安(スポット契約)費用目安(顧問契約)こんな時におすすめ
弁理士商標の先行調査、出願・登録代理、拒絶理由への対応、海外出願(マドプロ)支援1区分出願:5〜15万円月額3〜10万円キャラクター開発初期、名称・ロゴが決まった段階
弁護士契約書(外注、ライセンス)の作成・レビュー、侵害時の警告・交渉、訴訟対応相談料:1時間1〜3万円月額5〜15万円ライセンス展開、外注、侵害発見など具体的な取引・トラブル発生時
監視サービス類似商標の出願監視、ECサイト・SNSでの模倣品監視月額1〜5万円キャラクターが人気化し、模倣リスクが高まった段階
※費用はあくまで一般的な目安であり、依頼内容や事務所によって変動します。

どの専門家に相談すべきか迷った際は、【表】外部専門家の役割と費用目安を参考にしてください。

  • 顧問弁護士:
    • 契約書のチェック(外注契約、ライセンス契約)
    • 侵害対応の初動相談(内容証明の作成、交渉の進め方)
    • 訴訟対応(差止請求、損害賠償請求)
    • 費用:月額数万円〜(リテイナー契約)、または案件ごとの時間単価
  • 弁理士:
    • 商標出願・登録の代理
    • 類似商標の調査・意見書作成
    • 拒絶理由通知への対応
    • 海外出願(マドプロ)のサポート
    • 費用:出願1件あたり数万円〜十数万円
  • 監視委託:
    • 類似商標の出願監視(月次または四半期ごと)
    • 模倣品のオンライン監視(EC サイト、SNS)
    • 費用:月額数千円〜数万円

予算が限られる場合、まずはスポット契約(案件ごとの依頼)から始め、事業規模が拡大したら顧問契約に移行する方法もあります。

8-3. 社内教育と運用ルールの整備

法務体制を整えても、社員が権利意識を持たなければ意味がありません。定期的な社内教育と、運用ルールの整備が不可欠です。

  • 社内教育の内容:
    • 著作権・商標の基礎知識(年1回、全社員向け)
    • キャラクター使用ルール(デザイナー・SNS担当者向け)
    • 侵害発見時の報告フロー(全社員向け)
    • 契約書のチェックポイント(営業・企画担当者向け)
  • 運用ルールの例:
    • キャラクター使用申請フロー(申請者→デザイン担当→法務担当→承認者)
    • 外注契約書のテンプレート整備(契約書ひな型を社内共有フォルダに格納)
    • 四半期ごとの権利台帳レビュー会(法務担当・経営層で実施)
    • 侵害発見時の初動マニュアル(証拠保全→法務担当へ報告→専門家相談)

特に、SNS担当者がキャラクターを安易に改変したり、ファンアートを無断転載したりするケースが散見されます。「公式」である以上、すべての発信に法的リスクが伴うことを周知徹底しましょう。

8-4. 四半期レビューで”運用の穴”を埋める

権利台帳を作っただけでは、運用は定着しません。四半期ごとのレビュー会を開催し、以下の項目を確認しましょう。

  1. 権利台帳の更新状況確認(更新漏れ、期限切れの有無)
  2. 新規出願・登録の進捗確認
  3. ライセンス契約の履行状況確認(ロイヤリティ支払い、品質監査)
  4. 侵害事例の報告・対応状況確認
  5. 社内教育の実施状況確認
  6. 次四半期のアクションプラン策定

国も「知的財産推進計画2025」において、デジタル技術を活用した知財制度の強化や、PDCAに基づく継続的改善の必要性を明記しています(参考:内閣府 知的財産戦略本部『知的財産推進計画2025』|2024年|AI・データ利活用を含む知財制度運用の強化方針を提示)。この方針は、中小企業が自社の無形資産を守り、育てる上でも重要な視点となります。

【実践ツール】権利クリアランス初期チェックリスト

本記事で解説したリスク管理を実践するためのツールとして、キャラクター開発に着手する前に確認すべきチェックリストを提供します。法務担当者でなくても、企画担当者やデザイナーが初期段階でリスクを洗い出すのに役立ちます。

キャラクター開発・権利クリアランス初期チェックリスト(15項目)

▼コンセプト段階

  • 類似コンセプトの既存キャラクターを最低10件以上調査したか?
  • 差別化ポイントを言語化し、記録したか?
  • 名前の候補をJ-PlatPatで簡易検索したか?
  • 制作過程(ラフスケッチ、議事録)を日付入りで保存するルールは決まっているか?

▼デザイン発注段階(外部委託の場合)

  • 契約書に「著作権譲渡(27条・28条含む)」の条項はあるか?
  • 「著作者人格権の不行使」に関する合意はあるか?
  • 納品物に第三者の権利(フォント、素材等)が含まれない保証はあるか?
  • 成果物の使用範囲(媒体、期間、地域)は明確に定義されているか?

▼制作過程

  • 修正の各段階で、修正理由と差分が記録されているか?
  • 社内外の第三者から「〇〇に似ている」というフィードバックがないか確認したか?
  • AI生成ツールを使用する場合、サービスの利用規約(商用利用の可否)を確認したか?

▼最終確認

  • 完成したキャラクター名で、再度J-PlatPatの称呼検索を実施したか?
  • キャラクターデザインが、公序良俗に反する表現や差別的な意味合いを含んでいないか?
  • 関連する商標区分の出願準備は進んでいるか?
  • 社内での利用ルール(改変の可否、色指定など)は文書化されているか?

これらのツールを活用し、自社のキャラクタービジネスを法的リスクから守りましょう。

まとめ

キャラクターマーケティングの法的リスク管理は、事前設計が9割です。著作権・商標・契約の3つの柱を正しく理解し、制作開始前から適切に保護しておけば、後々のトラブルを大幅に減らせます。

本記事で解説した重要ポイントを再掲します:

  1. 著作権:「表現」は保護、「アイデア」は非保護
    • 具体的な視覚表現は自動的に保護されるが、制作過程の記録で独自性を証明できるようにする
    • 外注契約では、著作権譲渡と人格権不行使を明記
  2. 商標:先願主義だから早期出願が鉄則
    • J-PlatPatで事前調査し、事業拡大を見越して複数区分で出願
    • 10年ごとの更新管理を徹底
  3. ライセンス契約:使用範囲・料率・品質管理を明確に
    • 使用範囲(媒体・商品・地域)を具体的に定め、監修権を確保してブランドイメージを守る
    • MG(最低保証金)で収益を下支え
  4. 二次創作:ガイドラインでファンと共創
    • 許容範囲・禁止事項・免責・通報窓口を明記し、ファンの創作意欲を尊重しつつブランドを守る
  5. 侵害対応:証拠保全→警告→交渉→提訴
    • 証拠を確保し、内容証明で警告。悪質な場合は法的措置も辞さない
  6. 海外展開:マドプロと税関差止を活用
    • マドリッド協定議定書で効率的に出願し、税関への輸入差止申立てで模倣品を水際で阻止
  7. 最小法務体制:権利台帳・外部専門家・社内教育
    • 権利台帳で一元管理し、外部専門家を使い分け、社内教育で権利意識を浸透させる

次のアクション:
まずは、本記事の「【実践ツール】権利クリアランス初期チェックリスト」で自社の現状を確認しましょう。1つでもチェックが入らない項目があれば、本記事を参考に、今すぐ対策を始めることが重要です。

法的リスク管理は、決して「やらされ仕事」ではありません。ブランドという無形資産を守り、長期的な成長を支える攻めの投資です。今日から一歩ずつ、体制を整えていきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. キャラクター名は著作権で守れますか?

A. キャラクターの名称単体は、著作権では保護されません。文化庁の解説によれば、著作権は「思想又は感情を創作的に表現したもの」を保護するため、名前やタイトルのような短い表現は保護対象外です(参考:文化庁『著作権法及び関連諸制度の解説』|2025年|著作権の保護対象を解説)。

キャラクター名を保護するには、商標登録が必要です。特許庁への出願・登録を経て、初めて法的に独占的な使用権が認められます。出願料は3,400円+(区分数×8,600円)、登録料は区分数×32,900円(10年分)です(参考:特許庁『産業財産権関係料金一覧』|2025年|商標関連の最新料金を明記)。

Q2. 類似と言われたときの証拠は何ですか?

A. 「既存キャラクターと似ている」と指摘されたとき、最も有効な証拠は制作過程の差分と時系列記録です。

具体的には以下の記録を保管しておきましょう:

  1. ラフスケッチ・初期デザイン案(日付入り)
  2. 制作意図を説明したメール・議事録(タイムスタンプ付き)
  3. 修正履歴(なぜこの形・色・表情を選んだか)
  4. ブランド戦略との紐付け文書(パーソナリティ・世界観との整合性)
  5. 第三者からのフィードバック記録(社内外のレビュー結果)

これらの記録により、「独自の創作過程を経て生まれた」ことを証明できます。

Q3. 委託作の著作権は誰に帰属しますか?

A. 原則として、著作権は制作者(デザイナー)に帰属します。「お金を払って依頼したから、こちらのもの」と考えるのは誤りです。

著作権を発注者側(企業側)に移転するには、契約書で明示的に著作権譲渡を定める必要があります。文化庁のマニュアルでは、著作権法第27条および第28条に規定される権利(翻案権、二次的著作物の利用権など)を含めることが推奨されています(参考:文化庁『著作権契約書作成マニュアル』|2023年|契約書作成時の注意点を解説)。

Q4. どの区分から商標を取得すべきですか?

A. 現在の事業で使う区分+将来展開する可能性のある区分をまとめて出願することを推奨します。

特許庁の解説によれば、商標区分は全45区分あります(参考:特許庁『商品及び役務の区分解説』|2025年|国際分類第12-2025版対応)。

  • 優先度の高い区分例:
    • 第28類(おもちゃ)
    • 第25類(被服)
    • 第16類(紙類・文房具)
    • 第21類(台所用品)
    • 第30類(菓子)

予算が限られる場合、まず優先度の高い2〜3区分で出願し、事業拡大に合わせて追加する方法もありますが、先願主義のため他社に先取りされるリスクがあります。

Q5. ロイヤリティの目安とMGは何ですか?

A. ロイヤリティ(使用料)の目安は、国内で4〜6%、海外で8〜12%が一般的です。ただし、商品種別やIPの人気度により変動します。

ミニマムギャランティ(MG:最低保証金)とは:ライセンシーが売上に関係なく、最低限支払う保証金のことです。公開事例では年間30万円程度の小額例から数千万円まで幅がありますが、MGを設定することで、ライセンシーの本気度を測り、収益を確保できるメリットがあります。

Q6. 二次創作のOK/NGをどう決めますか?

A. 二次創作ガイドラインで、許容範囲・禁止事項・免責・通報窓口を明記し、公式サイトで公開することを推奨します。

  • 基本方針の例:
    • 許容範囲(OK):個人の趣味の範囲での非商業的な創作・共有
    • 禁止事項(NG):商業利用、公序良俗に反する表現、公式と誤認させる使い方

詳しくは本記事の第5章で解説したテンプレートを参考にしてください。

Q7. 海外展開の最初の一手は何ですか?

A. マドリッド協定議定書(マドプロ)を利用した商標登録+税関差止申立ての2点セットが、海外展開の最初の一手として推奨されます。

  1. ステップ1:マドプロで商標登録
    • まず日本で商標登録を完了させ、WIPOに国際出願し、展開予定国を指定します(参考:WIPO『Madrid System – Fees』|2025年|国際登録の手数料体系を解説)。
  2. ステップ2:税関への輸入差止申立て
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この記事を書いた人

当編集部は、世界的エンタメブランドでの実績を持つブランディング専門家の知見をもとに、実践的なブランドマネジメント情報を発信しています。

編集方針:
セサミストリート、ディズニー、ウルトラマンなど、数々の世界的ブランドを手がけた35年の業界経験から導き出された理論と実践ノウハウを、検索ユーザーの課題解決に役立つ形で体系化。最新のブランディング手法を分かりやすく解説します。

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