売上23%増も夢じゃない!感情に訴える広告の作り方|7つの感情別戦略とプロの失敗しないコツ

「人は広告を見ない。感情を見る」——この言葉、WEBマーケティングを19年やってきた私にとって、非常に核心をついた表現だと感じています。

私たちは1日に数千件もの広告に接触していると言われています。しかし、その大半はスクロールされ、スキップされ、記憶にすら残りません。では、記憶に残る広告とそうでない広告の違いは何か。それは「感情が動いたかどうか」なんです。

「高品質」「業界最安」「顧客満足度No.1」——こうした理性的な訴求を並べても、なぜか広告がスキップされてしまう。SNSで動画を流しても冒頭3秒で離脱される。せっかくいい映像を作ったのに、売上につながらない…。こうした悩みを抱える方は少なくないのではないでしょうか。

実際、Nielsenの調査によれば、neuroscienceベースのテストで良好なスコアを示した広告は、事例集計において売上を23%増加させたと報告されています(参考:Nielsen Insights「Advertising Emotions Increase Sales」|2022|neuroscienceに基づく広告テストで、平均より良いスコアを出した広告は広告対象ブランドの売上を全体で23%増加させた)。理性訴求だけでは限界がある——これはデータが示す事実です。

当編集部では、世界的エンタメ企業で35年間にわたりブランドビジネスの最前線で活躍してきた専門家の知見をもとに、感情に訴える広告の作り方を体系的に解説していきます。本記事では、7つの感情パターン別に「ビジュアル×音×コピー」の統合設計手法と、制作前後のチェックリストを具体的にお伝えします。

感情訴求の基本理論については「感情訴求広告の作り方:理性より感情に響くメッセージ設計」で詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。

目次

第1章:感情に訴える広告の基本

1-1 感情広告の効果(研究エビデンス)

感情に訴える広告は、本当に効果があるのでしょうか。正直なところ、私も最初は半信半疑でした。「感情なんて曖昧なもので、本当に売上が変わるのか」と。

しかし、調べていくうちに、これはかなり確度の高い話だとわかってきました。

感情広告の効果は、大きく4つの領域で確認されています。

  • 1. 注目獲得
    理性的なメッセージより、感情を刺激するメッセージのほうが視線を引きつけます。スクロールを止める、動画を最後まで見る——そうした行動を促すのは、感情の力です。
  • 2. 記憶定着
    人は感情を伴う体験をより強く記憶します。「あの泣ける広告」「あの笑える広告」といった形で想起されるのは、感情とセットで記憶されているからです。
  • 3. シェア拡大
    SNSでバイラルになる広告の多くは、強い感情反応を引き起こすものです。「これ見て!」と誰かに伝えたくなる衝動は、感情から生まれます。
  • 4. 売上寄与
    そして最も重要な点として、感情広告は売上にも貢献します。先述のNielsenの報告では、良好な感情スコアを示した広告が売上を23%増加させたというデータがあります。これはFMCGの数百本の広告を対象にした事例分析ですが、感情訴求の有効性を示す重要な指標といえるでしょう(参考:Nielsen Insights「Advertising Emotions Increase Sales」|2022|対象はFMCGの数百本中25本の広告事例)。

ただし、注意点もあります。感情広告の効果は「長期的なブランド構築」において特に発揮されるとされています。短期的なセール訴求には理性的アプローチが有効な場面もありますので、目的に応じた使い分けが大切です。

感情を伴う体験は、脳の特定の部位を活性化させ、記憶の定着を促進すると言われています。

このデータから、専門家として言えるのは、感情に訴える広告とは、単なる「印象操作」ではなく、「ブランド情報を顧客の脳に効率的に書き込むための科学的アプローチ」であるということです。感情が動いた瞬間、顧客の脳では記憶のセーブボタンが強く押されているのです。

1-2 感情広告の構造(A-E-S-S-A)

感情に訴える広告を作る際、私が参考にしているのが「A-E-S-S-A」という構造です。これはブランディング実務で効果的とされる感情曲線の設計フレームワークを、広告制作向けに整理したものです。

  • A:Attention(感情フック)
    最初の数秒で感情を刺激し、注目を獲得します。驚き、疑問、共感——何らかの感情的反応を引き出すことが目的です。
  • E:Empathy(共感)
    視聴者の状況や悩みに寄り添い、「自分のことだ」と感じてもらいます。ここで心理的な距離が縮まります。
  • S:Story(感情曲線)
    物語を通じて感情を高めていきます。起承転結ではなく、感情の山と谷を意識した構成がポイントです。
  • S:Solution(ブランドの役割)
    感情が高まったタイミングで、ブランドや商品が自然に登場します。「この感情を解決/継続してくれる存在」として位置づけます。
  • A:Action(感情的CTA)
    最後に、感情を行動に変換します。「今すぐ購入」ではなく、感情に訴えかけるCTAが効果的です。

上記の5つのステップと感情の盛り上がりを視覚的に表したのが、以下の「A-E-S-S-Aフレームワーク」です。

この構造を意識すると、単なる「泣ける広告」「笑える広告」ではなく、ビジネス成果につながる感情広告を設計できるようになります。

感情訴求広告の理論的な背景については「感情訴求広告の作り方:理性より感情に響くメッセージ設計」でより詳しく解説していますので、基礎から学びたい方はぜひご確認ください。

第2章:7つの感情別クリエイティブ戦略

ここからが本記事の核心部分です。感情訴求と一口に言っても、喚起する感情によってクリエイティブの作り方はまったく異なります。

7つの感情パターン別に、ビジュアル・音・コピーの設計ポイントを具体的に解説していきます。まずは全体像を掴むために、7つの感情アプローチの特徴を以下の早見表で確認しましょう。

スクロールできます
感情タイプ目標ビジュアルの要点音・コピーの要点特に注意すべき点
喜びブランド好感度向上明るい色調、本物の笑顔、動きのある映像テンポの速い楽曲、ポジティブな言葉ブランドメッセージとの整合性
感動ブランドロイヤルティ形成静かな演出、表情のクローズアップ、自然光スローテンポの音楽、沈黙の活用、短い言葉「感動の押し売り」にならないこと
恐怖・不安リスク認識による行動喚起暗い色調、影、不安定な構図低音、不協和音、「このままでは…」必ず解決策とセットで提示
怒り・正義価値観の共有コントラストの強い映像、赤・黒の使用エネルギッシュな楽曲、力強いメッセージ炎上リスク管理、ブランドの約束との一致
ユーモア親近感の形成と記憶定着予想を裏切る展開、誇張された表情軽快なBGM、効果音、「間」の使い方誰かを傷つけない、文化的な配慮
懐かしさポジティブな過去とブランドの連結レトロな色調、時代を感じさせるアイテムその時代を象徴する音楽、「あの頃」ターゲット世代との「懐かしい」のズレ
驚き注目獲得と記憶定着視覚的なトリック、Before/Afterの落差静寂からの急展開、「実は…」驚きがポジティブに着地するか
※本表は記事内の解説を総合的に要約したものです。

各感情の詳細なクリエイティブ設計については、この後のセクションで一つずつ解説していきます。

【コラム】広告クリエイティブを深化させる「プルチックの感情の輪」

本記事で紹介した7つの感情は、より体系的に理解することができます。その助けとなるのが、心理学者ロバート・プルチックが提唱した「感情の輪」です。このモデルは、8つの基本感情(喜び、信頼、恐れ、驚き、悲しみ、嫌悪、怒り、期待)と、それらが混ざり合うことで生まれる応用感情を視覚的に示したものです。

例えば、「喜び」と「信頼」が組み合わさると「愛」に、「恐れ」と「驚き」が組み合わさると「畏怖」になります。広告制作においてこのフレームワークを活用することで、単一の感情だけでなく、より複雑で深みのある感情(例:「懐かしさ」=「喜び」+「悲しみ」)を設計したり、逆にターゲットに最も強く響く純粋な基本感情は何かを特定したりすることが可能になります。7つの戦略をこの「輪」の上にマッピングしてみることで、新たなクリエイティブのヒントが見つかるかもしれません。

2-1 喜び(Joy)

目標:ポジティブな感情連想によるブランド好感度向上

喜びの感情は、最も普遍的で安全な訴求です。見た人を幸せな気持ちにさせることで、ブランドへのポジティブな印象を形成します。

  • ビジュアル設計
    • 明るい色調(黄色、オレンジ、明るい青)
    • 本物の笑顔(作り笑いは逆効果)
    • 動きのある映像(ダンス、ジャンプ、走る)
    • 光の表現(朝日、キラキラ、虹)
  • 音・音楽
    • テンポの速い楽曲(BPM120以上が目安)
    • メジャーキー(長調)
    • 生楽器のサウンド(ピアノ、アコースティックギター)
    • 笑い声、歓声などの効果音
  • コピー
    • ポジティブワード(「新しい」「始まる」「一緒に」)
    • 短く、リズミカルなフレーズ
    • 未来志向の表現
  • 制作チェックリスト
    • 笑顔は自然か(目が笑っているか)
    • 色調が統一されているか
    • 音楽とカットのタイミングが合っているか
    • ブランドメッセージとの整合性があるか

2-2 感動(Moved)

目標:深い共感によるブランドロイヤルティ形成

感動訴求は、喜びよりも深い感情反応を狙います。涙を誘うような広告は、強い記憶定着とブランドへの愛着を生み出します。

  • ビジュアル設計
    • 静かな演出(派手な動きは控える)
    • 余白を活かした構図
    • 自然光、夕暮れ、雨などの情景
    • 人の表情のクローズアップ
  • 音・音楽
    • スローテンポ(BPM60-80程度)
    • ピアノ、ストリングスが中心
    • 沈黙の使い方(あえて無音にする瞬間)
    • ナレーションは落ち着いた声質で
  • コピー
    • 短い言葉で核心を突く
    • 普遍的なテーマ(家族、絆、夢、感謝)
    • 押しつけがましくない表現

注意点
感動の押し売りは逆効果です。「泣かせよう」という意図が透けて見えると、視聴者は冷めてしまいます。感動は結果であって目的ではない——この意識が大切です。

【深掘りコラム】多くの制作者が陥る「感動ポルノ」の罠

「感動」訴求は強力ですが、一歩間違えれば「感動ポルノ」と批判されるリスクを伴います。安易に不幸な境遇や困難な状況を利用し、「泣かせよう」という意図が透けて見えるクリエイティブは、視聴者に搾取的な印象を与え、ブランドへの信頼を失墜させかねません。

では、本物の感動広告との違いはどこにあるのでしょうか。それは「課題解決への真摯な姿勢」です。ブランドが社会や個人の課題に対して、自社の製品やサービスを通じて本気で向き合い、ポジティブな変化を生み出そうとしているか。そのプロセスが誠実に描かれているとき、視聴者は作り手側の「真摯さ」に心を動かされ、結果として自然な感動が生まれるのです。感動は目的ではなく、真摯なブランド活動の結果であるべきです。

2-3 恐怖・不安(Fear)

目標:リスク認識による行動喚起

恐怖訴求は、保険、セキュリティ、健康分野で効果的です。ただし、倫理的な配慮が最も求められる感情でもあります。

  • ビジュアル設計
    • 暗い色調(黒、濃紺、グレー)
    • 影の使い方
    • 不安定な構図
    • 警告を示唆するビジュアル
  • 音・音楽
    • 低音を活かした楽曲
    • マイナーキー(短調)
    • 不協和音、緊張感のあるサウンド
    • 心臓の鼓動音などの効果音
  • コピー
    • 「このままでは…」「もし〜だったら」
    • 具体的なリスクの提示
    • 必ず解決策とセットで

【倫理的注意事項】
恐怖訴求は「問題提起→解決策→行動」の流れで完結させることが絶対条件です。恐怖だけを残して終わる広告は、ブランドイメージを大きく損ねるリスクがあります。

2-4 怒り・正義(Anger/Justice)

目標:社会課題への共感による価値観の共有

怒りや正義感に訴える広告は、ブランドの立場を明確にし、同じ価値観を持つ顧客との絆を深めます。社会課題に取り組むブランドに適した訴求です。

  • ビジュアル設計
    • コントラストの強い映像
    • 赤、黒の使用
    • 力強いカット割り
    • 実際の社会問題を示す映像
  • 音・音楽
    • エネルギッシュな楽曲
    • パーカッション、ドラムを活かす
    • 力強いナレーション
  • コピー
    • 明確な立場表明
    • 「〜を変えよう」「〜に立ち向かう」
    • シンプルで力強いメッセージ

【炎上リスクに関する注意事項】
ブランドが掲げる「約束」や「原則」と一致しないテーマで怒り訴求を行うと、炎上リスクが極めて高くなります。

2-5 ユーモア(Humor)

目標:親近感の形成と記憶への定着

ユーモア訴求は、ブランドへの親近感を高め、SNSでのシェアを促進します。ただし、笑いの文化差には細心の注意が必要です。

  • ビジュアル設計
    • 予想を裏切る展開
    • タイミングを重視したカット割り
    • 誇張された表情やアクション
    • 意外な組み合わせ
  • 音・音楽
    • 軽快なBGM
    • 効果音の活用(ポップ、ドーン等)
    • 「間」の使い方が重要
  • コピー
    • オチのある構成
    • ダブルミーニング、言葉遊び
    • 自虐的なユーモアも効果的
  • 制作チェックリスト
    • ターゲット層の笑いのツボを理解しているか
    • 誰かを傷つける笑いになっていないか
    • ブランドイメージとの整合性
    • 文化的・社会的に不適切でないか

ユーモアは最も「外しやすい」感情訴求でもあります。社内での多角的なレビューを必ず実施してください。

2-6 懐かしさ(Nostalgia)

目標:ポジティブな過去の記憶とブランドの連結

懐かしさ訴求は、特に30代以上のターゲットに効果的です。過去の良い記憶を呼び起こし、温かい感情をブランドに結びつけます。

  • ビジュアル設計
    • レトロな色調(セピア、フィルム調)
    • 時代を感じさせるアイテム
    • 家族、友人、故郷の風景
    • ただし「古臭い」と「懐かしい」は別物
  • 音・音楽
    • その時代を象徴する音楽ジャンル
    • アナログ感のあるサウンド
    • 懐かしいCMソングのリメイク(権利処理要確認)
  • コピー
    • 「あの頃」「覚えていますか」
    • 世代共通の体験への言及
    • 過去と現在をつなぐメッセージ

注意点
ターゲット世代と「懐かしい」と感じる時代のズレに注意が必要です。30代が懐かしいと感じる1990年代と、50代が懐かしいと感じる1970年代では、表現がまったく異なります。

2-7 驚き(Surprise)

目標:予想外の展開による注目獲得と記憶定着

驚き訴求は、SNSでのバイラルを狙う際に特に効果的です。「えっ」と思わせる展開で、視聴者の脳に強い印象を刻みます。

  • ビジュアル設計
    • 予想を裏切る展開
    • 視覚的なトリック
    • Before/Afterの落差
    • 意外な登場人物・シチュエーション
  • 音・音楽
    • 静寂からの急展開
    • 効果音での驚き演出
    • 音楽の急な変調
  • コピー
    • 「実は…」「本当は…」
    • 常識を覆す問いかけ
    • 最後のどんでん返し
  • 制作チェックリスト
    • 驚きがポジティブな方向に着地するか
    • 驚きの後にブランドとの関連性があるか
    • 「驚かせるだけ」で終わっていないか
    • 視聴者が理解できる驚きか(複雑すぎないか)

驚きは「予想外だが理解可能」であることが重要です。複雑すぎる仕掛けは、視聴者を混乱させるだけで終わってしまいます。

感情訴求の成功事例をもっと詳しく知りたい方は、近日公開予定の「感情マーケティング事例15選:成功企業に学ぶ感情訴求の技術(記事No.49)」もご覧ください。業界別の具体例を多数紹介しています。

第3章:制作プロセスとチェックポイント

7つの感情パターンを理解したところで、実際の制作プロセスを見ていきましょう。感情広告は「なんとなく作る」ではなく、戦略的な設計が成功の鍵です。
本章では、このフローに沿って各段階での具体的な作業とチェックポイントを解説します。

3-1 企画段階:感情ターゲットの決定

感情広告の企画は、以下の4ステップで進めます。

  1. 顧客の感情的ニーズを特定する
    ターゲット顧客は、どんな感情的な課題を抱えているでしょうか。不安を解消したいのか、喜びを得たいのか、承認欲求を満たしたいのか。表面的なニーズではなく、感情レベルでの欲求を掘り下げます。
  2. ブランドとの適合を確認する
    7つの感情のうち、自社ブランドと相性が良いのはどれでしょうか。ブランドの「約束」や「パーソナリティ」と一致する感情を選ぶことが重要です。高級ブランドにユーモア訴求は難しいように、ブランドらしさとの整合性を確認します。
  3. 競合との差別化を検討する
    競合他社がすでに使っている感情訴求は何でしょうか。同じ感情で勝負すると埋もれてしまいます。差別化できる感情ポジションを探します。
  4. 7感情から最適なものを選定する
    以上を踏まえて、今回の広告で狙う感情を1つ(多くても2つ)に絞り込みます。複数の感情を詰め込むと、どれも中途半端になってしまいます。

【DLテンプレート】クリエイティブブリーフ

  • 目標感情:
  • ターゲット顧客の感情的課題:
  • ブランドの約束との関連:
  • 競合との差別化ポイント:
  • 期待する行動(視聴後にしてほしいこと):
  • トーン&マナー:
  • 絶対にやってはいけないこと:

このブリーフを埋めてから制作に入ることで、チーム全体の方向性が揃います。

【DL】感情広告コンセプト・スコアリングシート

以下の5つの項目について、あなたの広告企画を1~5点で評価し、合計点を算出してみましょう。合計点が20点以上なら、成功の可能性が高いコンセプトです。

  1. ブランド適合性 (1-5点): 狙う感情は、自社のブランドパーソナリティや「約束」と一致しているか?
  2. ターゲット共感度 (1-5点): この感情は、ターゲット顧客が日常的に抱える感情的課題に寄り添っているか?
  3. クリエイティブ強度 (1-5点): 最初の3秒で感情をフックし、最後まで感情曲線を描き切れるか?
  4. 独自性 (1-5点): 競合他社が多用していない、新鮮な感情アプローチか?
  5. 行動接続性 (1-5点): 動かした感情を、具体的なブランドアクション(購入、登録など)に繋げる道筋が明確か?

合計点: __ / 25点

3-2 制作段階:ビジュアル・音・コピーの統合

企画が固まったら、いよいよ制作に入ります。ここで重要なのは、ビジュアル・音・コピーの3要素を「統合的に」設計することです。

  • 最初の3秒設計
    広告の成否は最初の3秒で決まるといっても過言ではありません。この3秒で感情フックを入れられるかどうかが勝負です。
    • 視覚的なインパクト(意外な映像、動き)
    • 音でのサプライズ(効果音、沈黙)
    • 問いかけ(「もし〜だったら?」)
  • 色彩心理の活用
    色は感情に直接働きかけます。業界観察では、日本では季節性や和の美学に基づくニュートラルな色使いが好まれる傾向があり、アジア市場では色の意味が国ごとに異なるためローカライズが重要だと指摘されています(参考:FY Ads「Color Psychology in Asian Advertising: What Every Brand Must Understand to Win Consumer Trust」|2026|日本では中立的な色調が禅原理を反映する傾向)。
    • 喜び:黄色、オレンジ
    • 信頼:青
    • 興奮:赤
    • 安心:緑
    • 高級感:黒、金
  • 音楽の選定
    音楽は感情を増幅させる強力な要素です。複数のレビューにより、速いリズムは一般に高い覚醒(arousal)を誘導する傾向が報告されています(参考:Ncbi (PMC)「Emotion perception in music: Tempo, Key and Instrument Effects」|2023|テンポ/リズムと覚醒、調性、音色等が情動表現に寄与するという一般的関係を概説)。
    • テンポ:速い=覚醒、遅い=落ち着き
    • 調性:長調=明るい、短調=暗い・深い
    • 楽器:ピアノ=感動、ギター=親近感、ストリングス=壮大さ

なお、映像用途で既存の楽曲を使用する場合、同期(Publishing Sync)ライセンスとMaster使用許諾の双方が必要となります(参考:Cloud Cover Music「Corporate Music Licensing Guide 2024」|2024|映像用途で既存録音を使う場合、同期ライセンスとMaster Synchronization Licenseが必要)。フリー音源や自社制作も選択肢として検討してください。

  • ナレーションの声質
    声のトーンも感情に大きく影響します。
    • 感動:落ち着いた低めの声
    • 喜び:明るく弾んだ声
    • 信頼:安定感のある声
    • 緊急性:やや早口でテンション高め

3-3 テスト段階:効果検証とA/B

感情広告は、テストなしに本番投入するリスクが高い領域です。可能な限りA/Bテストを実施しましょう。
感情広告の効果を正しく評価するためには、短期的な行動指標だけでなく、長期的な態度変容まで含めた多角的な視点が重要です。【表】に示す5つの観点でテストを設計しましょう。

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評価観点測定方法代表的なKPI例ツール・手法の例
注目視聴データ分析視聴維持率(3秒/15秒)、完全視聴率、再生時間YouTube Analytics, Meta広告マネージャ
感情反応定性調査、SNS分析ポジティブ/ネガティブコメント比率、感情ワード出現率ソーシャルリスニングツール, アンケート調査
記憶・想起ブランドリフト調査広告想起率、ブランド認知度リフトGoogle Brand Lift, アンケート調査
ブランド態度ブランドイメージ調査ブランド好感度スコア、購買意欲スコアサーベイツール, パネル調査
行動喚起コンバージョン測定クリック率 (CTR), コンバージョン率 (CVR)Google Analytics, 各広告プラットフォーム
※一般的な広告効果測定指標を参考に編集部作成。
  • A/Bテストの具体例
    • 感情パターン違い:喜びver. vs 感動ver.
    • 音楽違い:アップテンポver. vs スローver.
    • CTA違い:「今すぐ」vs 感情的CTA
    • サムネイル違い:人物ver. vs 商品ver.

ブランディング理論で「見える/見えない × 経済/消費者」という評価の二軸がありますが、これを広告テストに応用すると、短期的に見える指標(クリック数、CTR)だけでなく、見えにくい指標(好感度、想起)も含めた多角的な評価ができます。

より具体的なコピーのテスト手法については、「感情訴求コピーライティング:心を動かす言葉の選び方と構成術」で詳しく解説しています。

第4章:媒体別の最適化

同じ感情訴求でも、媒体によって最適な表現は異なります。YouTube、Instagram/Facebook、バナー広告それぞれの特性を踏まえた最適化が必要です。
各媒体のユーザー行動や視聴環境に合わせて、感情表現を「翻訳」していく必要があります。以下のマップで、主要3媒体のポイントを掴みましょう。

4-1 YouTube広告

YouTube広告は、現在最も感情訴求に適した媒体の一つです。音声あり視聴が前提で、長尺の物語も可能だからです。フォーマットごとの特性を理解し、目的に合わせて使い分けることが重要です。主要なフォーマットの特徴を【表】にまとめました。

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フォーマットスキップ可否推奨される尺主な目的
バンパー広告スキップ不可6秒リーチと認知度の最大化
スキッパブル広告5秒後に可能12秒~3分ストーリーテリング、比較検討、行動喚起
ノンスキッパブル広告スキップ不可15~20秒メッセージを確実に伝えたい場合
出典:(参考:Bestever.ai「Best Practices for YouTube Ads」|2025|YouTube広告のフォーマット別尺ガイド)を参考に編集部作成
  • 最初の5秒の設計
    YouTube広告では、最初の5秒で視聴者をつかめないとスキップされる可能性が高いため、冒頭での強いビジュアルや問いかけなど短時間でのフックが推奨されます(参考:Bestever.ai「Best Practices for YouTube Ads」|2025|最初の5秒フックの重要性)。
    • 冒頭に感情フックを必ず入れる
    • ブランドロゴは5秒以内に一度見せる
    • 質問形式で視聴者の関心を引く
  • 30秒構成例(感動訴求)
    • 0-5秒:感情フック(問題提起/印象的なシーン)
    • 5-15秒:共感パート(視聴者の状況に寄り添う)
    • 15-25秒:解決/ストーリー展開
    • 25-30秒:ブランド登場+CTA

4-2 Instagram/Facebook広告

Instagram/Facebook広告は、YouTube広告とは設計思想がまったく異なります。

  • 無音視聴への対応
    業界の実務解説では、多くのユーザーが音声をオンにせずに動画を視聴する傾向が指摘されており、テキストオーバーレイや字幕、冒頭の強い視覚訴求を含む音声非依存のクリエイティブ設計が推奨されています(参考:Shuttlerock「【2025年最新】Instagram広告の種類と成果を出すコツ8選をご紹介」|2025|無音視聴の割合が高いユーザー行動を踏まえ、音声に頼らないビジュアル中心のクリエイティブ設計が重要)。
    • 字幕/テキストオーバーレイを必須で入れる
    • 音声なしでも内容が伝わる構成にする
    • 冒頭1秒で視覚的に引きつける
  • 縦型・正方形の活用
    縦型ショート動画(ストーリーズ、リール)はプラットフォーム特性を活かしやすく、没入感とエンゲージメント向上に寄与するとされます。
    • ストーリーズ/リール:9:16(縦型)
    • フィード:1:1(正方形)または4:5
    • 画面全体を使った迫力ある表現
  • サムネイルの重要性
    フィードでは、スクロールを止められるかどうかがすべてです。
    • 人物の顔(特に目)のクローズアップ
    • コントラストの強い色使い
    • テキストは大きく、3語以内

4-3 ディスプレイ/バナー広告

静止画のバナー広告では、限られたスペースと一瞬の接触時間で感情を伝える必要があります。

  • 「色×表情×3語コピー」の法則
    動画のような感情曲線は使えません。代わりに、3つの要素の組み合わせで感情を一瞬で伝えます。
    • :感情に対応した色を背景に
    • 表情:感情を体現した人物の表情
    • 3語コピー:核心を突く短いメッセージ
  • 例:感動訴求バナー
    • 色:温かみのあるオレンジ系
    • 表情:涙をこらえる母親の笑顔
    • コピー:「ありがとう、を届けたい」

動画広告やSNS広告といった主要な媒体での感情表現については、それぞれ専門の記事で近日詳しく解説予定です。

第5章:失敗を避けるためのチェックリスト

感情広告は、成功すれば大きな効果を生みますが、失敗するとブランドに深刻なダメージを与えるリスクもあります。よくある失敗パターンと、それを避けるためのチェックリストを紹介します。

5-1 よくある失敗パターン

19年間の支援経験から、低予算での失敗には共通パターンがあることがわかってきました。

  1. 感情とブランドの不一致
    ブランドの価値観や約束と関係のない感情訴求は、違和感を生むだけでなく、「便乗」「あざとい」という印象を与えてしまいます。
  2. 感情の押しつけ
    「泣いてください」「笑ってください」という意図が透けて見える広告は、視聴者に反発されます。感情は結果として生まれるものであり、強制するものではありません。
  3. 文化的・社会的配慮の欠如
    2025年上期の国内広告炎上では、ジェンダーや多様性配慮の欠如が主要な要因の一つとして指摘されています(参考:in the loop「【2025年上期版】“広告”から生まれる炎上-事例から読み解く傾向と対策」|2025|2025年上期の国内広告炎上は、ジェンダー/多様性配慮の欠如が主要因)。制作段階で多角的な表現チェックや早期警戒フローを設けることが有効です。
  4. 行動導線の欠如
    感動させて終わり、笑わせて終わり——感情を動かしただけで行動につなげない広告は、ビジネス成果を生みません。必ずCTAと接続させましょう。

感情マーケティングの失敗例と具体的な対策については、近日公開予定の「感情マーケティング失敗例5選:避けるべき落とし穴と対策(記事No.64)」で詳しく解説しますので、公開をお待ちください。

5-2 制作前チェックリスト

以下のチェックリストを、制作プロセスの各段階で活用してください。

  • 【企画段階】
    • 狙う感情は1つ(多くても2つ)に絞られているか
    • ターゲット顧客の感情的ニーズを理解しているか
    • ブランドの約束・価値観と一致しているか
    • 競合との差別化ポイントは明確か
    • 目標とする行動(CTA)は設定されているか
  • 【制作段階】
    • 最初の3-5秒で感情フックが入っているか
    • ビジュアル・音・コピーに一貫性があるか
    • 感情曲線(A-E-S-S-A)を意識した構成か
    • ブランドの登場タイミングは適切か
    • CTAは感情の流れに沿っているか
  • 【リスクチェック】
    • 特定の属性を傷つける表現はないか
    • 文化的・宗教的に不適切な要素はないか
    • ジェンダーバイアスはないか
    • 法令(景表法、薬機法等)に抵触しないか
    • 社内の多様な視点でレビューしたか
    • 批判が来た場合の対応は準備できているか
  • 【公開前最終確認】
    • A/Bテストは実施したか(可能な範囲で)
    • 効果測定の指標と方法は決まっているか
    • SNSモニタリング体制は整っているか

まとめ

「人は広告ではなく感情を見る」——この記事を通じて、この言葉の意味をより深く理解いただけたのではないでしょうか。

感情に訴える広告を作るためのポイントを整理します。

  1. 7感情の「型」を理解する
    喜び、感動、恐怖、怒り、ユーモア、懐かしさ、驚き。それぞれに適したビジュアル、音、コピーのパターンがあります。まずは型を知ることが第一歩です。
  2. A-E-S-S-Aで構成する
    Attention(感情フック)→ Empathy(共感)→ Story(感情曲線)→ Solution(ブランドの役割)→ Action(感情的CTA)。この構造で組み立てることで、感情を行動に変換できます。
  3. 媒体特性に合わせて最適化する
    YouTube、Instagram/Facebook、バナー。同じ感情訴求でも、媒体によってベストな表現は異なります。それぞれの特性を踏まえた設計が必要です。
  4. リスク管理を怠らない
    感情広告は諸刃の剣です。成功すれば大きな効果がありますが、失敗するとブランドを傷つけます。チェックリストを活用し、多角的なレビューを必ず行ってください。

今日からの3ステップ

  1. 今日やること:自社広告の感情パターン棚卸し
    現在出稿している広告を見直し、どの感情に訴えているか(あるいは訴えていないか)を分析してください。
  2. 今週やること:最適感情を1つ選定し、ブリーフを完成させる
    ターゲット顧客、ブランドの価値観、競合状況を踏まえて、狙うべき感情を決定します。クリエイティブブリーフを完成させましょう。
  3. 今月やること:2パターン以上をA/Bテスト
    可能であれば、異なる感情パターンや表現でA/Bテストを実施し、効果を検証してください。データに基づいて改善を重ねることが、感情広告の精度を高めます。

感情訴求動画の制作テクニックや、SNSでの感情マーケティングについては、それぞれ専門の記事で近日詳しく解説予定です。ぜひそちらもご覧ください。

FAQ

Q1:7つの感情の中で、どの感情を選べばいいですか?

A:まずは「ブランドの約束・価値観」との一致を最優先してください。ブランドらしさと関係のない感情訴求は、違和感を生みます。次に「ターゲット顧客の感情的ニーズ」を考慮します。顧客が抱えている感情的な課題(不安を解消したい、認められたい等)に応える感情を選びましょう。最後に「競合との差別化」を検討し、埋もれないポジションを探してください。

Q2:ユーモア訴求を使いたいのですが、外すのが怖いです。対策はありますか?

A:ユーモアは最も「外しやすい」感情訴求です。対策としては、①ターゲット層の「笑いのツボ」を事前にリサーチする、②誰かを傷つけるユーモアは絶対に避ける、③社内の多様なメンバー(年齢、性別、バックグラウンドが異なる人)でレビューする、④可能であれば小規模なテスト配信で反応を見る——といったステップを踏むことをお勧めします。それでも不安な場合は、より安全な「喜び」や「感動」の訴求から始めるのも一つの選択肢です。

Q3:恐怖訴求は効果的と聞きますが、どこまでやっていいのでしょうか?

A:恐怖訴求は、保険、セキュリティ、健康分野で効果的ですが、倫理的なラインを超えると大きな問題になります。絶対に守るべきルールは、①恐怖だけで終わらせず、必ず「解決策」「安心」をセットで提示する、②誇大表現・虚偽情報は厳禁、③法令(景品表示法、薬機法等)を遵守する——の3点です。「問題提起→解決策→行動」の流れで完結させることが必須条件です。恐怖を煽るだけの広告は、短期的に注目を集めても、長期的にはブランドを傷つけます。

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この記事を書いた人

当編集部は、世界的エンタメブランドでの実績を持つブランディング専門家の知見をもとに、実践的なブランドマネジメント情報を発信しています。

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セサミストリート、ディズニー、ウルトラマンなど、数々の世界的ブランドを手がけた35年の業界経験から導き出された理論と実践ノウハウを、検索ユーザーの課題解決に役立つ形で体系化。最新のブランディング手法を分かりやすく解説します。

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