「エモい」だけでは通じない?感情マーケティングを社内説得できる【5大理論とROI証明】

「感動する広告だから効果的」——こう説明して、社内で納得を得られた経験はあるでしょうか。

私は19年間WEBマーケティングに携わってきましたが、感情マーケティングの提案で最も苦労したのが「なんとなく良さそう」という感覚を、経営層に論理的に説明することでした。ROIを求められる現場で「エモい」だけでは通用しません。

しかし、感情マーケティングは決して「なんとなく」の領域ではありません。心理学や神経科学の研究者たちが数十年にわたって蓄積してきた学術的根拠があり、その効果は大規模調査で実証されています。

IPAの大規模分析では、感情訴求広告は理性訴求の約2倍の長期効果を示すことが報告されています。Nielsenの調査でも、神経科学的指標で高評価を得た広告は、FMCG広告の限定サンプルにおいて売上に23%多く貢献したというデータが確認されています(参考:Nielsen Insights「Advertising + emotions = increase sales」|2022|neuroscienceベース広告の売上効果)。

当編集部では、世界的エンタメ企業で35年間にわたりブランドビジネスの最前線で活躍してきた専門家の知見をもとに、感情マーケティングの理論的基盤を体系的に整理してきました。本記事では、主要な感情理論をマーケティング施策に翻訳可能な形で解説し、社内説得にも使える具体的なフレームワークを提供します。

感情マーケティングの基礎から学びたい方は「感情マーケティングとは?心理学に基づく5つの原則と実践方法」も併せてご覧ください。

目次

第1章:感情マーケティングの学術的基盤

1-1. 感情の定義(心理学における整理)

マーケティングで「感情」を扱う際、まず理解すべきは心理学的な定義です。感情(Emotion)は単なる「気持ち」ではなく、以下の4つの側面から構成される複合的な現象として捉えられています。

感情の4側面

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側面内容マーケティングでの観察方法
主観的体験本人が感じる「嬉しい」「悲しい」などアンケート、インタビュー
生理反応心拍数上昇、発汗、瞳孔拡大などEEG、GSR、心拍計測
行動傾向接近行動(買いたい)、回避行動(離脱)クリック率、滞在時間、購買行動
表出表情、声のトーン、身振り表情認識AI、音声分析

実務上重要なのは、「感情」「気分」「感覚」を区別することです。広告が狙うのは主に「感情」の喚起であり、ブランド体験が育てるのは「気分」としての好意的傾向といえます。これらの違いを以下の表にまとめました。

【表】感情・気分・感覚の比較

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項目感情 (Emotion)気分 (Mood)感覚 (Sensation)
対象特定の対象・出来事に向かう対象が明確でないことが多い身体的な刺激
持続時間短期的(数秒~数分)長時間持続(数時間~数日)瞬間的
強度強い弱く、背景的刺激強度に依存
マーケティング応用広告、キャンペーン(短期喚起)ブランド体験、店舗環境(中長期醸成)商品の触感、味覚、嗅覚(直接体験)

1-2. 感情研究の歴史が示す4つの重要転換点

感情に関する学術研究は、マーケティング実務に多くの示唆を与えてきました。主要な研究者と、その知見のマーケティング応用を整理してみましょう。

  • ウィリアム・ジェームズ(1890年代)
    理論の要点:「泣くから悲しい」という逆説的な命題で知られます。身体反応が先行し、それを脳が解釈して感情が生まれるという考え方です。
    マーケティングへの示唆:体験設計において「身体性」を活用することの重要性が挙げられます。試食、試着、VR体験などが感情を喚起しやすいのは、この理論で説明できます。
  • ポール・エクマン(1970年代)
    理論の要点:6つの基本感情(喜び、悲しみ、恐れ、怒り、驚き、嫌悪)が文化を超えて普遍的であることを示しました。
    マーケティングへの示唆:これはグローバル展開する広告の設計に重要な示唆を与えています。ただし、近年の研究では文化的表示規則(display rules)の影響も指摘されており、普遍性を過大評価しないよう注意が必要です(参考:Thinking Feeling Being 「The Science of Facial Expressions: Paul Ekman, Universality, and the Debate Over Emotion」|2025|表情認識の文化的制約に関するレビュー)。
  • アントニオ・ダマシオ(1990年代)
    理論の要点:ソマティック・マーカー仮説は、感情が意思決定のショートカットとして機能することを示しました。反復的な接触によって形成された「情動タグ」が、無意識的に選択を導くという考え方です。
  • ダニエル・カーネマン(2000年代)
    理論の要点:System 1&2理論は、直感的・感情的な速い思考と、論理的・意識的な遅い思考の二重構造を明らかにしました。
    マーケティングへの示唆:多くの購買決定がSystem 1で行われているという知見は、感情訴求の重要性を裏付けています。

消費者心理の詳細については「消費者心理と感情:購買行動を左右する6つの感情トリガー」で解説しています。

第2章:主要な感情理論とマーケティング応用

本章では、マーケティング応用において特に重要な5つの感情理論を解説します。それぞれの理論がどのような位置づけにあるのか、まずは全体像を掴んでみましょう。

このように、各理論は得意とする領域が異なります。自社の課題に合わせて理論を使い分けることが、感情マーケティング成功の鍵となります。

2-1. エクマンの6基本感情理論

エクマンの研究では、南フォレ族を含む複数文化間比較により、多くの基本感情表情で高い認識率が示されました(参考:Paul Ekman, Wallece V. Friesen「Constants across cultures in the face and emotion」|1971|異文化間表情認識研究)。ただし、感情によって認識率の幅があり、恐れや悲しみでは42-67%と低い一致率を示すこともあります。

マーケティングにおける6基本感情の活用指針を整理すると、以下のようになります。

表1:6基本感情×マーケティング活用マトリクス

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感情活用シーン効果的な表現注意点
喜びブランド好感度向上、シェア促進笑顔、明るい色彩、ユーモア作為的な演出は逆効果
悲しみ共感、寄り添い、社会課題訴求静かな音楽、抑制された演出必ず希望とセットで
恐れ行動喚起、FOMO、保険・安全商材緊張感のある映像、警告過度な恐怖訴求は回避行動を招く
怒り社会課題、正義感、改革訴求力強いメッセージ、対立構造炎上リスクが高い
驚き注目獲得、記憶定着、新商品発表意外性、ギャップポジティブな驚きに限定
嫌悪問題提起、Before表現不快感を誘う映像解決策とセットが必須

19年の経験から言えるのは、単一の感情訴求よりも「感情の移行」を設計することの重要性です。たとえば、問題提起(不安)→解決策(安心)→行動喚起(期待)という流れを意識すると、より効果的なコミュニケーションが可能になります。

2-2. プルチックの感情の輪

ロバート・プルチックは8つの基本感情を提示し、それらの強度と組み合わせによって多様な感情が説明できるモデルを構築しました(参考:6seconds.org「Plutchik’s Wheel of EmotionsExploring the Feelings Wheel and How to Use It 」|2025|プルチックの感情の輪解説)。

8つの基本感情と4対の対立関係

  • 喜び(Joy)↔ 悲しみ(Sadness)
  • 信頼(Trust)↔ 嫌悪(Disgust)
  • 恐れ(Fear)↔ 怒り(Anger)
  • 驚き(Surprise)↔ 予期(Anticipation)

このモデルの実務的価値は、複合感情の設計にあります。隣接する基本感情の組み合わせにより、より微妙なニュアンスの感情を狙うことができます。

複合感情の例と活用

  • 喜び+信頼=愛:ブランドロイヤルティの醸成に最適
  • 悲しみ+驚き=失望:アフター体験で回避すべき感情
  • 予期+喜び=楽観:新商品発売前のティザー施策に有効
  • 恐れ+信頼=服従:保険商品などの安心訴求に活用

ブランドの「感情パレット」として、主要感情1-2つと補助感情1-2つを定義しておくと、クリエイティブの一貫性を保ちやすくなります。

2-3. PADモデル(Pleasure-Arousal-Dominance)

PADモデルはMehrabian & Russell(1974)によって提唱された感情の3次元モデルです。S-O-R理論(Stimulus-Organism-Response)に基づき、環境刺激が消費者の情動を変化させ行動反応に影響を与えるフレームワークとして、小売・広告研究で広く活用されています。

3つの次元

  • Pleasure(快-不快):心地よさ、満足感の度合い
  • Arousal(覚醒度):活性化、興奮の度合い
  • Dominance(支配度):コントロール感、自律性の度合い

研究によると、Pleasureが態度や購買行動に対して一貫して強い正の影響を示すことが多く、Arousalは主にPleasureを介した間接効果を通じて行動に寄与します(参考:Academy of Marketing Studies Journal 「The Impact of Emotions on Consumer Attitude Towards a Self-Driving Vehicle: Using the Pad (Pleasure, Arousal, Dominance) Paradigm to Predict Intention to Use」|2020|PADモデルの実証研究)。

表2:PADポジショニングマップ活用ガイド

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覚醒度×快不快感情状態適したカテゴリ例
高覚醒×快興奮、歓喜新商品発表、イベント、スポーツ
低覚醒×快安らぎ、満足ラグジュアリー、リラクゼーション
高覚醒×不快怒り、恐怖社会課題啓発、保険、安全
低覚醒×不快退屈、悲しみ回避すべき領域

自社ブランドと競合をこのマップにプロットすることで、感情的な差別化ポイントを可視化できます。PAD尺度の項目数は研究によって9〜23項目と幅があるため、調査目的に合わせて設計・検証することを推奨します(参考:Harry van Vliet「The Measurement of Atmospherics」|2018|PAD尺度設計の多様性)。

コラム:PADモデルを補完する「ラッセルの円環モデル」
PADモデルと合わせて理解しておきたいのが「ラッセルの円環モデル」です。これは感情を「快-不快(Valence)」と「覚醒-睡眠(Arousal)」の2軸で円環状にマッピングするもので、PADモデルのPleasureとArousalの次元に対応します。
このモデルの利点は、各感情が円環上に配置されることで、感情間の関係性(例:「興奮」と「喜び」は近いが、「満足」とは少し離れている)を視覚的に捉えやすい点にあります。自社のブランドが狙う感情をこの円環上にプロットし、競合との位置関係を確認することで、より直感的な感情戦略を立案できます。

2-4. 二重処理理論(System 1 & 2)

カーネマンの二重処理理論は、人間の思考を2つのシステムに分類しました。

  • System 1:速い、直感的、感情的、自動的
  • System 2:遅い、論理的、意識的、努力を要する

マーケティングにおける重要な示唆は、多くの購買決定がSystem 1で行われているという点です。カスタマージャーニーの初期段階ではSystem 1への訴求が優先され、関心が深まった段階でSystem 2向けの詳細情報を提供する戦略が効果的です(参考:tovira.jp「ダニエル・カーネマンの二重過程理論をBtoB広告に活かす」|不明|二重過程理論のBtoB広告適用)。

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要素System 1(直感的)System 2(論理的)
視覚色彩、表情、動きグラフ、比較表
言語キャッチコピー、語感仕様、スペック
テンポ、メロディナレーション解説
構成ファーストビュー重視スクロール後の詳細

LPの設計では「上半分=System 1」「下半分=System 2」という配置が一つの指針になります。ただし、これは目安であり、商材の関与度や顧客セグメントによって最適な配分は異なります。

2-5. ソマティック・マーカー仮説

ダマシオのソマティック・マーカー仮説は、感情に紐づく身体的反応(somatic marker)が意思決定に影響するという理論です。vmPFC(ventromedial prefrontal cortex:腹内側前頭前皮質)の関与が指摘されています(参考:A R Damasio「The somatic marker hypothesis and the possible functions of the prefrontal cortex」|1996|ソマティック・マーカー仮説の理論的レビュー)。

ただし、この仮説については慎重な理解が必要です。Maia & McClelland(2004)の再検証では、健常参加者が早期に明示的知識を獲得することが示され、「無意識的な体性感覚が常に先行して意思決定を導く」という強い主張は再検証に耐えないとされています。最近の研究でも、皮膚電気反応のanticipatory効果は限定的で条件依存的であることが報告されています(参考:Rebecca J. Wright 、 Tim Rakow「Testing the somatic marker hypothesis in decisions-from-experience with non-stationary outcome probabilities」|2023|ソマティック・マーカー仮説の再検証)。

マーケティングへの示唆としては、「感情は意思決定に重要な役割を果たすが、そのメカニズムと効果の大きさは未解明点が多い」と理解しておくのが適切です。反復接触×一貫メッセージ×小さな成功体験によって好意的な感情連想を形成するという実務的アプローチは、理論的基盤を持ちつつも、現場でのA/Bテストによる検証が不可欠です。

感情マーケティングの基本概念については「感情マーケティングとは?心理学に基づく5つの原則と実践方法」で詳しく解説しています。

第3章:感情マーケティングの効果研究

3-1. IPA研究(英国広告業協会)

IPAのBinet & Fieldによる研究は、広告効果の測定において最も引用される研究の一つです。30年以上の広告事例データを分析し、短期の販売促進活動(activation)と長期のブランド構築(brand building)がそれぞれ異なる役割を持ち、両者のバランスが重要であると指摘しています(参考:Les Binet Head of Effectiveness, adam&eve DDB「Advertising effectiveness: The Long and the Short of It」|2016|短期と長期のマーケティング戦略)。

同レポートは、短期のオンライン指標に偏る評価が長期的なブランド価値の構築を損なう可能性を警告しています(参考:IPA knowledge report「The Long and the Short of It: Balancing Short and Long-Term Marketing Strategies」|2026|短期と長期のマーケティング戦略)。業界では感情的訴求が長期的ブランド強化に寄与するとの解釈が一般的ですが、具体的な効果比率を提示する際はIPAの一次データ確認が推奨されます。

実務への示唆

短期KPI(コンバージョン、CPA)と長期KPI(ブランド想起、NPS、LTV)を両立させる評価設計が重要です。感情訴求は特に長期効果で優位性を発揮する傾向があるため、評価期間を十分に設定することが必要です。

3-2. Nielsen研究

Nielsenの報告では、neuroscienceベースのテストで平均より良好と判定された広告は、確認されたFMCGサンプルにおいて売上を約23%向上させたと報告されています(参考:Nielsen Insights「Advertising + emotions = increase sales」|2022|感情と広告効果の関係)。

また、ブランド指標(認知や検討度)の1ポイント向上が売上1%の増加に相当するという傾向も報告されています(参考:Nielsen Insights「Long-Term Business Vitality Should Outweigh Short-Term Sales Gains」|2021|ブランド指標と売上の相関)。

ただし、これらの数値はFMCGの限定サンプルに基づくものであり、他カテゴリへの一般化や因果の断定には注意が必要です。方法論の詳細な開示がないため、参考値として活用しつつ、自社での検証を並行して進めることを推奨します。

3-3. 低関与処理理論:注意を引かなくても感情は届くか

Robert Heathの低関与処理理論(LAP:Low Attention Processing)は、広告が受ける注意が低い状況でも感情的影響(affect)が相対的に大きく作用することを主張しています(参考:Alex Murrell「Robert Heath: Seducing the Subconscious」|2025|Heath理論サマリー)。

「affectは注意を高めなくても処理されうる」「emotionally competent elements(情動的に有能な要素)が比較的低い注意水準でもbrand associationsとして保存されうる」という知見は、テレビCMやバナー広告など、必ずしも高い注意を獲得できない接点での感情訴求の意義を示唆しています(参考:SAGE Handbook Advertising Chapter「Reinforcement and Low Attention Processing」|2025|低関与処理と強化)。

日本国内の調査でも同様の傾向が見られます。消費者の購買決定において「機能」だけでなく「情緒」の重要性が増していると言われています。

このデータから専門家として言えるのは、特に成熟市場である日本では、スペック競争から抜け出し、顧客との感情的な絆を築くことが持続的な競争優位につながるということです。海外の研究だけでなく、国内のトップエージェンシーも同様の結論に至っている点は、社内説得において強力な論拠となります。

表3:効果研究サマリー比較表

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研究主要発見実務示唆注意点
IPA(Binet & Field)感情訴求は長期効果で優位短期×長期KPIの両立設計具体的数値は要一次確認
Nielsen神経指標高評価広告で売上+23%感情反応の事前テスト価値FMCGサンプル限定
Heath(LAP)低注意でも感情は処理される反復接触の価値定量的検証は限定的
出典:本記事 第2章の内容に基づき編集部作成。各理論の詳細は(参考:Paul Ekman, Wallece V. Friesen「Constants across cultures in the face and emotion」|1971|異文化間表情認識研究)、(参考:6seconds.org「Plutchik’s Wheel of Emotions」|2025|プルチックの感情の輪解説)、(参考:Academy of Marketing Studies Journal 「The Impact of Emotions on Consumer Attitude Towards a Self-Driving Vehicle: Using the Pad (Pleasure, Arousal, Dominance) Paradigm to Predict Intention to Use」|2020|PADモデルの実証研究)、(参考:Rebecca J. Wright Tim Rakow「Testing the somatic marker hypothesis in decisions-from-experience with non-stationary outcome probabilities」|2023|ソマティック・マーカー仮説の再検証)等を参照。

感情マーケティングの効果測定については、近日公開予定の「感情マーケティング効果測定:感情の成果を数値化する方法(記事No.66)」で詳しく解説しています。

第4章:理論の実践応用

4-1. 理論から実践への変換(3ステップ)

感情理論を実務に落とし込む際の手順を整理します。

Step 1:目標感情の選択

エクマン6感情、プルチックの複合感情、PADモデルを組み合わせて、狙うべき感情を明確化します。
例えば、D2Cの新商品発売であれば「高覚醒×快(興奮)」+「喜び+予期(楽観)」を狙います。BtoB採用サイトであれば「低覚醒×快(安心)」+「信頼+喜び(愛着)」が適切かもしれません。

Step 2:感情トリガーの設計

System 1に働きかける要素を中心に、感情トリガーを設計します。

  • 視覚:色彩心理(暖色=活性化、寒色=鎮静)、人物の表情、動きの速度
  • :テンポ(BPM)、メロディ(長調=明るさ、短調=哀愁)、音量変化
  • 言語:語感(濁音=力強さ、清音=清潔感)、リズム、レトリック

これらを統合マーケティングコミュニケーション(IMC)の視点で、チャネル横断で一貫させることが重要です。

Step 3:効果測定の設計

短期指標と長期指標を組み合わせた測定設計を行います。

  • 短期:表情認識、視線計測、感情語反応、エンゲージメント率
  • 長期:ブランド想起、好意度、NPS、購買意図、LTV

4-2. 理論を使った社内説得

経営層への説明では、学術的根拠とROI仮説を組み合わせることが効果的です。

社内説得スクリプト例
「感情マーケティングは”なんとなく”ではありません。IPAの研究では、30年以上の広告データ分析から、短期施策と長期ブランド構築の両立が重要であることが示されています。Nielsenの調査では、神経科学的指標で高評価を得た広告は売上に23%多く貢献したという報告もあります。
当社の場合、現在の広告は〇〇という感情を狙っていますが、競合は△△の感情ポジションを取っています。PADモデルで分析すると、□□の領域が空いています。ここを狙う感情訴求を3ヶ月テストし、ブランド指標と売上相関を検証することを提案します。」

このように、理論→KPI仮説→検証計画という流れで説明すると、感覚的な議論を避けられます。この流れをまとめた「社内説得用ワンシート」のテンプレートをご用意しましたので、ぜひご活用ください。

感情マーケティング施策 ROI仮説シート

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項目内容記載例
① 選択理論どの感情理論に基づいて施策を設計するかPADモデル、プルチックの感情の輪
② 目標感情狙うべき具体的な感情状態(System 1要素)「高覚醒×快(興奮)」+「予期(新しさへの期待)」
③ ターゲット誰のどの感情を動かしたいか20代〜30代女性、新製品への好奇心が高い層
④ 具体的な施策どのようなクリエイティブやチャネルで訴求するかSNS広告(動画)、ティザーサイト、インフルエンサーコラボ
⑤ 短期KPI直ちに測定できる中間指標広告クリック率、SNSエンゲージメント率、サイト滞在時間
⑥ 長期KPIブランド価値や事業成長に繋がる最終指標ブランド好意度、NPS、LTV、指名検索数
⑦ 想定ROI(仮説)施策によって期待される投資対効果の仮説短期CVR 1.5倍、長期NPS +5pt → 売上+X%

効果測定の具体的な方法は、近日公開予定の「感情マーケティング効果測定:感情の成果を数値化する方法(記事No.66)」で詳しく解説します。

深掘りコラム:BtoBにおける「感情」の役割とは?―“信頼”と“安心”という最強のソマティック・マーカー
BtoBの意思決定は論理的(System 2)だと思われがちですが、実は「信頼」や「安心」といった感情(System 1)が極めて重要な役割を果たします。高額で失敗が許されないBtoB商材の選定において、担当者は無意識のうちに「この会社なら任せられる」という感情的な確証を求めています。これはまさに、ポジティブなソマティック・マーカーが形成されている状態です。
営業担当者の誠実な対応、導入事例の豊富さ、一貫したブランドメッセージの反復接触。これらすべてが「信頼」という感情タグを蓄積させ、最終的な合理判断を後押しするのです。BtoBマーケティングとは、論理的な説得材料を揃えるだけでなく、いかにして顧客の脳内に「安心」というソマティック・マーカーを刻み込むかの戦いでもあるのです。

第5章:最新の感情マーケティング研究

5-1. 神経マーケティング

fMRIやEEGを用いた神経マーケティングは、言語化できない感情反応を直接観察できる手法として注目されています。

ただし、装置費用・運用コストが高く、被験者のインフォームドコンセント、収集データの匿名化・保管方法、第三者提供時の同意範囲など、透明性を担保した運用が不可欠です。中小企業にとっては費用対効果の観点から、まずはアンケートベースの感情測定やSNS感情分析から始めることを推奨します。

5-2. AIと感情分析

AI技術の進歩により、テキスト・表情・音声の感情分析がより手軽に利用できるようになっています。

テキスト感情分析

SNSの投稿やレビューから感情傾向を抽出することが可能です。ただし、スラング、皮肉(sarcasm)、絵文字・短文文脈、多言語対応の弱さは複数の出典で一貫して指摘されている課題です。

表情認識

深層学習モデルの精度が向上しています。学術論文では、特定のデータセット(拡張FER/CK+)上でEfficientNetB7-CNNがテスト精度81%を達成したという報告があります(参考:Gheed T. Waleed and Shaimaa H. Shaker「Human Emotion Recognition Based on Facial Expression Expression Using Convolution Neural Network」|2024|深層学習を用いた表情認識のテスト精度)。ただし、これは特定の条件下での精度であり、実運用時の精度を保証するものではありません。データセットのクラス不均衡やサンプル多様性(肌色・年齢・性別等)が精度やバイアスに影響するため、実運用時は限界を理解した上で活用する必要があります。

音声感情認識

コールセンターなどでの活用事例が報告されています。航空会社事例で顧客苦情が30%減少、通信会社事例で満足率が20%向上といったケーススタディがありますが、計測方法の詳細は公開されていないため参考値として扱うべきです(参考:My AI Front Desk Blog「Voice-Based Emotion TrackingMonitoring Customer Satisfaction Trends」|2024|音声感情認識の活用事例)。

AIによる感情分析は、テキスト、表情、音声の3つのアプローチが主流です。それぞれに得意なことと課題があり、目的に応じて使い分ける必要があります。以下の表で各技術の特徴を比較してみましょう。

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分析手法主な技術・データソース精度と課題主な活用シーン中小企業の導入ハードル
テキスト分析自然言語処理(NLP)、機械学習精度は向上しているが、皮肉や文脈理解が課題SNSモニタリング、顧客レビュー分析、VOC(顧客の声)分析
(SaaSツールが豊富)
表情認識コンピュータビジョン、深層学習(CNN)特定データセットで高精度(例: 81%)だが、実環境での精度や文化的バイアスが課題広告クリエイティブテスト、UXリサーチ、動画コンテンツ評価
(専用ツールやAPI利用)
音声認識音声信号処理、音響特徴量分析感情識別の精度は発展途上。背景雑音に弱いコールセンター応対品質評価、オペレーター支援
(専門システム導入が必要)
出典:(参考:Gheed T. Waleed and Shaimaa H. Shaker「Human Emotion Recognition Based on Facial Expression Expression Using Convolution Neural Network」|2024|深層学習を用いた表情認識のテスト精度)、(参考:My AI Front Desk Blog「Voice-Based Emotion TrackingMonitoring Customer Satisfaction Trends」|2024|音声感情認識の活用事例)に基づき編集部作成。

このように、中小企業がまず着手しやすいのはテキスト分析と言えるでしょう。一方で、より深いインサイトを得るためには、表情認識などの手法も視野に入れる価値があります。AI感情分析は意思決定の補助ツールとして位置づけ、最終判断は人間が行うことを基本とするのが現時点での適切なスタンスです。

まとめ

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理論モデル中心概念主なマーケティング応用シーン実践上のポイント・注意点
エクマンの6基本感情文化普遍的な6つの基本感情(喜び、悲しみ等)が存在する広告クリエイティブ、グローバルキャンペーンの基本設計単一感情より「感情の移行」を設計することが重要。文化的表示規則も考慮。
プルチックの感情の輪8つの基本感情の強度と組み合わせで多様な感情を説明ブランドの「感情パレット」定義、複合感情(例:愛、楽観)の戦略的設計どの複合感情でロイヤルティを醸成するか、ブランドの提供価値と接続させる。
PADモデル感情を「快-不快」「覚醒度」「支配度」の3次元で捉える競合との感情ポジショニング分析、店舗環境やWebサイトのUX設計「快(Pleasure)」が購買行動に最も強く影響する傾向があるため、最優先で設計する。
二重処理理論思考は直感的(System 1)と論理的(System 2)に分かれるLPやWebサイトの構成設計(上半分System 1、下半分System 2など)多くの購買決定はSystem 1で行われるため、ファーストビューでの直感的な訴求が鍵。
ソマティック・マーカー仮説感情に紐づく身体反応が意思決定のショートカットとして機能する反復接触によるポジティブなブランド連想の形成(信頼、安心感)理論の強い主張は再検証で支持されておらず、効果は限定的。A/Bテストでの検証が不可欠。
出典:本記事 第2章の内容に基づき編集部作成。各理論の詳細は(参考:Paul Ekman, Wallece V. Friesen「Constants across cultures in the face and emotion」|1971|異文化間表情認識研究)、(参考:6seconds.org「Plutchik’s Wheel of Emotions」|2025|プルチックの感情の輪解説)、(参考:Academy of Marketing Studies Journal 「The Impact of Emotions on Consumer Attitude Towards a Self-Driving Vehicle: Using the Pad (Pleasure, Arousal, Dominance) Paradigm to Predict Intention to Use」|2020|PADモデルの実証研究)、(参考:Rebecca J. Wright Tim Rakow「Testing the somatic marker hypothesis in decisions-from-experience with non-stationary outcome probabilities」|2023|ソマティック・マーカー仮説の再検証)等を参照。

感情マーケティングは「なんとなく良さそう」ではなく、心理学・神経科学の学術研究に裏付けられた科学的アプローチです。本記事で解説した主要理論を整理すると、以下のようになります。

5つの主要理論とマーケティング示唆

  1. エクマンの6基本感情:普遍的な感情コードを活用した広告設計
  2. プルチックの感情の輪:複合感情の設計によるブランドの感情パレット構築
  3. PADモデル:感情ポジショニングマップによる競合差別化
  4. 二重処理理論:System 1(直感)とSystem 2(論理)の配分設計
  5. ソマティック・マーカー仮説:反復接触による感情連想の形成(効果は要検証)

効果データのポイント

  • IPA研究:感情訴求は長期効果で優位性を示す傾向
  • Nielsen調査:神経指標高評価広告で売上+23%(FMCGサンプル)
  • Heath理論:低注意状況でも感情は処理される

今日から始められるアクション

  1. 【現状分析】自社と競合の感情ポジションを把握する:本記事のPADマップを参考に、自社ブランドと主要競合が現在どのような感情イメージを持たれているかをプロットしてみましょう。
  2. 【目標設定】狙うべき「空白の感情領域」を決める:マップ上で競合が手薄な、かつ自社の強みを活かせる感情ポジションを特定し、次のキャンペーンの目標感情とします。
  3. 【施策立案】ROI仮説シートを作成する:第4章の「ROI仮説シート」を使い、目標感情を達成するための具体的な施策、KPI、そして期待される効果を言語化し、社内合意を形成しましょう。

感情マーケティングの基礎から学びたい方は「感情マーケティングとは?心理学に基づく5つの原則と実践方法」を、消費者心理の詳細を知りたい方は「消費者心理と感情:購買行動を左右する6つの感情トリガー」をご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 感情訴求はBtoBでも有効ですか?どの感情が機能しますか?

A1. BtoBでも感情訴求は有効です。意思決定者も人間であり、System 1の影響を受けます。ただし、BtoCとは狙うべき感情が異なります。BtoBで機能しやすいのは「信頼」「安心」「期待(将来への楽観)」であり、「興奮」「驚き」はBtoCほど効果的ではない傾向があります。特にカスタマージャーニーの初期段階では「この会社なら安心」という感情的印象が重要であり、詳細な比較検討(System 2)はその後に行われます。

Q2. ネガティブ感情の活用はリスクがありますか?安全な設計手順は?

A2. ネガティブ感情(恐れ、悲しみ、嫌悪、怒り)の活用にはリスクがありますが、適切に設計すれば効果的です。安全な設計手順としては、「問題提起→解決策→希望」という流れを必ず組み込むことです。恐怖訴求のみで終わると回避行動(ブランド離脱)を招きます。怒りの活用は炎上リスクが高いため、社会課題など「共通の敵」に向けた正義感として設計し、特定の人物・企業への攻撃にならないよう注意が必要です。

Q3. 短期KPIで効果が出ない時、何を見直すべきですか?

A3. 感情訴求は短期KPI(コンバージョン、CPA)より長期KPI(ブランド想起、好意度、NPS)で効果が現れやすい傾向があります。短期効果が出ない場合、まず「評価期間が適切か」を確認してください。3ヶ月以上の測定が必要なケースも多いです。次に「感情とターゲットのマッチング」を検証します。狙った感情がターゲットの価値観と合っているか、PADモデルで再分析することを推奨します。それでも効果が見られない場合は、System 2要素(論理的訴求)とのバランスを調整してみてください。

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この記事を書いた人

当編集部は、世界的エンタメブランドでの実績を持つブランディング専門家の知見をもとに、実践的なブランドマネジメント情報を発信しています。

編集方針:
セサミストリート、ディズニー、ウルトラマンなど、数々の世界的ブランドを手がけた35年の業界経験から導き出された理論と実践ノウハウを、検索ユーザーの課題解決に役立つ形で体系化。最新のブランディング手法を分かりやすく解説します。

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