「パーパスを掲げました」——そう発表した翌年、何も変わっていない。
こんな企業を、最近よく見かけるようになりました。美しい言葉を並べた経営理念ページ、サステナビリティレポートに印刷された使命文。でも現場の社員に聞くと「よく知らない」、顧客からは「何かが変わった気がしない」という声が返ってくる。
WEBマーケティングの仕事を19年続けてきた中で、中小企業から大企業まで数多くのブランディング支援に関わってきましたが、パーパスが「掲げた言葉」で止まっている例と、「事業と人を動かす力」になっている例の差は、見れば一目でわかります。
その違いを生む構造を理解したくて、当編集部では、世界的エンタメ企業で35年間にわたりブランドマネジメントの最前線で活躍してきた専門家の知見をもとに研究を重ねてきました。
近年、パーパス主導で経営変革を加速した企業の事例が増えています。Harvard Business Review(2022)は、パーパス志向の企業がイノベーション水準で約30%高い成果を示すと報告しています(参考:Harvard Business Review「The Purpose Factor」|2022|パーパス主導企業はイノベーション水準が約30%高い)。
また、Benevity(2026)の調査では、リーダーの88%がインパクト戦略を「採用・定着・顧客対応・規制対応などで将来の事業価値を支えるもの」と認識しており(参考:Benevity「State of Corporate Purpose: 2025 Research」|2026|リーダーの88%がインパクト戦略を事業価値強化と認識)、パーパス経営への関心は確実に高まっています。
本記事では、海外4社・国内4社・中小/D2C 2社、計10社のパーパス事例を「課題 → パーパス → 施策 → 成果」という統一フレームで分解します。単なる事例の羅列ではなく、あなたの会社に転用できる”構造”として提供することが目的です。
「どこから始めればいいかわからない」という経営者・担当者の方に、この記事が最初の一手を与えるものになれば幸いです。
パーパスの全体像や定義を先に整理したい方は、「ブランドパーパスは「なぜ動かない」?84.6%が失敗する課題を解決する作り方と浸透【専門家解説】」で基礎から解説しています。策定方法の実務を知りたい方は、「ブランドパーパスの作り方|現場で「動く」5ステップ実践ガイド【ワークシート付】」をご参照ください。
第1章:海外企業のパーパス事例(4社)
事例を読む前に——評価フレームについて
この章では、各事例を以下の統一フォーマットで分解します。
| 評価軸 | 内容 |
|---|---|
| ①企業概要・パーパス文 | 公式に発表されているパーパスの原文と背景 |
| ②起点の課題 | パーパスを策定・再定義した背景にある外部/内部課題 |
| ③パーパス・行動原則 | 上位の約束(purpose)と、それを支える判断基準 |
| ④施策 | 事業/組織/コミュニケーションの具体的な動き |
| ⑤成果KPI(見える×見えない) | 定量指標と、数字に現れない価値の両軸で確認 |
| ⑥中小転用ポイント | 規模を問わず使える視点の抽出 |
ブランディングの基本理論として広く知られているのが、「ブランドとは価値の約束である」という考え方です。
この観点から言えば、パーパスとは企業が社会・顧客・社員に対して交わす“最上位の約束”であり、その約束が事業・人事・調達まで一貫して体現されているかどうかが、成功と失敗を分けます。
【図:ブランドパーパスの二層構造】を参照すると、上位の約束がどのように現場の施策へと変換されるかのイメージが掴みやすくなります。

1-1. Patagonia:地球環境と事業を一体化したパーパス
①企業概要・パーパス文
アメリカのアウトドアウェアブランド、Patagonia。創業者イヴォン・シュイナードは「We’re in business to save our home planet.(私たちの地球を救うためにビジネスをしている)」という言葉でパーパスを表明しています。これは製品説明ではなく、存在理由そのものです。
②起点の課題
アウトドア産業は環境負荷の高い産業の一つです。合成繊維の使用、遠距離輸送、廃棄物——Patagoniaはかつてその矛盾に正面から向き合い、「作る側が環境を壊している」という根本課題に気づきました。
③パーパス・行動原則
約束(パーパス)は「地球を救う」。原則(行動基準)は「最高品質の製品を作る、環境への影響を最小化する、ビジネスを使って環境危機への解決策を発見・実施・普及する、行動する」という4つの柱です。
④施策
- 素材の革新:オーガニックコットンへの全面移行、廃漁網からフリースを生産するNetplus素材など
- 修理・再利用プログラム:「Worn Wear」で製品寿命を延ばし、廃棄を減らす
- アクティビズム:環境保護のための訴訟参加、政治献金への反論広告など
- 所有権移転(2022年):創業者が株式をパーパス保全トラスト・環境NPOに譲渡
⑤成果KPI
| 指標区分 | 内容 |
|---|---|
| 見える指標 | Worn Wearプログラムによる修理実績の継続公開、素材調達の透明性開示 |
| 見えない指標 | 「買わないで」と広告を出してもファンが増えるブランド信頼、採用志願者の質の向上 |
⑥中小転用ポイント
中小企業がPatagoniaから学べる最大の教訓は「寄付より先に、事業動線での是正」です。「環境に配慮したい」というパーパスがあるなら、まず仕入れ・製造・包材の見直しから始める。広告でそれを語るのは、実態が変わってからで十分です。
1-2. Nike:人の可能性を解き放つパーパスの進化
①企業概要・パーパス文
Nikeのパーパスは「Bring inspiration and innovation to every athlete in the world.(世界中すべてのアスリートにインスピレーションとイノベーションをもたらす)」。補足として「もしあなたに体があれば、あなたはアスリートだ」という定義が付きます。
②起点の課題
1990年代、サプライチェーンにおける労働問題で大きな批判を受けました。「高いパフォーマンスを求めることと、倫理的な運営は両立できるか」という問いに向き合う必要が生じたのです。
③パーパス・行動原則
約束は「アスリートとしての人間の可能性を引き出す」。行動原則は「Move to Zero(気候変動への対応)」「多様なアスリートへのアクセス拡大」「コミュニティへの投資」の三軸です。
④施策
- Move to Zero:Nikeは気候変動対策として自社施設でのGHG排出量を2030年までに70%削減(絶対量)する目標を掲げています。サプライチェーン全体でも30%削減を目指しています(参考:Nike 「Sustainable Development Goals」|2024|2030年までのGHG削減目標を明記)。
- 多様な層への投資:女性・パラスポーツ・ユースへの支援拡大
- コミュニティ投資:地域スポーツプログラムへの継続支援
⑤成果KPI
| 指標区分 | 内容 |
|---|---|
| 見える指標 | GHG削減目標の進捗(年次報告で公開)、コミュニティ投資金額 |
| 見えない指標 | 若年層・多様な背景を持つアスリートとの感情的接続、DE&I指標の改善 |
⑥中小転用ポイント
Nikeの視点で中小企業に転用できるのは「自社が解放する”できない理由”への介入」という設計思想です。「誰のどんな制約を、我々のサービスは外せるか」——この問いがパーパス設計の起点になります。
1-3. Unilever(コーポレート):Sustainable Living Plan
①企業概要・パーパス文
コーポレートパーパスは「Make sustainable living commonplace.(サステナブルな生活を当たり前にする)」。グローバルで400以上のブランドを持つ同社が、このパーパスを「コーポレートの傘」として設定しています。
②起点の課題
環境負荷・サプライチェーンの複雑性といった課題に対し、「成長するほど世界を傷つける」矛盾を解消するために、パーパス経営への転換を図りました。
③パーパス・行動原則
コーポレートの約束は「サステナブルな生活の普及」。各ブランドはこの傘の下で、Lifebuoyは「衛生を通じた命の救済」、Doveは「女性の美の多様化」といった具体的なパーパスを持ちます。
④施策
- パーパスブランドの設定:全ブランドにパーパスを付与し、業績を紐づけたKPI評価を導入
- Lifebuoyの手洗いプログラム:途上国での衛生改善活動
- 採用・社内エンゲージメント:「なぜ働くか」をパーパスで語れる組織文化の構築
⑤成果KPI
| 指標区分 | 内容 |
|---|---|
| 見える指標 | パーパスブランドの売上成長率が非パーパスブランドを上回る(年次報告参照) |
| 見えない指標 | ESG評価機関からの高評価、採用競争力の向上 |
⑥中小転用ポイント
コア商材の「より良い日常化」を一行で定義すること。中小企業も「我々の商品・サービスは、誰の日常をどう変えるか」を一文で言語化し、製造・流通全体に落とし込むことができます。
1-4. Dove(ユニリーバ):Real Beautyで社会の基準を変える
①企業概要・パーパス文
Doveのパーパスは「女性が自分の美しさに自信を持てる世界を作る」。
化粧品ブランドとして「美しくする製品を売る」のではなく、「美の基準そのものを変える」ことを宣言します。
②起点の課題
美容業界が作り上げてきた「痩せた体型、若々しい外見」といった画一的な理想イメージに対する反動を起点にしています。
③パーパス・行動原則
約束は「女性の美への自信の再定義」。行動原則は「画像の加工・修正を行わない」「多様な属性の女性を起用する」「自尊心教育を提供する」の三つです。
④施策
- Campaign for Real Beauty:140カ国で3,500万人以上の女性にリーチし、自己肯定感に肯定的影響を与えたと評価されています(参考:Harvard Business School「Dove: The Real Beauty Campaign」|2019|140カ国3,500万人以上へのリーチ)。
- 自尊心教育プログラム:若者向けの体型・外見に関する教育活動
- 画像加工なしポリシー:広告制作の厳格な内部ルール化
⑤成果KPI
| 指標区分 | 内容 |
|---|---|
| 見える指標 | 140カ国・3,500万人以上へのリーチ、カテゴリー内でのシェア強化 |
| 見えない指標 | ブランドへの感情的共鳴の高さ、社会的な話題化 |
⑥中小転用ポイント
「固定観念の是正」をパーパスにする場合、最初の実装コストは小さくて済みます。広告の画像選定基準を変える、言葉の選び方をガイドライン化する——こうした内部ルールの整備から始めるのが現実的な一歩です。
海外4社の事例を比較すると、以下の【表】のように、各社が独自の社会課題をビジネスモデルの中核に据えていることがわかります。
| 企業名 | パーパス(要約) | 主な具体的施策 | 主要成果(KPI例) |
|---|---|---|---|
| Patagonia | 地球を救うためにビジネスをする | Worn Wear(修理・再利用) | 修理実績の継続公開、ファン信頼の向上 |
| Nike | 全てのアスリートに革新を | Move to Zero(GHG削減) | 2030年GHG 70%削減目標(絶対量) |
| Unilever | サステナブルな生活の普及 | パーパスブランドのKPI評価 | 非パーパスブランドを凌ぐ成長率 |
| Dove | 美の自信の再定義 | 自尊心教育、画像加工禁止 | 140カ国・3,500万人へのリーチ |
第2章:日本企業のパーパス事例(4社)
日本企業の事例で興味深いのは、「経営改革の文脈でパーパスを位置づけ直した」ケースが多い点です。長期経営計画の核にパーパスを置き、KPIと連動させています。
2-1. ソニー:クリエイティビティとテクノロジーで感動を
①企業概要・パーパス文
ソニーのパーパスは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」。
「電機メーカー」から「感動体験の提供企業」へと自己定義を変えたことを示します。
②起点の課題
2010年代の赤字脱却に向け、「なぜソニーはソニーなのか」という根本的な問いに向き合う中で、感動という価値軸が再発見されました。
③パーパス・行動原則
約束は「感動の創出」。行動原則は「エンターテインメント×テクノロジーの融合」「クリエイターへの支援」など。感動を軸に事業を再整理しています。
④施策
- 事業強化:PlayStation・音楽・映画事業への集中
- 新領域展開:医療現場での感動(救命)へのアプローチ
- クリエイター支援:写真・映像・音楽のクリエイターエコシステム構築
⑤成果KPI
| 指標区分 | 内容 |
|---|---|
| 見える指標 | ゲーム・音楽・映画セグメントの売上成長、IR評価の向上 |
| 見えない指標 | 従業員の「なぜここで働くか」の明確化、採用志望動機の質的変化 |
⑥中小転用ポイント
「感動」という抽象的な価値を、事業プロセスに落とすこと。「我々のサービスで感動を感じる瞬間はいつか」をリストアップし、それを評価基準に組み込むことが実装の第一歩です。
2-2. 味の素:食と健康・栄養改善で社会に貢献
①企業概要・パーパス文
味の素のパーパスは「アミノサイエンス®で、人・社会・地球のWell‑beingに貢献する」(参考:味の素株式会社 「ASVレポート2023」|2023|ASV経営の根幹を示すパーパス)。
②起点の課題
単なる食品メーカーの枠を超え、栄養不足・高齢化といった社会課題への貢献を明確化する必要がありました。
③パーパス・行動原則
約束は「アミノサイエンスによる Well-being」。2030年までに「10億人の健康寿命の延伸」と「環境負荷50%削減」を掲げています。
④施策
- 栄養改善プロジェクト:国内39都道府県での地域展開(参考:消費者庁「味の素グループのパーパス経営実践について」|2022)。
- ASV指標の設定:栄養価を高めた製品割合を2030年に60%とする目標(2022年度実績56%)(参考:味の素株式会社 「ASVレポート2023」|2023|ASV経営の根幹を示すパーパス)。
⑤成果KPI
| 指標区分 | 内容 |
|---|---|
| 見える指標 | 栄養価製品割合56%(2022年度実績)、環境負荷削減目標への進捗 |
| 見えない指標 | 「食と健康に貢献する企業」としての社会的信頼、採用ブランドの向上 |
④中小転用ポイント
顧客の健康・時間・コストのうち「自社商品が何を良くするか」を一点集中で定義すること。「この一点において我々はプロだ」と言える軸をパーパスにする手法は非常に有効です。
2-3. オムロン:センシング&コントロールで社会課題を解決
①企業概要・パーパス文
長期ビジョン「SF2030」にて、社会的課題の解決を事業の核に据えています(参考:オムロン株式会社 「統合報告書2025」|2025|長期ビジョンを明記)。
②起点の課題
技術の高度化と、労働安全・高齢化対応といった社会的役割の両立が求められる背景がありました。
③パーパス・行動原則
約束は「センシング&コントロールによる社会課題解決」。技術理念がこの上位の約束を支えています。
④施策
- SIIP:社会課題の解決に直結する新規事業創出プログラム
- 健康管理機器:血圧計などを通じた健康課題への貢献
- 人事評価:パーパスを人材評価制度へ反映
⑤成果KPI
| 指標区分 | 内容 |
|---|---|
| 見える指標 | 各事業セグメントの成長、長期ビジョンの達成進捗 |
| 見えない指標 | 解く課題が明確なことによる採用力、社内エンゲージメントの向上 |
⑥中小転用ポイント
技術の「解く課題」を1行で言語化すること。「高品質な製品を作る」ではなく「○○業界の△△というロスをゼロにする」と言い切れるか。この明確さが事業選択の基準になります。
2-4. SOMPO:「安心・安全・健康のテーマパーク」へのパーパス転換
①企業概要・パーパス文
「”安心・安全・健康に溢れる社会”の実現に向け、安心・安全・健康のテーマパークを目指す」というビジョンを掲げています。
②起点の課題
「保険料を受け取る事業」から「人生のリスクを予防・支援する事業」への転換が求められました。
③パーパス・行動原則
約束は「人々の安心・安全・健康を支える社会インフラとなること」。介護やヘルスケアデータの活用を原則としています。
④施策
- 介護事業展開:保険から介護まで一体的なケアを提供
- データ活用:予防領域でのデータドリブンな支援
- 投資:テーマパークというメタファーで期待値を統一
⑤成果KPI
| 指標区分 | 内容 |
|---|---|
| 見える指標 | 介護事業の規模拡大、収益の多様化 |
| 見えない指標 | 保険会社を超えたブランド認識、事業選択基準の明確化 |
⑥中小転用ポイント
既存事業を「人生の課題地図」の上に再配置すること。「我々の顧客はライフステージのどの局面で困るか」を起点にサービスの並べ方を変えるだけで、パーパス体現につながります。
深掘りコラム:パーパスは「コスト」か「投資」か?
中小企業の経営者から「パーパス経営は理想論だ」という声を聞くことがあります。しかし、Patagoniaは環境への取り組みで熱狂的なファンを獲得し、後述するD2Cブランドもパーパスを武器に高い継続率を誇っています。彼らにとってパーパスは、利益が出た後の「コスト」ではなく、顧客から選ばれ、優秀な人材を惹きつけるための「エンジン(投資)」です。「何で儲けるか」の前に「なぜ存在するのか」を問うことこそが、持続的な利益を生むための合理的な戦略なのです。
第3章:中小企業・D2Cのパーパス事例(2社)
規模が小さいほど、経営者の価値観が事業に浸透しやすく、パーパスを強力な武器にできます。
3-1. D2C食品ブランドA社:サブスク継続率93%を支える健康パーパス
パーパスが事業モデルを支える構造
D2C食品分野では、「完全栄養食」という新しい価値をパーパスに掲げたブランドが急成長しています。ある調査によれば、代表的なブランドはサブスク会員数13.7万人・継続率93.2%(2022年時点)を達成しました(参考:JASEC「D2Cブランドの急成長とSNS活用:日本発デジタルD2Cの最前線」|2026|サブスク継続率93.2%を記録)。
「便利だから続ける」のではなく「自分の健康という価値観と一致しているから続ける」。この感情的理由が驚異的な継続率を支えます。
中小企業への転用構造
- 課題の定義:「忙しい人の栄養不足」など解決する課題を一行で。
- 存在意義の言語化:なぜ自分たちでなければならないかを明確に。
- 非機能要件への実装:パーパスを商品設計の基準に組み込む。
- 共感の獲得:パーパスを語り、共感する人をファンにする。
3-2. D2CコスメブランドB社:「非機能要件」としての倫理基準
パーパスが購買理由を変える
「クリーンビューティ」「動物実験なし(クルエルティフリー)」をパーパスにするブランドが台頭しています。ある代表的なブランドは累計販売数1.6億本(2023年時点)を達成しています(参考:JASEC「D2Cブランドの急成長とSNS活用:日本発デジタルD2Cの最前線」|2026|累計1.6億本を達成)。
パーパスを「非機能要件(NFR)」として実装する
中小企業に示唆を与えるのは、「パーパスをチェックリスト化し、審査フローに組み込む」という設計思想です。
実装例(チェックリスト型):
- 原料に動物由来成分が含まれていないか
- 製造委託先が動物実験を行っていないか
- 広告表現が実態と矛盾していないか
この一貫性が、大企業には真似できないブランドの「純度」と信頼を生み出します。
社内浸透の具体的な手法については近日公開予定の「パーパスの社内浸透メソッド(記事No.127)」で、失敗パターンについては近日公開予定の「ブランドパーパスの失敗例(記事No.132)」で詳しく解説します。
第4章:10事例から学ぶ”共通法則”
4-0:10社に共通する「Why・How・What」の連鎖
今回紹介した10社に共通するのは、サイモン・シネック氏が提唱する「ゴールデンサークル理論」を体現している点です。多くの企業が「What(何を作るか)」から語るのに対し、成功企業は「Why(なぜ我々は存在するのか)」から出発します。
この構造を視覚化したのが、以下の【図:パーパス経営のゴールデンサークル】です。

Patagoniaなら、Whyは「地球を救うため」、Howは「環境負荷の少ない製品開発」、Whatが「アウトドア製品」です。この一貫性が、ブレないブランドの核を形成します。
4-1. 実態一致(Doing = Being)
パーパスは「我々はこういう存在だ」という約束です。成功事例に共通するのは、パーパスが現場のオペレーション(製品設計・人事評価)にまで落ちている点です。
Purpose-washingの研究(2023)は、掲げる目的と行動が一致しない状態がブランド評判を悪化させることを示しています(参考:King’s College London「Purpose-washing」|2023|言行不一致が評判悪化を招く)。
4-2. 一貫性(時間軸・タッチポイント軸)
ブランドステートメントの二層構造(上位の約束+下位の原則)が連動していることが重要です。Nikeが「Just Do It」という言葉を変えずに、その中身を時代に合わせて進化させてきたのは、一貫性を守り抜いた好例です。
4-3. 社員の巻き込み(採用・評価・育成)
ソニーやSOMPOの事例でも、制度反映と継続的な対話が浸透の鍵とされています(参考:田辺コンサルティング「パーパス経営を浸透させるポイント」|2023|社員の巻き込み事例)。
具体的には、以下の3段階での実装が有効です。
- 採用段階:パーパスに共鳴する人材を選ぶ
- 評価段階:パーパスに沿った行動を評価に組み込む
- 育成段階:定期的な対話や事例共有を行う
4-4. 双方向性(社会・顧客との対話)
パーパスの強度は、批判に直面したときに試されます。2026年の報告では、欧州での罰金事例などSDGsウォッシュへの厳しい目が向けられています。
双方向性を担保するための実務Tips:
- 年次レポートに改善ループを可視化する
- 顧客や社員からのフィードバックを収集する仕組みを作る
国内企業・D2Cブランドにおけるパーパス起点の数値成果を以下の表にまとめました。
| カテゴリ | 企業/ブランド例 | 成果指標 | 数値・実績(出典年) |
|---|---|---|---|
| 食品(大手) | 味の素 | 栄養価製品割合 | 56%(2022年度実績) |
| D2C(食品) | A社(完全栄養食) | サブスク継続率 | 93.2%(2022年時点) |
| D2C(コスメ) | B社(クリーン型) | 累計販売数 | 1.6億本(2023年時点) |
| IT/製造 | ソフトウェア企業事例 | 収益成長 | 112%増(2019-2023) |
日本企業の多くがパーパスを策定している一方で、従業員への浸透を課題とする企業が多数存在すると言われています。成否を分けるのは、策定ではなく「浸透の仕組み作り」なのです。
パーパスの策定方法は「ブランドパーパスの作り方|現場で「動く」5ステップ実践ガイド【ワークシート付】」を、経営判断との連携は「パーパス経営で失敗しない!日本の事例・4つの進め方・早期検知KPIをプロが徹底解説」もご参照ください。
まとめ
要点整理:10事例に共通する3つの視点
- パーパスは”掲げる言葉”ではなく”選ばれ続ける約束”
一貫して体現されているとき、パーパスはブランドの力になります。 - 10事例の共通構造:「課題→パーパス→施策→成果」のループ
「解くべき課題」から逆算してパーパスを定義することが重要です。 - 中小企業の”構造的優位”を活かす
組織が小さいほど浸透は早い。独自の「純度」を磨くことで、大手と差別化できます。
次のアクション:今日からできる「ワークシート」
【パーパスの核を見つける5つの質問】まずは以下の質問に、箇条書きで答えを書き出してみましょう。
- 【Why】もしお金が問題でなければ、なぜこの事業を続けますか?
- 【Who】私たちの仕事がなくなったら、一番悲しむのは誰ですか?
- 【How】私たちが絶対に譲れない「こだわり」は何ですか?
- 【What】私たちは顧客に「何」を究極的に提供していますか?
- 【Wow】私たちが実現したい、驚くような未来とは?
- STEP 1:自社の「課題3つ」を書き出す
- STEP 2:「ブランドパーパスの作り方|現場で「動く」5ステップ実践ガイド【ワークシート付】」のテンプレートを埋める
- STEP 3:社内のメンバーと「なぜこの事業をやっているか」を30分語り合う
FAQ
Q1. 自社に近い事例が見つからない場合は?
業種ではなく「課題構造」の近さで選んでください。「品質の約束をサプライチェーンまで守る」という構造は、製造業でもサービス業でも共通して転用可能です。
Q2. パーパスは広告スローガンと何が違うのですか?
スローガンは「外向きのメッセージ」ですが、パーパスは「内側の判断基準」です。採用や調達、製品設計にまで連動しているのがパーパスです。
Q3. パーパスの成果はいつ見えてくるのですか?
短期(6〜12ヶ月)では採用候補者の質が、中期(1〜3年)ではLTVが、長期(3年以上)ではブランドプレミアム(指名買い)として現れます。
パーパスの全体像は「ブランドパーパスは「なぜ動かない」?84.6%が失敗する課題を解決する作り方と浸透【専門家解説】」で確認できます。
コミュニケーション観点の事例は近日公開予定の「パーパスブランディングの企業事例(記事No.129)」で、落とし穴については近日公開予定の「ブランドパーパスの失敗例(記事No.132)」でさらに深掘りします。
