「なぜ売れる?」感情マーケティングとは|顧客の心を掴む心理学5原則と売上23%UPの法則

なぜ同じコーヒーでも、あるブランドだけが選ばれ続けるのでしょうか。機能も価格も似たような商品が並ぶ市場で、特定のブランドだけが指名買いされる理由——それは「感情」にあります。

私たちの購買意思決定の多くは、理性的な思考が及ばない無意識の領域、つまり感情や直感によって行われていると言われています。

このデータから、専門家として言えるのは、BtoBのような合理性が重視される領域でさえ、最終的な決定は「この担当者なら信頼できる」という安心感や「この企業と働くと未来が拓けそうだ」という期待感といった感情が左右する、ということです。機能や価格で最終候補に残った後、選ばれるための最後のひと押しは、論理ではなく感情なのです。

19年間、中小企業のWEBマーケティング支援に携わってきた経験から断言できるのは、機能や価格だけでは差別化が難しい時代になっているということ。情報過多で商品がコモディティ化する中、顧客の心を動かし、選ばれ続けるには感情への訴求が不可欠です。

しかし「良さは伝えているのに、なぜか刺さらない」という声も多く聞きます。それは、感情マーケティングが単なる「感動的な広告を作ること」ではないからです。消費者心理の理解に基づいた、体系的な設計が必要なんです。

当編集部では、世界的エンタメ企業で35年間にわたりブランドマネジメントに携わった専門家の知見をもとに、感情マーケティングの実践手法を研究してきました。本記事では、その成果として心理学的な裏付けと実務経験を融合させた、今日から使える設計の基礎をお届けします。

目次

第1章:感情マーケティングの定義

1-1 感情マーケティングとは(30秒定義)

感情マーケティングとは、顧客の感情に訴えかけ、感情的なつながりを築くことで購買行動を促すマーケティング手法です。

従来の理性的訴求との違いを見てみましょう。

理性的訴求の例
「当社の掃除機は吸引力2000Paで、他社比20%向上。価格は29,800円です」

感情的訴求の例
「子どもの笑顔が見たいから、毎朝5分だけ早起きする。その時間を、掃除機が取り戻してくれました」

どちらも事実を伝えていますが、後者は「子どもとの時間を大切にしたい」という顧客の願望に寄り添っています。
査読論文(Frontiers in Psychology, 2022)では、感情マーケティングを「心理的・感情的コミュニケーションにより消費者の信頼・嗜好を獲得し市場優位を得る手法」と定義しています。特に製品・サービスに顕著な革新がない場合、感情が購買意思決定の重要な要因となることが示されています。(参考:Frontiers in Psychology「The influence of brand marketing on consumers’ emotion in mobile commerce」|2022|心理的・感情的コミュニケーションを通じて消費者の信頼・嗜好を獲得し、市場シェアや競争優位を拡大するマーケティング手法)
興味深いのは、特定条件下のモバイルコマース実験では推薦成功率が約19%向上したという実証データがあること。もちろんこれは限定的な文脈での結果ですが、適切に設計された感情訴求が具体的な成果につながる可能性を示唆しています。

1-2 なぜ今、感情なのか(3つの時代背景)

感情マーケティングが注目される背景には、3つの大きな市場変化があります。

  1. 情報過多
    現代の消費者は1日に約5,000件もの広告メッセージに触れると言われます。その中で記憶に残るのは、理性ではなく感情を動かしたメッセージです。機能説明だけでは埋もれてしまうんですね。
  2. コモディティ化の進行
    技術革新により、多くの商品・サービスで機能差が縮小しています。「どこで買っても同じ」という状況では、感情的なつながりが最後の差別化要素になります。
  3. SNSによる共感拡散
    感情を動かすコンテンツは、SNSで自発的にシェアされます。企業が一方的に発信するより、顧客自身が「これ、いいよ」と語ってくれる方が何倍も効果的。感情訴求はバイラル効果を生みやすいんです。

この変化は数字にも表れています。業界報告によれば、感情的に結びついた顧客は客単価や収益性で約23%のプレミアムをもたらすとされています(参考:Propello Cloud「Emotional Loyalty Drives Brand Success」|2026|感情的ロイヤルティを持つ顧客はshare of wallet/profitability等で約23%のプレミアムをもたらす)
また、感情的ロイヤル顧客の平均滞留年数は約5.1年なのに対し、満足はしているが感情的結びつきがない顧客は約3.4年。この差は企業にとって大きいですよね。

1-3 感情マーケティングの3つの目標

感情マーケティングが目指すのは、以下の3つの段階です。

  • 目標1:認知・想起の向上
    感情を動かすコンテンツは記憶に残りやすい。購買検討時に「あのブランド」として思い出してもらうことが最初の目標です。
    IPA(英国広告業協会)の長年にわたるデータ分析によると、感情に訴求する広告は、理性的な広告と比較して、ブランド想起率で優位に立つことが示されています(参考:Neurosciencemarketing.com IPA(英国広告効果研究機構)広告効果報告(要旨引用を掲載した業界解説記事)|2026|感情訴求広告はブランド想起率81%、理性訴求広告は69%)
  • 目標2:購買意欲の喚起
    感情的なつながりは、「買いたい」という欲求を生み出します。機能だけでは「必要かも」止まりですが、感情が動くと「今すぐ欲しい」に変わるんです。
  • 目標3:長期的ロイヤルティの構築
    最終的には、ブランドへの愛着を育て、リピート購入や口コミ推奨につなげます。これが感情マーケティングの真の価値です。

ここで重要なのは、各タッチポイントで顧客がどんな感情を経験するかを意識的に設計すること。偶然ではなく、戦略的に感情体験を創り出す姿勢が求められます。

実務的な観点から見ると、この「感情ジャーニー」の設計が成否を分けます。認知段階では驚きや好奇心、検討段階では安心や信頼、購入後は満足や誇り——各段階で目標とする感情を明確にし、それを喚起するコンテンツを用意する。この一貫性が、長期的な関係構築につながります。近日公開予定の「感情マーケティング完全ガイド(記事No.47)」でさらに詳しく解説しています。

第2章:購買行動を左右する6つの感情とプルチックの「感情の輪」

心理学者ポール・エクマンが提唱した6つの基本感情は、文化を超えて普遍的とされています。マーケティングではこれらをどう活用できるのでしょうか。

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感情 活用シーン 良い使い方 悪い使い方(倫理的注意点)
喜び ポジティブな体験、幸福感の演出 顧客の成功を祝い、小さな喜びを積み重ねる設計。 根拠のない過剰なポジティビティ、現実との乖離。
悲しみ 共感の構築、社会課題への意識喚起 顧客の痛みに寄り添い、解決への希望を示す。 解決策を示さず不安だけを煽る、過度な悲観描写。
恐れ リスク認識、行動変容の促進 現実的なリスクを提示し、具体的な対策を示す。 誇張されたリスク、解決策のない不安の煽り。
怒り 社会的不正義への共感、変革の動機づけ 正当な怒りを建設的な行動につなげる。 攻撃的な表現、特定対象への誹謗中傷。
驚き 注目獲得、記憶定着、バイラル効果 ポジティブな驚きで期待を超える価値を提供する。 ネガティブな驚き、約束を裏切る展開。
嫌悪 避けるべき状況の明示、衛生意識の喚起 清潔さや健康の価値を強調し、解決策を示す。 不快感だけを与えて終わる、過度に生々しい表現。
出典:エクマンの基本感情理論に関する(参考:公認心理師 2021-88|2021|エクマンは基本感情を「怒り・嫌悪・恐れ・幸福(喜び)・悲しみ・驚き」の6種類と定義)、および本文第2章の記述をもとに編集部作成。

以下では、各感情の具体的な活用例と、実務で注意すべき点について掘り下げていきます。

2-1 喜び(Joy)

  • 活用シーンポジティブな体験、幸福感、楽しさの演出
  • 具体例
    • コカ・コーラの「Share a Coke」キャンペーン:自分の名前入りボトルを見つける喜び
    • ディズニーランド:「夢の国」という非日常的な幸福体験
  • 良い使い方
    顧客の達成や成功を一緒に祝う。小さな喜びを積み重ねる設計。
  • 悪い使い方
    根拠のない過剰なポジティビティ。現実と乖離した理想像の押し付け。

実務での注意点として、喜びは「共有したくなる」感情です。SNS時代には特に重要で、顧客が自発的に「これ楽しい!」と投稿したくなる体験設計を心がけましょう。

2-2 悲しみ(Sadness)

  • 活用シーン共感の構築、社会課題への意識喚起
  • 具体例
    • Doveの「Real Beauty」:理想的な美の基準に苦しむ女性への共感
    • 保険会社のCM:大切な人を失うリスクへの気づき
  • 良い使い方
    顧客の痛みに寄り添い、解決への希望を示す。
  • 悪い使い方
    過度に悲観的な描写。解決策を示さずに不安だけを煽る。

悲しみは強力ですが、必ず「でも、こうすれば変わる」という希望とセットで。19年の経験から言えるのは、共感だけでは不十分で、前向きな行動につながる道筋が必要だということです。

2-3 恐れ(Fear)

  • 活用シーンリスク認識、緊急性の創出、行動変容の促進
  • 具体例
    • セキュリティソフト:サイバー攻撃の脅威
    • 歯磨き粉:虫歯・歯周病のリスク
  • 良い使い方
    現実的なリスクを提示し、具体的な対策を示す。
  • 悪い使い方
    誇張されたリスク。不安を煽るだけで解決策がない。

倫理的配慮
恐怖訴求は効果的ですが、使い方を誤ると炎上リスクがあります。必ず「恐怖→解決策」のセットで提示し、過度な不安は避けましょう。

2-4 怒り(Anger)

  • 活用シーン社会的不正義への共感、変革への動機づけ
  • 具体例
    • フェアトレード商品:搾取的な労働環境への怒り
    • 環境保護キャンペーン:無責任な企業行動への批判
  • 良い使い方
    正当な怒りを建設的な行動につなげる。
  • 悪い使い方
    攻撃的な表現。特定企業や個人への誹謗中傷。

重要な注意
怒りは扱いが難しい感情です。炎上リスクが高いため、社会的に広く共有される正義感に基づき、建設的な方向性を示すことが必須です。

2-5 驚き(Surprise)

  • 活用シーン注目獲得、記憶定着、バイラル効果
  • 具体例
    • Appleの製品発表:「One more thing…」の演出
    • 予想外の景品やサービス:サプライズ特典
  • 良い使い方ポジティブな驚き。期待を超える価値提供。
  • 悪い使い方ネガティブな驚き。約束を裏切る展開。

驚きは瞬間的な注目を集めますが、その後の展開が重要。驚き→喜び、驚き→感動というポジティブな連鎖を設計しましょう。

2-6 嫌悪(Disgust)

  • 活用シーン避けるべき状況の明示、衛生意識の喚起
  • 具体例
    • 洗剤メーカー:汚れや菌への嫌悪感
    • 禁煙キャンペーン:タバコの健康被害
  • 良い使い方
    清潔さや健康への価値を強調。解決策を明確に示す。
  • 悪い使い方
    不快感だけを与えて終わる。過度に生々しい表現。

重要な倫理的配慮
嫌悪感は効果的ですが、見る人を不快にさせるリスクがあります。特に食品や衛生商品以外では慎重に。必ず「こうすれば解決」という前向きなメッセージとセットで使いましょう。

公認心理師の解説によると、エクマンの6基本感情は「怒り・嫌悪・恐れ・幸福(喜び)・悲しみ・驚き」とされ、軽蔑を第7感情として扱う議論もあります。(参考:公認心理師 2021-88|2021|エクマンは基本感情を「怒り・嫌悪・恐れ・幸福(喜び)・悲しみ・驚き」の6種類と定義)
ただし、日本人を対象とした研究(JCSS2021、n=12)では、写真条件で幸福・驚き・悲しみのみがエクマン表情に対応し、シナリオ条件では幸福のみが対応したとの報告もあります。つまり、文化や文脈によって感情の表出は異なる可能性があり、一律の適用には注意が必要なんです。(参考:日本人における基本感情と表情の関係分析(JCSS2021)|2021|日本人被験者(n=12)を用いた実験で、写真条件では幸福・驚き・悲しみのみがエクマン理論に対応づく表情を生成)

2-7 より繊細な感情設計を可能にする「プルチックの感情の輪」モデル

第2章ではエクマンの6つの基本感情を紹介しましたが、より nuanced(繊細な)感情設計を行うために、心理学者ロバート・プルチックが提唱した「感情の輪」というモデルも有効です。これは8つの基本感情(喜び、信頼、恐れ、驚き、悲しみ、嫌悪、怒り、期待)と、それらが混ざり合うことで生まれる応用感情(例:喜び+信頼=愛)を視覚的に示したものです。
このフレームワークを第3章の「原則2:適切な感情を選択する」で活用することで、例えば「安心」という感情を「信頼」と「喜び」の組み合わせと捉え、より解像度の高いコミュニケーション設計が可能になります。

消費者の心理については、「なぜ人は「つい買う」?脳科学が解き明かす6つの感情トリガーと売上UP戦略【実践テンプレ付】」でさらに詳しく解説しています。

第3章:感情マーケティングの5つの原則

理論を実務に落とし込むための5つの原則を紹介します。

原則1:顧客の感情を深く理解する

表面的なデータだけでは、顧客の本当の感情はわかりません。

  • 実践ステップ
    • 痛みの特定顧客が何に困っているのか、どんな不満を抱えているのか
    • 願望の把握本当は何を実現したいのか、どんな未来を望んでいるのか
    • 深層感情の探索表面的な要望の奥にある、本質的な欲求は何か
    • インサイトの導出顧客自身も言語化できていない、潜在的なニーズの発見
ステップ 質問 記入欄
痛み 顧客が日常で感じている不満や困りごとは? 例:毎日のルーティンに疲れている、子育てで自分の時間が取れない、健康への漠然とした不安がある
願望 その裏にある「本当はこうしたい」は? 例:もっと自由に時間を過ごしたい、家族と質の高い時間を過ごしたい、未来も健康でいたい
深層感情 さらにその奥にある感情は?(不安/憧れ/誇り等) 例:解放感、幸福感、安心感、自己肯定感
インサイト 顧客が言葉にできていない本質的な欲求は? 例:「日々の小さな負担から解放され、心ゆくまで家族との穏やかな時間や自分を大切にする時間を持ちたい」

ブランド体験の各タッチポイントで顧客がどんな感情を抱くか、感情的な利益をどう設計するか——この視点が、単なる機能訴求との決定的な差になります。

感情的つながりを再構築する際も、顧客との関係性を見直し、どんな感情体験を提供できるかを考えることが重要です。理論的には、ブランドは顧客との「価値の約束」であり、その約束を感情レベルで体現することが求められるんです。

原則2:適切な感情を選択する

すべての感情が、すべてのブランドに合うわけではありません。

  • 選定基準
    • ブランドの本質との整合性ブランドが本来持つ価値観と、喚起する感情が一致しているか
    • 顧客ニーズとの合致ターゲット顧客が求めている感情体験か
    • 市場でのポジショニング競合と差別化できる感情領域か

感情ポジショニングマップの活用

横軸を感情の種類(喜び/安心/驚き等)、縦軸を感情の強度として、自社と競合を配置してみましょう。空白領域や、自社が優位に立てる領域が見えてきます。

ブランドの「約束」と「原則」を明確にすることで、どんな感情を軸に据えるべきかが自然と見えてきます。これはブランドステートメントの2層構造——顧客への約束と、それを守るための原則——を考える作業とも重なります。
12の性格アーキタイプ(無邪気/英雄/世話人/探求者/反逆者/魔術師/一般人/愛人/道化師/賢者/統治者/創造者)も、感情選択の指針になります。自社がどのアーキタイプに近いかを考えることで、訴求すべき感情の方向性が見えてきます。

原則3:真実性(オーセンティシティ)を保つ

感情訴求で最も重要なのは、「本物であること」です。

  • 真実性の3要素
    • 言葉と行動の一致広告で語ることと、実際の商品・サービスが一致している
    • 本物の共感顧客の立場に本当に立ち、その視点から語る
    • 透明性良い面だけでなく、課題や限界も正直に伝える

自己点検チェックリスト

  • 私たちが語る感情を、自分たち自身も本当に信じているか
  • 顧客の声を本当に聞き、それを反映しているか
  • 過度な演出や誇張をしていないか
  • 約束したことを実際に実行できているか
  • 都合の悪い情報を隠していないか

真実性を失った瞬間、すべての努力が水泡に帰します。SNS時代には特に、嘘や誇張はすぐに見破られ、炎上リスクにもつながります。
感情マーケティング、特に「悲しみ」や「共感」を扱う際に陥りがちなのが、「感動ポルノ」と揶揄される手法です。これは、人の不幸や困難を安易に感動の道具として消費し、ブランドの利益につなげようとする姿勢を指します。
両者の境界線は、本記事の原則3で述べた「真実性(オーセンティシティ)」にあります。ブランドがその社会課題に本気で向き合い、事業活動を通じて解決しようと行動しているか。それとも、ただ広告表現として「良い話」を利用しているだけか。消費者はその表層的な姿勢を敏感に見抜きます。真の共感は、一貫した行動と透明性からしか生まれないのです。

原則4:一貫性を維持する

顧客は複数のタッチポイントでブランドと接触します。

  • 3つの一貫性
    • 時間の一貫性: 今日と明日で言うことが変わらない
    • 空間の一貫性: どのチャネルでも同じメッセージが伝わる
    • 人のの一貫性: 誰が対応しても同じブランド体験が提供される

統合コミュニケーション(IMC)の考え方では、すべての接点で一貫したメッセージを届けることが重要とされています。SNS、広告、店頭、カスタマーサポート——どこで接触しても、同じ感情体験が得られる設計を心がけましょう。
接点を翻訳する視点も大切です。同じブランドメッセージでも、媒体特性に応じた最適な表現に「翻訳」する。内容の一貫性は保ちつつ、表現は柔軟に調整するんです。

原則5:行動につなげる

感情を動かすだけでは不十分。行動まで導く設計が必要です。

  • 感情→行動の3ステップ設計
    • Step1:感情を喚起するストーリーや体験で感情を動かす
    • Step2:摩擦を減らす行動するための障壁を最小化する
    • Step3:感情的なCTAを設計する理性的な「今すぐ購入」ではなく、感情に響く行動喚起

感情的CTAの例

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接点ごとに、どんな感情を喚起し、どんな行動を促すのかを明確に設計する。この「感情→行動」の連鎖設計が、成果につながります。
これらの原則をブランド全体の設計に活かす「なぜAppleは高いのに売れる?感情で選ばれるブランドの作り方|5ステップと4大成功事例」や、具体的な言葉選びを探求する「なぜ人は「つい買う」?脳科学が解き明かす6つの感情トリガーと売上UP戦略【実践テンプレ付】」も併せてご覧ください。

第4章:感情マーケティングの実践方法

理論を実務に落とし込む4つのフェーズを解説します。

4-1 調査・分析フェーズ

  • 感情フォーカスのインタビュー設計
    通常の顧客インタビューに、感情に焦点を当てた質問を追加します。
    • 質問例
      • 「この商品を使った時、どんな気持ちになりましたか?」
      • 「購入を決めた瞬間、何を感じていましたか?」
      • 「理想の状態になったら、どんな感情を味わいたいですか?」
    • 観察ポイント
      • 言葉だけでなく、表情や声のトーンに注目
      • 「嬉しかった」の裏にある、より深い感情(達成感/安心/誇り等)を探る
      • 否定的な感情も丁寧に聞き取る
  • ソーシャルリスニングの活用
    SNSでの自然な会話から、顧客の感情を読み取ります。
    • 感情キーワードの抽出
      • ポジティブ:嬉しい/感動した/助かった/安心した
      • ネガティブ:困った/不安/残念/イライラ

キーワードの頻度だけでなく、文脈を読むことが重要。「〇〇があって助かった」の「助かった」は、どんな問題を解決したのか。そこに本質的なニーズが隠れています。

4-2 戦略設計フェーズ

  • 感情ポジショニングの決定
    1. 顧客ニーズの分析調査から得た感情的ニーズをリスト化
    2. 競合訴求の把握競合が訴求している感情を分析
    3. 自社本質の確認自社が本当に提供できる感情価値は何か
    4. 独自ポジションの決定顧客ニーズと競合状況を踏まえた、自社独自の感情領域
  • 感情ジャーニーの設計
    各段階で目標とする感情と、それを喚起するトリガーを設計します。
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顧客ステージ 目標感情 タッチポイント例 具体的施策例 測定KPI例
認知 好奇心/驚き SNS広告、記事広告、ブランドサイト 意外な事実の提示、斬新な表現、共感を呼ぶショート動画 リーチ数、インプレッション数、サイト流入数、滞在時間
興味 共感/期待 LP、サービス紹介動画、体験イベント ストーリー性のあるコンテンツ、顧客ベネフィットの強調 ページビュー、動画視聴完了率、イベント参加率
検討 安心/信頼 事例ページ、お客様の声、無料相談 導入実績の紹介、具体的な顧客メリット、専門家による解説 事例ページ滞在時間、問い合わせ件数、CVR
購入 期待/わくわく 購入完了ページ、初回特典、保証 購入後特典の案内、購入後の利用イメージ動画 購入完了率、初回利用率
使用 満足/達成感 オンボーディング、サポートメール、活用ガイド 成果の実感できる体験設計、継続利用へのサポート 継続利用率、NPS、顧客満足度
推奨 誇り/愛着 会員制度、コミュニティ、限定イベント 特別な顧客体験の提供、UGCの促進、アンバサダープログラム 口コミ数、SNSシェア数、LTV

より詳細な戦略の立て方については、「感情マーケティング戦略の策定ガイド(記事No.55)」で近日公開予定です。

4-3 クリエイティブ制作フェーズ

感情を喚起するクリエイティブには、3つの要素があります。

  • 1. コピー(言葉)
    • 感情を動かす言葉の選び方
      • 具体的なシーンの描写
      • 感覚的な表現(視覚/聴覚/触覚)
      • ストーリー性のある展開
    • 感情的なCTAの設計
      • 理性ではなく感情に訴える表現
      • 「あなた」の未来を描く

    言葉選びの技術は、「なぜ人は「つい買う」?脳科学が解き明かす6つの感情トリガーと売上UP戦略【実践テンプレ付】」でさらに深掘りしています。

  • 2. ビジュアル(視覚)
    • 色彩心理の活用
      • 暖色系:温かさ/親しみ/エネルギー
      • 寒色系:信頼/冷静/清潔感
    • 表情の重要性
      • 笑顔:喜び/親しみ
      • 真剣な表情:信頼/誠実さ
    • ムードの統一
      • トーン&マナーの一貫性
      • ブランドの世界観の表現

    デザインによる感情表現については、「エモーショナルデザイン入門(記事No.56)」で近日公開予定です。

  • 3. 動画(ストーリー)
    • 感情曲線の設計
      • 導入→展開→クライマックス→余韻
      • 感情の起伏を意図的に作る
    • 音楽の効果
      • BGMが感情を増幅
      • サウンドロゴの活用
    • 語り手の選定
      • 誰が語るかで信頼性が変わる
      • 経営者/社員/顧客の使い分け

    動画で感情を動かす手法は、「感情に訴える動画マーケティング(記事No.61)」で近日公開予定です。

4-4 展開・運用フェーズ

  • チャネル最適化
    各チャネルの特性に応じた感情設計が必要です。
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チャネル 適した感情 展開のポイント
SNS 共感/驚き 共有したくなる内容/ストーリー
Webサイト 信頼/安心 丁寧な説明/社会的証明
店頭 わくわく/満足 体験/五感への訴求
営業資料 期待/確信 ビジョン/実績

SNSでの具体的な活用術は、「感情マーケティングとSNS活用戦略(記事No.59)」で近日公開予定です。

  • A/Bテストとフィードバックループ
    感情訴求の効果を測定し、改善します。
    • テスト項目
      • 感情的コピー vs 理性的コピー
      • 感情の種類(喜び vs 安心 等)
      • ストーリーの有無
      • ビジュアルのトーン
    • 測定指標
      • クリック率(CTR)
      • コンバージョン率
      • 滞在時間
      • SNSシェア数

重要なのは、単に数字を見るだけでなく、「なぜその感情訴求が効いたのか」を考察すること。仮説を立て、検証し、学びを次に活かす——このサイクルが感情マーケティングの精度を高めます。
各タッチポイントでの感情体験を設計する考え方は、ブランド体験全体の質を左右します。

第5章:感情マーケティングの効果と事例

5-1 効果データ

感情マーケティングの効果は、複数の研究で裏付けられています。

  • 長期的な効果
    IPA(英国広告業協会)のデータ分析によれば、感情訴求は短期的な売上よりも、長期的な利益成長において特に高い効果を発揮することが示されています。ある分析では、感情中心のキャンペーンは31%の利益増をもたらしたのに対し、理性中心のキャンペーンは16%に留まったと報告されています(参考:Neurosciencemarketing.comIPA(英国広告効果研究機構)広告効果報告(要旨引用を掲載した業界解説記事)|2026|感情訴求は利益増で31%、理性訴求は16%)
    ただし、これらの数値の算出手法や測定期間については、原典での確認が推奨されます。
  • ブランド想起への影響
    同じくIPAの報告では、感情訴求広告のブランド想起率が81%で、理性訴求の69%を上回ったとされています。
  • 売上への寄与
    Nielsenの研究では、neuroscienceベースのテストで「平均より良い」スコアを示した広告が、調査対象のFMCG(日用消費財)事例において合計約23%の売上増を示したと報告されています。(参考:Nielsen “WHEN EMOTIONS GIVE A LIFT TO ADVERTISING” (PDF白書)|2019|EEG等を用いた神経科学的測定で「above-average EEG scores」を示した広告が売上約23%増加)
    これはEEG(脳波)、心拍、皮膚電反応、顔表情コーディング、アイトラッキングなどを統合した測定に基づくもので、比較対象や母集団を明記した上での引用が適切です。
  • 口コミ・推奨への影響
    Nielsenの別の調査(Trust in Advertising, 2021)では、受容的なチャネルでの広告が想起や購買に影響を与えることが示されています。
    • SVOD(動画配信)視聴中、35-49歳の52%が見た製品に購買影響を受ける
    • ポッドキャストのホスト読み広告は71%のブランド想起率
    • 長尺広告は購買意向・推奨意向のリフトが約40%高い

        (参考:Nielsen “building trust with consumers and engaging where sentiment is high” (2021 Trust in Advertising study)|2021|SVOD視聴中の35-49歳で52%が購買影響、ポッドキャストホスト読み広告の想起率71%)

    これらのデータから言えるのは、感情訴求が短期的な反応だけでなく、長期的なブランド価値や売上にも寄与する可能性があるということです。

    5-2 成功事例

    これまで解説してきた原則やテクニックが、実際の運用でどのように活かされているのか。この章では、日本国内でキャラクターSNS運用に成功している企業の事例を3つ取り上げ、その成功要因を分析します。

    (※本章で紹介する事例は、一般に公開されている情報に基づいた分析であり、特定の企業との提携関係を示すものではありません。)

    Google「Loretta」CM(感動・ヒューマンタッチ)

    2020年のSuper Bowlで放映されたこのCMは、高齢男性がGoogle Assistantを使って亡き妻の思い出を呼び起こす様子を描いています。

    • 制作背景として、Google Creative LabのクリエイティブディレクターJesse Jurigaらチームが関与し、デザイナーの祖父の録音を最終的なナレーションとして使用したことが関係者により説明されています。(参考:Michigan State University Broad College「MSU Alumnus Brings Millions to Tears as Creative Director of Google’s Loretta Ad」|2020|Jesse Jurigaらチームが制作に関与、デザイナーの祖父の録音をナレーションに使用)
    • 業界報道によれば、放映当日夜にYouTubeで約10.4百万再生、2020年9月時点で約62百万再生に達したとされています。また、49%のスーパーボウル視聴者が感情的反応を示したとの報告もありますが、これらは業界報道の報告値であり、調査手法の詳細は明示されていません。(参考:Tegna「How Google Won the 2020 Super Bowl with Its Loretta Ad」|2020|YouTube再生数(放映当日夜10.4M、2020年9月62M)、49%のスーパーボウル視聴者が感情的反応)

    Dove「Real Beauty」キャンペーン(共感・社会的メッセージ)

    2004年から続くこのキャンペーンは、多様な美の基準を提示し、女性のボディコンフィデンスを支援するものです。

    • Unileverによれば、Doveは2023年に過去10年以上で最高の基礎売上成長を記録し、Unileverに約60億ユーロ(€6 billion)をもたらしました。(参考:Unilever 20 years on: Dove and the future of Real Beauty|2024|2023年に過去10年以上で最高の基礎売上成長、Unileverに€6 billion貢献)
    • また、Dove Self-Esteem Projectは1億人(100 million)の若年層にボディコンフィデンス教育を届けたと公式に報告されています。
    • 近年では、AIが生成する非現実的な美へのカウンターとしてキャンペーンを展開。2025年のカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルでは、その取り組みが高く評価され、メディア部門のグランプリなどを受賞しました(参考:WPP Dove wins Cannes(受賞紹介/WPP系ニュース)|2025|「Real Beauty Redefined for the AI Era」がMedia Grand Prix等を受賞)

    サントリー「金麦」(日常の幸せ・安らぎ)

    「日本の家時間を、もっと豊かに。」をコンセプトに、晩酌や家飲みシーンを通じた日常の幸せと安らぎを訴求しています。

    • 2024年、サントリーは「金麦」を2026年10月から「ビール」規格へリニューアルすると発表し、大きな話題を呼びました。これは酒税法改正に対応し、麦芽比率を50%以上に引き上げることで実現するものです(参考:オリコンニュース「サントリー『金麦』、2026年からビール化へ 本格市場に挑む」|2025|サントリーが「金麦」を2026年10月から「ビール」としてリニューアル発売すると発表)
    • 報道によれば、2023年の販売数量は金麦が約3,041万箱にのぼり、依然として同社のビール類事業の柱であることが示されています(参考:東洋経済オンライン「サントリーが大黒柱『金麦』を発泡酒からビールに一新へ」|2026|2024年販売数量の比較データ(金麦 3,041万箱)を公開部分で示している)

    これらの事例に共通するのは、単に商品の機能を訴求するのではなく、顧客の生活や価値観に寄り添った感情訴求を行っている点です。

    成功事例については、期日公開予定の「感情マーケティング成功事例15選(記事No.49)」でさらに詳しく解説しています。

    まとめ

    要点整理

    感情マーケティングとは、顧客の感情に訴えかけ、感情的なつながりを築くことで購買行動を促す手法です。

    • 時代背景
      情報過多、コモディティ化、SNSによる共感拡散という3つの変化により、機能や価格だけでは差別化が難しくなっています。
    • 6つの基本感情
      喜び、悲しみ、恐れ、怒り、驚き、嫌悪——これらを適切に使い分けることで、顧客の心を動かせます。
    • 実践の5原則
      1. 顧客の感情を深く理解する
      2. 適切な感情を選択する
      3. 真実性を保つ
      4. 一貫性を維持する
      5. 行動につなげる
    • 実務フロー調査・分析 → 戦略設計 → クリエイティブ制作 → 展開・運用のサイクルを回し続けることが重要です。

    今日からのアクション

    • 今日:顧客の「感情的ことば」を3つ収集
      レビュー、SNS、問い合わせから、顧客が使う感情表現をメモしましょう。「助かった」「嬉しい」「安心した」——その裏にある本質的なニーズが見えてきます。
    • 今週:競合の感情訴求をマッピング
      競合がどんな感情を訴求しているか分析します。空白領域や、自社が勝てる感情領域を見つけましょう。
    • 今月:1施策で感情CTAをテスト
      既存の施策で、理性的なCTAを感情的なCTAに変えてA/Bテストしてみてください。小さな変更でも、反応の違いが見えるはずです。

    さらに学ぶ

    19年間のWEBマーケティング経験から断言できるのは、感情マーケティングは一夜にして成果が出るものではないということ。でも、顧客の感情に真摯に向き合い、一貫したメッセージを届け続けることで、確実にブランドへの愛着は育っていきます。

    機能や価格で勝負する時代から、感情で選ばれる時代へ。その転換点に、私たちは立っているんです。

    FAQ

    Q1:感情を使うと「操作」だと批判されませんか?

    A:重要なご指摘です。感情マーケティングと感情操作の違いは、「真実性」にあります。

    本記事の原則3で述べた通り、言葉と行動の一致、透明性、顧客尊重を徹底することで、健全な感情マーケティングが可能です。
    特に恐怖や嫌悪を使う際は、必ず解決策をセットで提示し、誇張や虚偽は絶対に避けましょう。顧客を不安にさせるだけ、不快にさせるだけの訴求は、短期的に反応を得られても長期的には信頼を失います。
    倫理的配慮は、感情マーケティングの大前提です。

    Q2:BtoBでも感情マーケティングは通用しますか?

    A:はい、通用します。BtoBの意思決定者も人間であり、感情を持っています。
    ただし、BtoCとは訴求する感情が異なります。BtoBでは、安心、信頼、誇り、達成感といった感情が効果的です。

    • 実践例
      • 導入後の変化を顧客の「物語」として描く(Before→After)
      • 導入担当者の不安を理解し、安心材料を提供
      • 「この選択は正しかった」と思える、成功事例の共有
      • チームの達成感や誇りを刺激するビジョンの提示

    19年の支援経験から言えるのは、BtoBこそ感情マーケティングが差別化になるということ。機能比較だけの提案資料より、「なぜこの会社と一緒に仕事をしたいのか」という感情的な理由を語れる企業が選ばれます。

    Q3:感情マーケティングの効果測定は難しくないですか?

    A:確かに、感情を直接測定するのは簡単ではありません。しかし、間接的な指標で効果を把握できます。

    スクロールできます
    目標段階 代表的なKPI 測定方法・ツール例
    1. 認知・想起の向上 ブランド想起率、サイト流入数、SNSインプレッション数・エンゲージメント率 ブランドリフト調査、Google Analytics、各SNSインサイト
    2. 購買意欲の喚起 コンバージョン率(CVR)、クリック率(CTR)、問い合わせ件数 A/Bテストツール、Google Ads、CRMデータ
    3. 長期的ロイヤルティ 顧客生涯価値(LTV)、NPS®(顧客推奨度)、リピート購入率、口コミ数 顧客データ分析、アンケートツール、レビューサイト分析
    出典:(参考:Neurosciencemarketing.com IPA(英国広告効果研究機構)広告効果報告(要旨引用を掲載した業界解説記事)|2026|感情訴求は利益増で31%、理性訴求は16%)、(参考:Nielsen “building trust with consumers and engaging where sentiment is high” (2021 Trust in Advertising study)|2021|SVOD視聴中の35-49歳で52%が購買影響、ポッドキャストホスト読み広告の想起率71%)、本文第4章・FAQの記述をもとに編集部作成。

    上記のような指標に加え、顧客の声の質(レビューで感情的な言葉が増えたか)や、SNSでの自発的な言及といった定性的な変化も重要なサインです。
    重要なのは、感情マーケティングは長期的な取り組みだということ。短期的なCVRだけでなく、ブランドへの愛着や推奨意向といった中長期的な指標も追いかけましょう。
    詳細な測定方法については、「感情マーケティングの効果測定とKPI設定(記事No.66)」で近日公開予定です。

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    この記事を書いた人

    当編集部は、世界的エンタメブランドでの実績を持つブランディング専門家の知見をもとに、実践的なブランドマネジメント情報を発信しています。

    編集方針:
    セサミストリート、ディズニー、ウルトラマンなど、数々の世界的ブランドを手がけた35年の業界経験から導き出された理論と実践ノウハウを、検索ユーザーの課題解決に役立つ形で体系化。最新のブランディング手法を分かりやすく解説します。

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