なぜ顧客は離れる?感情マーケティング戦略で「断絶体験」をなくす【3つの柱とFEEL】

「SNSでは楽しそうなキャンペーンを展開しているのに、比較ページを見ると無機質なスペック一覧だけ」
「広告は感動的なストーリーなのに、カスタマーサポートの対応は淡々としている」
——こんな”断絶体験”に心当たりはないでしょうか。

当編集部がWEBマーケティング支援を19年続けてきた中で、こうした施策のバラバラ感に悩む企業は少なくありません。広告、Web、店舗、サポート。それぞれの接点で異なる感情を訴求してしまうと、顧客の記憶は分散し、好意は定着せず、予算は無駄打ちになってしまいます。

感情マーケティングは、単なる「感動的な広告を作る」という施策ではありません。本質は全タッチポイントで一貫した感情体験を設計し、顧客の心に残る記憶と信頼を構築する戦略です。

当編集部では、世界的エンタメ企業で35年間にわたりブランドマネジメントに携わった専門家の知見をもとに、感情マーケティングの戦略設計を体系化してきました。本記事では、その実践的なフレームワークを、中小企業でも実装できる形に落とし込んでご紹介します。

本記事で得られること:

  • 感情マーケティングを「戦略」として理解する3つの柱
  • 自社の感情ポジショニングを言語化する設計プロセス
  • 5段階の感情ジャーニーマップの作成方法
  • FEELフレームワークによる実行と学習のサイクル
  • 最初の3ヶ月で実装できる具体的なロードマップ

記事の流れ:

  • 第1章では感情マーケティング戦略の定義と3つの柱を整理します。
  • 第2章で感情ポジショニングの設計方法、
  • 第3章で5段階の感情ジャーニー設計、
  • 第4章でFEELフレームワークによる実行と学習、
  • 第5章で3ヶ月ロードマップと成功要件を解説します。
  • 最後に、今日から始められる具体的なアクションプランをご提示します。

関連記事への導線:

  • 感情マーケティングの全体像は → 感情マーケティング完全ガイド
  • エモーショナルブランディングの理論は → エモーショナルブランディング(記事No.50)(近日公開)
  • タッチポイントへの落とし込みは → 顧客体験の感情設計(記事No.60)(近日公開)
  • 効果測定の方法は → 感情マーケティングの効果測定(記事No.66)(近日公開)

それでは、感情を「偶然」ではなく「戦略的に設計する」方法を見ていきましょう。

目次

第1章:感情マーケティング戦略とは

1-1 戦略の定義

感情マーケティング戦略とは、顧客接点全体で一貫した感情体験を設計し、ブランドへの好意・信頼・推奨を組織的に構築する計画のことです。

「戦略」と「戦術」の違いを明確にしておきましょう。戦術は個別の施策——例えば「感動的なCM」「共感を呼ぶSNS投稿」「心温まる接客」などです。一方、戦略はそれらすべてを貫く一本の軸。「このブランドはどんな感情を提供するのか」を定義し、全接点で実現する設計図です。

B2Cの例:
あるカフェチェーンが「安らぎ」を感情ポジションに設定したとします。広告では穏やかな音楽と落ち着いた映像、店舗では暖色照明とゆったりした席配置、ECでは丁寧な梱包と手書きメッセージ、SNSでは癒しのコンテンツ。すべての接点が「安らぎ」という感情で統一されているため、顧客は一貫した体験として記憶します。

B2Bの例:
IT企業が「安心」を感情ポジションに設定した場合、営業資料では実績とサポート体制を前面に、Webサイトでは導入事例と技術解説を充実させ、問い合わせ対応では迅速かつ丁寧な情報提供、導入後フォローでは定期的なチェックインを実施。すべてが「安心して任せられる」という感情で統一されます。

戦術だけでは、各施策が独立して記憶され、ブランド全体としての印象が弱まります。戦略があることで、すべての接点が相乗効果を生み、強固なブランド体験を構築できるのです。

1-2 なぜ戦略が必要か

バラバラな感情訴求には、3つの大きな副作用があります。

  • 副作用1:記憶の分散
    広告では「楽しさ」、Webサイトでは「信頼」、店舗では「高級感」と異なる感情を訴求すると、顧客の記憶は分散します。「このブランドは何を大切にしているのか」が曖昧になり、思い出してもらいにくくなります。
  • 副作用2:不信感の醸成
    接点ごとに感情が変わると、顧客は「表と裏があるのでは」と感じます。SNSでは親しみやすいのに、問い合わせ対応が冷淡だと「演出だったのか」と裏切られた気分になります。
  • 副作用3:予算のロス
    一貫性のない施策は、それぞれが独立したコストとして積み重なります。広告の感動、Webの信頼性、店舗の高級感——すべてを別々に構築するより、一つの感情軸で統一したほうが費用対効果は高まります。

一般的なブランディング理論では、全タッチポイントでの一貫した体験がブランド価値を最大化すると指摘されています。感情訴求においても、この原則は同じです。

  • 信頼形成の加速:すべての接点が同じ感情を強化するため、短期間で深い信頼関係を構築できる
  • LTV(顧客生涯価値)の向上:一貫した感情体験は顧客ロイヤルティを高め、リピート率や推奨率を向上させる
  • 効率的な運用:すべての施策が一つの軸に沿っているため、制作・運用・評価のプロセスが明確になり、無駄が減る

業界報告は、CSATやNPSが有用である一方、感情的エンゲージメントを捉え行動にリンクさせる指標の必要性を指摘しています。実際に、悪い顧客体験によって約52%の消費者がサービスの利用を停止するというデータもあります(参考:PwC『The loyalty illusion: PwC 2025 Customer Experience Survey』|2025|CXの悪化は消費者離脱につながる)

感情マーケティングの効果は、感覚的なものに留まりません。学術研究では、消費者の感情データを活用して推薦アルゴリズムを改良した結果、推薦の成功率が従来の手法より19%向上したと報告されています(参考:Frontiers in Psychology『The influence of brand marketing on consumers’ emotion in mobile and urban contexts』|2022|アルゴリズム改善による推薦成功率19%向上)

このデータから、専門家として言えるのは、「顧客の感情は、もはやマーケティングの”スパイス”ではなく、ビジネス成果に直結する”変数”である」ということです。感情データを正しく捉え、システムに組み込むことで、売上や顧客満足度に直接的なインパクトを与えることが可能になります。これは、感情設計が企業の競争優位性を築くための核心的要素であることを示唆しています。

感情マーケティングを戦略として設計することで、顧客との関係性を計画的に深め、ビジネス成果につなげることができるのです。

1-3 戦略の3つの柱

感情マーケティング戦略は、3つの柱で構成されます。

  1. 感情ポジショニング
    「このブランド=この感情」という明確な定義です。自社が顧客にどんな感情を提供するのかを言語化します。例:Apple=創造性、Nike=挑戦、Starbucks=安らぎ。
  2. 感情ジャーニー設計
    顧客接点ごとに目標となる感情と、その変化曲線を設計します。認知→検討→購入→使用→推奨の5段階で、どの感情を喚起するかを計画します。
  3. 測定と改善
    感情KPI(NPS、CSAT、感情想起率、UGC比率など)を設定し、データに基づいて運用を回します。感情は主観的ですが、測定可能な指標に落とし込むことで、継続的な改善が可能になります。

これら3つの柱は、以下の章で詳しく解説していきます。第2章で柱1(感情ポジショニング)、第3章で柱2(感情ジャーニー)、第4章で柱3(測定と改善)を含むFEELフレームワークを扱います。

まずは「感情マーケティング完全ガイド」で全体像を把握してから、本記事で戦略設計の具体論に入ることをお勧めします。

第2章:感情ポジショニングの設計

2-1 感情ポジショニングとは

感情ポジショニングとは、「このブランド=この感情」という明確な定義です。顧客が自社ブランドを思い出したとき、どんな感情を連想してほしいかを言語化します。

代表的な例:

  • Apple:創造性、イノベーション
  • Nike:挑戦、達成感
  • Starbucks:安らぎ、くつろぎ
  • Dove:自己肯定感、美しさの多様性

Kantarのインサイトによると、感情的ポジショニングは顧客関係を深め、購買志向の強化や価格感度の低下、ブランド擁護の向上といったビジネスメリットをもたらすとされています(参考:Kantar『The Importance of Emotion in Brand Positioning』|2026|感情的結びつきがビジネス成果に寄与)

一般的なブランディング理論では、顧客の「友達を思い浮かべる」ように具体的にターゲットを描くアプローチが推奨されています。同様に、感情ポジショニングでも「その人にどの感情を提供したいか」を具体的にイメージすることが重要です。

感情ポジショニングがあると、すべての施策に一貫性が生まれます。広告、Web、店舗、サポート——どの接点でも同じ感情を強化するため、顧客の記憶に定着しやすくなります。

2-2 設計プロセス(5ステップ)

感情ポジショニングは、5つのステップで設計します。

Step1:顧客の感情的ニーズ分析

まず、顧客が「避けたい感情」と「得たい感情」を洗い出します。

調査法:

  • 感情深掘りインタビュー:「なぜそれを選んだのか」を5回繰り返し、本質的な感情ニーズを探る
  • ソーシャルリスニング:SNSやレビューで感情語彙を分析。「嬉しい」「安心」「イライラ」などの頻出ワードから傾向を把握
  • 行動観察:店舗や使用シーンでの表情、動作、会話から感情の変化を読み取る

探すべき問い:

  1. 顧客は何を不安に感じているか?(避けたい感情)
  2. どんな気持ちになりたくて購入するのか?(得たい感情)
  3. 使用中や使用後、どんな感情を理想としているか?(使用時の理想感情)

Step2:競合の感情ポジション分析

次に、競合がどんな感情を訴求しているかを棚卸しします。

分析方法:

  • 広告、SNS、レビューから競合の訴求感情を抽出
  • 「楽しさ」「信頼」「安心」「高級感」など、具体的な感情語彙で分類
  • 感情ポジショニングマップ(高覚醒/低覚醒×ポジティブ/ネガティブ)にプロット

感情ポジショニングマップの使い方
縦軸を「覚醒度」(高覚醒=興奮・挑戦/低覚醒=安らぎ・安心)、横軸を「感情価」(ポジティブ/ネガティブ)としたマップを作成します。自社と競合をプロットすることで、差別化できる感情ポジションが見えてきます。

Step3:【深掘り】プルチックの感情の輪でポジションを具体化

感情ポジショニングをより深く、緻密に設計するために、心理学者ロバート・プルチックが提唱した「感情の輪」が役立ちます。

「プルチックの感情の輪」は、8つの基本感情(喜び、信頼、恐れ、驚き、悲しみ、嫌悪、怒り、期待)とその組み合わせ、そして感情の強弱を視覚的に示したモデルです。これをブランド設計に活用することで、単に「喜び」を目指すだけでなく、「喜び」と「信頼」を組み合わせた「愛」や、「喜び」の強度を高めた「恍惚」といった、より解像度の高い感情ポジションを定義できます。

例えば、前述の感情ポジショニングマップと組み合わせ、「喜び(基本感情)×高覚醒(マップ軸)=興奮」といった、多角的な分析が可能になります。このフレームワークを用いることで、競合が提供していない、よりユニークで深い感情的価値を見出すことができます。

Step4:【実践】「感情DNA」発見ワークシートで言語化

自社ブランドの中核となる感情(感情DNA)を特定するためのワークシートです。以下の質問とステップに沿って、自社の提供価値を感情言語に翻訳してみましょう。

1. 顧客の深層心理を探る10の質問

  • 顧客が深夜2時に、ひそかに抱えている本当の悩みは何ですか?
  • 顧客は製品・サービスを使うことで、誰に認められたいと感じていますか?
  • 製品・サービスを使用する前、顧客はどのような不安や不満を抱えていますか?
  • 製品・サービスを使用した後、顧客はどのような理想の自分になりたいと願っていますか?
  • 顧客は製品・サービスを通じて、社会に対してどのようなメッセージを発信したいと思っていますか?
  • 顧客が製品・サービスを選ぶ際、最も「これは避けたい」と感じる感情は何ですか?
  • 顧客が製品・サービスと出会ったとき、最初にどんな「ハッとする感情」を抱いてほしいですか?
  • 購入決定の瞬間、顧客はどのような「確信」や「期待」を求めていますか?
  • 長期的に製品・サービスを使い続ける中で、顧客にどのような「絆」や「安心感」を育んでほしいですか?
  • 顧客が友人に製品・サービスを勧める際、どのような「誇り」や「感動」を伝えたいと思いますか?

2. 自社の提供価値を感情言語に翻訳する5つのステップ

  1. 機能的価値の洗い出し: 自社の製品・サービスが提供する「具体的な機能やメリット」を全て書き出してください。(例:高性能なPC、迅速な配送)
  2. 情緒的価値への昇華: その機能的価値が、顧客にどのような「感情」をもたらすかを考えてください。(例:高性能なPC → 「安心感」「創造性の刺激」、迅速な配送 → 「待つストレスからの解放」「期待感」
  3. 自己表現価値への拡張: その感情が、顧客のどのような「自己表現」や「アイデンティティ」につながるかを考えてください。(例:「創造性の刺激」→ 「自分らしい表現ができる喜び」「プロフェッショナルとしての自信」
  4. 競合との比較: 上記で特定した感情的価値が、競合と比べてどの程度ユニークで強いかを評価してください。
  5. 感情DNAの言語化: 最も強く、ユニークで、持続可能な感情的価値を、簡潔な言葉で表現してください。(例:「顧客の「知的好奇心を刺激し、自己成長への喜び」を提供するブランド」)

このワークシートを使うことで、読者は自社の提供すべき中核感情を具体的に言語化できます。

Step5:自社ポジション決定

最後に、自社の感情ポジションを決定します。

選定基準:

  • 顧客ニーズ適合:Step1で明らかになった顧客の感情ニーズに応えられるか
  • 差別化:Step2で競合が占めていないポジションか、または競合より強く訴求できるか
  • ブランド本質:自社の製品・サービス・企業文化と矛盾しないか
  • 持続性:短期的なトレンドではなく、長期的に維持できるポジションか

ワークシート例:
自社の感情ポジション定義
———————————————————————
感情ポジション:[例:安心]
定義:顧客がこのブランドに触れたとき、「自分のことをわかってくれている」「任せて大丈夫」と感じる状態
提供シーン:問い合わせ対応、導入サポート、定期フォロー
想起させる言葉:「頼れる」「丁寧」「寄り添う」
———————————————————————

参考として、ある分析手法ではEmotional Connection Score(ECS)という指標が提案されています。これは感情分析30%、顧客ロイヤルティ25%、エンゲージメント20%、ブランド推奨度15%、定性フィードバック10%といった重み付けで指標を合算する方法です(参考:Brand Auditors『Advanced Brand Metrics』|2026|ECSの構成)。実際の導入では自社データに基づき重みを最適化してください。

2-3 失敗回避のチェックリスト

感情ポジショニングを設計する際、よくある失敗パターンを避けるためのチェックリストです。

チェック項目:

  • 「感情の言い換えだけ」になっていないか
    「幸福」→「安心」と言い換えただけでは、実質的な差別化にならない。具体的なシーンや体験に落とし込めているか確認
  • 「競合の空白を無理に狙う」危険
    差別化を意識しすぎて、ブランド本質から逸脱していないか。顧客ニーズと自社の強みが交差するポジションを選ぶ
  • 「短期的なトレンド」に流されていないか
    一時的な流行ではなく、5年後も維持できる感情ポジションか
  • 「測定不可能」になっていないか
    感情ポジションを実現できているかを測る指標(NPS、CSAT、感情想起率など)を設定できるか

このチェックリストを通過したら、感情ポジショニングの設計は完了です。次章では、この感情ポジションを各接点でどう実現するかを設計します。

エモーショナルブランディングの理論的背景については、エモーショナルブランディング(記事No.50)(近日公開)で詳しく解説します。

第3章:感情ジャーニーの設計

3-1 感情ジャーニーとは

感情ジャーニーとは、顧客が認知から推奨までの各段階で、どの感情を経験するかを設計したものです。

行動中心の顧客ジャーニーは「認知→検討→購入→使用→推奨」という行動の流れを追いますが、感情ジャーニーは各段階での目標感情と、その変化の曲線を設計します。

行動ジャーニーと感情ジャーニーの違い:

  • 行動ジャーニー:「SNSで広告を見た→Webサイトで比較した→購入した→使用中→友人に紹介した」という行動を追う
  • 感情ジャーニー:「興味(認知)→信頼(検討)→確信(購入)→満足(使用)→誇り(推奨)」という感情の変化を設計する

一般的なブランド体験設計の原則では、全タッチポイントで一貫した体験を提供することが推奨されています。感情ジャーニーも同様に、各接点で目標感情を明確にし、一貫性を保つことが重要です。

業界ガイドでは、ジャーニーマップに行動データと感情指標(NLPによるセンチメント分析など)を組み合わせることが推奨されています(参考:CMSWire『The Complete Guide to Customer Journey Mapping』|2026|感情を含むジャーニーマッピング)

3-2 5段階の感情ジャーニー

感情ジャーニーを、認知→検討→購入→使用→推奨の5段階に分けて設計します。各段階の目標感情、トリガー、施策、KPI例を示します。

Stage1:認知

  • 目標感情:興味・好奇心
  • トリガー:広告、SNS、口コミ、メディア露出
  • 施策例:視覚的に目を引く広告、驚きや発見を提供するコンテンツ、インフルエンサーとのコラボ
  • KPI例:インプレッション数、エンゲージメント率、ブランド認知率

Stage2:検討

  • 目標感情:信頼・期待
  • トリガー:Webサイト訪問、資料請求、店舗来訪
  • 施策例:詳細な情報提供、導入事例、お客様の声、FAQ、比較表
  • KPI例:滞在時間、ページ遷移数、資料ダウンロード数、問い合わせ数

Stage3:購入

  • 目標感情:確信・興奮
  • トリガー:購入手続き、決済完了、初回受け取り
  • 施策例:スムーズな購入体験、限定特典、パーソナライズされたメッセージ
  • KPI例:コンバージョン率、カート放棄率、購入完了率

Stage4:使用

  • 目標感情:満足・喜び
  • トリガー:製品・サービスの利用、サポート対応、アフターフォロー
  • 施策例:使いやすいUI/UX、丁寧なサポート、定期的なフォローメール
  • KPI例:CSAT(顧客満足度)、リピート率、継続利用率

Stage5:推奨

  • 目標感情:誇り・帰属意識
  • トリガー:SNS投稿、レビュー投稿、友人への紹介
  • 施策例:紹介プログラム、UGCキャンペーン、コミュニティ形成
  • KPI例:NPS(Net Promoter Score)、紹介率、UGC投稿数、レビュー評価

B2Bと店舗ありの業態での差分:
B2Bでは、検討段階が長く、複数の意思決定者が関与するため、「安心」の重要度が高まります。導入事例、実績データ、技術サポートの充実が信頼形成に直結します。
店舗ありの業態では、使用段階で「店舗体験」が大きな役割を果たします。スタッフの対応、店内の雰囲気、アフターサービスが満足感を左右します。

あるケーススタディでは、ジャーニーマッピングと改善により、コールセンター全体の初回解決率(FCR)が74%から86%へ、顧客満足度(CSAT)が84%から90%へ改善したと報告されています(参考:SQM Group『Customer Journey Mapping: A Case Study』|2026|ジャーニー改善の成果)

タッチポイントごとの感情設計の詳細は、顧客体験の感情設計(記事No.60)(近日公開)で解説します。

3-3 コラム:B2Bの「安心」は、B2Cの「感動」より静かで、深く、そして高価である

B2Bにおける感情マーケティングは、「感動的なストーリー」を語ることだと誤解されがちです。しかし、数千万円の投資を決断する担当者が求めるのは、刹那的な感動ではありません。それは、深く静かな「安心」です。

この「安心」は、「納期通りに届く」「トラブル時にすぐ連絡がつく」「仕様変更に柔軟に対応してくれる」といった、無数の地道な約束の積み重ねによって醸成されます。B2Cの「感動」が花火だとすれば、B2Bの「安心」は揺るぎない礎石です。

派手さはありませんが、この「安心」という感情的資産を築けたとき、企業は価格競争から完全に脱却し、顧客から「高くても、あなたから買いたい」と言われる唯一無二のパートナーとなることができるのです。

3-4 実践:感情ジャーニーマップの作り方と注意点

感情ジャーニーマップは、5段階の感情ジャーニーを一覧表にしたものです。

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ステージ目標感情主要タッチポイント施策例主要KPI
認知興味・好奇心業界メディア、広告、SNS課題解決につながる発見を提供するコンテンツ、インフルエンサーによる紹介ブランド認知率、エンゲージメント率
検討信頼・期待Webサイト、営業資料、ウェビナー導入事例、第三者評価、FAQ、比較表、丁寧な技術解説サイト滞在時間、資料DL数、問い合わせ数
購入確信・興奮見積提示、契約プロセススムーズで透明性の高い手続き、担当者からのパーソナルなメッセージCVR、カート放棄率、契約完了率
使用満足・安心導入サポート、製品本体、CS対応使いやすいUI/UX、迅速で丁寧なサポート、定期的なフォローアップCSAT(顧客満足度)、初回解決率(FCR)、リピート率
推奨誇り・帰属意識ユーザーコミュニティ、SNS、口コミ紹介プログラム、UGCキャンペーン、成功事例への協力依頼NPS、紹介率、UGC投稿数
(参考:CMSWire「The Complete Guide to Customer Journey Mapping」|2026|感情を含むジャーニーマッピング)、および(参考:SQM Group「Customer Journey Mapping: A Case Study」|2026|ジャーニー改善の成果)の情報を基に編集部作成

既存の顧客ジャーニーに「感情レイヤー」を重ねる実務手順:

  1. 既存の行動ジャーニーを確認:すでに作成している顧客ジャーニーマップがあれば、それをベースにする
  2. 各段階の目標感情を定義:認知→興味、検討→信頼、購入→確信、使用→満足、推奨→誇り、といった形で目標感情を設定
  3. 現状の感情を評価:顧客アンケート、レビュー分析、インタビューから、各段階で実際にどんな感情を抱いているかを把握
  4. ギャップを特定:目標感情と現状感情のギャップを洗い出し、優先的に改善すべき接点を特定
  5. 施策を設計:ギャップを埋めるための具体的施策を各接点に割り当てる
  6. KPIを設定:各段階の感情変化を測定できる指標を設定(NPS、CSAT、感情想起率、UGC比率など)

注意:個人データ・レビューの取り扱いと匿名化ガイド
顧客の感情データを収集する際は、個人情報保護法やGDPR等の法規制を遵守してください。特に、レビューやインタビューから感情を分析する場合、個人を特定できる情報は匿名化し、データの取り扱いには十分な配慮が必要です。

エモーショナルブランディングの理論的背景については、エモーショナルブランディング(記事No.50)(近日公開)で詳しく解説します。

第4章:FEELフレームワーク

4-1 FEEL概要

FEELフレームワークは、感情マーケティング戦略を実行・改善するための運用循環モデルです。

  • F:Focus(焦点):感情ポジションを決定し、ブランドの感情的な軸を明確にする
  • E:Experience(体験):感情ジャーニーマップを作成し、各接点での目標感情を設計する
  • E:Execute(実行):施策を優先度付けし、制作・展開する
  • L:Learn(学習):感情KPIを測定し、データに基づいて改善する

このサイクルを回すことで、感情マーケティングを継続的に最適化できます。

4-2 FEEL各要素の実務:設計から学習サイクルへ

F:Focus(焦点)—感情ポジションの決定と共有
第2章で解説した感情ポジショニングのプロセスを実施します。

アウトプット例:

  • 感情ポジション宣言
    「当社は『安心』を提供するブランドです」
  • 感情的ブランドガイドライン
    全社員が参照できる、感情ポジションを実現するための行動指針

E:Experience(体験)—感情ジャーニーの設計と文書化
第3章で解説した感情ジャーニーマップを作成します。

出力:

  • 感情ジャーニーマップ(認知→推奨の5段階)
  • 接点別感情設計書(広告、Web、店舗、サポートなど、各接点での目標感情と施策を詳細化)

一般的なブランド体験設計では、全タッチポイントで一貫した感情体験を提供することが推奨されています。各接点での感情設計を文書化し、社内で共有することが重要です。

E:Execute(実行)—施策の優先順位付けと展開
感情ジャーニーマップに基づいて、具体的な施策を優先度付けし、実行します。

施策優先度付けの観点:

  • インパクト:目標感情の実現にどれだけ貢献するか
  • コスト:制作・運用にかかる費用
  • 実現可能性:社内リソースで実施できるか、外部パートナーが必要か

制作ブリーフの例
広告制作の場合、「目標感情:信頼」「訴求ポイント:実績・導入事例」「トーン:誠実・丁寧」「ビジュアル:顧客の笑顔、製品の使用シーン」といった形で、感情ポジションを反映したブリーフを作成します。

チャネル展開の「翻訳表」雛形

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チャネル目標感情表現のポイント具体アクション例
SNS共感・興味専門家としての信頼性と親しみやすさを両立。ユーザーの不安に寄り添う。業界のよくある失敗談と回避策の投稿、Q&Aセッション、UGCの丁寧な紹介
Webサイト/LP信頼・納得専門用語を避け、実績と顧客の声を前面に出す。透明性の高い情報開示。導入事例(顔写真・実名推奨)、料金体系の明記、FAQの充実、セキュリティ対策の表示
営業資料確信・安心課題解決の根拠をデータで示す。導入後のサポート体制を具体的に記述。費用対効果のシミュレーション、詳細な導入スケジュール、サポートチームの紹介
カスタマーサポート安心・感謝迅速かつ丁寧な一次対応。解決までのプロセスを明確に伝える。チャットボットによる即時応答、FAQへのスムーズな誘導、担当者による共感的な傾聴
出典:Deloitte Digital「Reimagining our global brand with Generative AI」|2026|生成AIによる資産生成速度)のブランド一貫性に関する示唆を参考に編集部作成

生成AIを活用した効率化も進んでいます。ある事例では、生成AIを用いて補助的なブランドアセットを90秒未満で生成し、キャンペーン全体の資産を約1週間で構築したと報告されています(参考:Deloitte Digital『Reimagining our global brand with Generative AI』|2026|生成AIによる資産生成速度)

L:Learn(学習)—感情KPIの測定と改善

感情KPIを設定し、定期的に測定します。

可視×不可視/短期×長期のKPI設計例:

  • 可視×短期:CSAT(顧客満足度)、エンゲージメント率(SNS)
  • 可視×長期:NPS(Net Promoter Score)、リピート率
  • 不可視×短期:感情想起率(「このブランド=どんな感情?」というアンケート)
  • 不可視×長期:感情語彙頻度(レビューやSNSでの感情ワード出現頻度)、UGC比率(ユーザー投稿の割合)

業界報告は、AIを用いたセンチメント解析の精度向上と大規模運用の普及を指摘しており、感情的エンゲージメントの”質”を評価する動きが強まっています(参考:Elation Communications『Performance Metrics That Will Matter Most in 2026』|2026|AIセンチメント分析の主流化)

効果測定の詳細については、感情マーケティングの効果測定(記事No.66)(近日公開)で解説します。

第5章:戦略実行のロードマップ

5-1 最初の3ヶ月ロードマップ

感情マーケティング戦略を実装する最初の3ヶ月のロードマップを示します。

Month1:Focus(焦点)

  • Week1-2:顧客・競合調査(インタビュー、ソーシャルリスニング、競合分析)
  • Week3:感情ポジション決定(ワークショップ、経営層の承認)
  • Week4:感情的ブランドガイドライン作成(全社共有)

Month2:Experience & Execute(体験・実行)

  • Week1-2:感情ジャーニーマップ設計(5段階の目標感情と施策の洗い出し)
  • Week3-4:優先施策の制作・実装(広告、Web、サポートなど最優先接点から着手)

Month3:Execute & Learn(実行・学習)

  • Week1-2:施策展開の継続(残りの接点への展開)
  • Week3:測定(KPI収集、感情想起率アンケート実施)
  • Week4:改善計画(データに基づく次の3ヶ月の計画策定)

チーム体制の最小単位:

  • マーケティング(MKT):感情ポジション設計、施策企画、測定
  • カスタマーサクセス(CS):顧客の声収集、感情フィードバック
  • 現場(営業・店舗):接点での感情体験の実装
  • 代理店(必要に応じて):広告・コンテンツ制作の支援

5-2 成功の3ポイント

ポイント1:経営コミット
感情マーケティングは短期的なROIだけでは評価できません。ブランド資産の構築には時間がかかります。経営層が長期的な視点でコミットし、短期的な売上だけで評価しない姿勢が重要です。

ポイント2:全社一貫性
営業、CS、製品開発、すべての部門が同じ感情体験を提供することが成功の鍵です。マーケティング部門だけで完結せず、全社横断のプロジェクトとして推進しましょう。

ポイント3:継続的改善
市況や顧客の価値観は変化します。感情ポジションも定期的に見直し、時代に合わせて更新するルールを設けましょう。年に1回は感情ポジションの妥当性を検証し、必要に応じて微調整します。

ある統計まとめサイトでは、「高い感情的エンゲージメントを経験した消費者の82%がロイヤルティを示す」と報告されています(参考:Amra & Elma『Best Emotional Marketing Statistics 2025』|2025|感情的エンゲージメントとロイヤルティ)。このような二次情報を扱う際は、可能であれば原典の調査手法を確認することを推奨します。

顧客体験設計の実装については顧客体験の感情設計(記事No.60)(近日公開)で、効果測定の詳細は感情マーケティングの効果測定(記事No.66)(近日公開)で解説します。

まとめ

感情マーケティング戦略の本質は、「一貫した感情体験の設計」です。

広告、Web、店舗、サポート——すべての接点で同じ感情を提供することで、顧客の記憶に深く刻まれ、信頼と好意が育まれます。バラバラな施策では、記憶は分散し、好意は定着せず、予算は無駄打ちになります。

本記事の要点:

  1. 戦略の3つの柱:感情ポジショニング、感情ジャーニー設計、測定と改善
  2. 感情ポジショニング:「このブランド=この感情」を明確に定義し、差別化の軸にする
  3. 感情ジャーニー:認知→検討→購入→使用→推奨の5段階で目標感情を設計
  4. FEELフレームワーク:Focus→Experience→Execute→Learnのサイクルで継続改善
  5. 3ヶ月ロードマップ:Month1でFocus、Month2でExperience & Execute、Month3でLearn

今日からのアクション:

  • 今日:自社の感情ポジションを一文で言語化してみる(「当社は○○という感情を提供する」)
  • 今週:感情ジャーニーマップの素案を作成する(5段階の目標感情を書き出す)
  • 今月:最優先施策を1件実装し、簡易KPI(CSAT、エンゲージメント率など)で測定する

感情は「偶然」ではなく「設計」できます。戦略的に感情を設計し、顧客との関係を深めていきましょう。

次のステップ:

  • タッチポイントごとの感情設計は → 顧客体験の感情設計(記事No.60)(近日公開)
  • 効果測定の具体的な方法は → 感情マーケティングの効果測定(記事No.66)(近日公開)
  • 感情マーケティングの全体像は → 感情マーケティング完全ガイド

FAQ

Q1:複数の感情を掲げても良いですか?

A:複数の感情を掲げることは可能ですが、優先順位を明確にすることが重要です。「安心」を最優先とし、副次的に「信頼」「満足」を掲げる、といった形です。ただし、3つ以上になると一貫性が薄れるため、2つまでに絞ることを推奨します。

Q2:B2Bでも感情マーケティングは通用しますか?

A:B2Bこそ感情マーケティングが有効です。意思決定者も人間であり、感情に影響されます。特に「安心」「信頼」といった感情は、複雑な導入プロセスにおいて重要な役割を果たします。導入事例、技術サポートの充実、丁寧なフォローなど、B2B特有の接点で感情を設計しましょう。

Q3:測定が難しい”感情KPI”はどう運用すれば良いですか?

A:感情KPIは、定性データと定量データを組み合わせることで運用できます。定量データ(NPS、CSAT、エンゲージメント率)と定性データ(感情想起率アンケート、レビュー分析、インタビュー)を併用し、数値と言葉の両面から感情の変化を捉えます。完璧な測定を目指すのではなく、「前月より良くなっているか」という相対評価で十分です。

参考資料:

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