「感動するCMを作ったのに、なぜか継続的な成果につながらない…」
こんな経験はないでしょうか。実は、これには明確な理由があるんです。一瞬の感情訴求と、物語を通じた持続的な感情体験は、まったく別物です。映画や小説が私たちの心を動かすように、マーケティングにおいても「物語」は感情を運ぶ最強の乗り物として機能します。しかし多くの企業では、物語と感情を別々に扱っており、統合設計の「型」がないまま施策を打っているのが現状ではないでしょうか。
当編集部では、世界的エンタメ企業で35年間にわたりブランドビジネスの最前線で活躍してきた専門家の知見をもとに、物語と感情マーケティングを統合する実践的なフレームワークを体系化しました。19年間のWEBマーケティング支援の経験からも、中小企業がこの手法を取り入れることで、大きな予算をかけずとも顧客の心に残るブランド体験を創出できることを実感しています。
本記事では、物語が感情を喚起する科学的メカニズムから、感情を動かす5つの原則、そして実践で使える「EMOTIONフレームワーク」まで、すぐに使えるテンプレートとともに解説します。P&G、Google、サントリーといった成功事例の分析も交えながら、明日から実践できる具体的な設計手法をお伝えしていきます。
物語理論の全体像は「ブランドストーリーテリング完全ガイド」で、感情マーケティングの基礎は「感情マーケティング完全ガイド」でも詳しく解説していますので、あわせてご活用ください。
物語はなぜ感情を動かすのか?脳科学と物語構造のメカニズム
「なぜ物語は人の心を動かすのか?」
この問いに対して、近年の脳科学研究は興味深い答えを提示しています。実は、物語を聞いているとき、私たちの脳は単に情報を処理しているだけではありません。話し手と聞き手の脳が文字通り「同期」するという驚くべき現象が起きているんです。
① ニューラルカップリング:脳が同期する
Stephens、Silbert、Hassonらによる2010年のfMRI研究は、話者の脳活動と聴者群の脳活動が空間的・時間的に同期することを示しました。さらに興味深いのは、この同期度合いがリスナーの理解度と関連しているという点です(参考:Stephens, Silbert, Hasson「Speaker-listener neural coupling underlies successful communication」|2010|話者-聴者脳活動同期と理解の関連)。
話者の脳活動がリスナーより数秒先行する「遅延同期」も観察されており、コミュニケーションが成立しない条件では同期が消失することも確認されています。つまり、効果的な物語は聞き手の脳を文字通り「巻き込む」力を持っているわけです。
近年の研究では、聴衆間の脳活動収束(LL)が話者−リスナー間のラグ結合(lag-SL)と正相関し、これらは被験者の物語への没入(engagement)評価と関連することも示されています(参考:Chang, Claire H C; Nastase, Samuel A「How a speaker herds the audience: multibrain neural convergence during naturalistic storytelling」|2024|herding effectの実証とengagement評価の関連)。
② オキシトシン分泌:信頼と共感を生む
Paul Zakが提唱する「Immersion(没入)」という概念では、物語的な刺激が社会的関与と関連する神経化学的応答を誘発すると説明されています。ただし、Zak自身も「オキシトシン単独で人々の行動を完全に予測することはできない」と述べており、没入という複合的な状態を重視しています(参考:TrustTalk「Trust and the Moral Molecule」|年不明|Paul Zak研究解説とImmersion Neuroscience Platformに関する説明)。
研究者の解説によれば、ビデオ会議による没入は対面の約50-80%程度、テキストは約25-30%程度とされています(参考:This Is Your Brain「Immerse Yourself in Happiness with Dr. Paul Zak」|2024|Paul Zakの没入理論とビデオ会議・テキストの没入比率)。この知見は、チャネル選択の重要性を示唆しているといえるでしょう。
③ ミラーニューロン:体験を自分ごと化する
ミラーニューロンは、他者の行為を観察した際にも発火するニューロン群であり、他者の行動や情動を理解する過程に関与すると考えられています(参考:UCLA Health「Mirror neurons critical to development of empathy」|年不明|鏡ニューロンの定義と他者の感情理解、共感の発達への重要性)。
査読済みの文献動向解析では、1996-2024年の文献を対象に約4,000件強を解析し、研究トピックとして意図理解や情動共感、運動学習、臨床応用が主要領域であることが示されています(参考:PMC/NCBI「What Else Is Happening to the Mirror Neurons?—A Bibliometric Analysis」|2025|鏡ニューロン研究の文献動向・応用分野を定量的に解析(1996–2024年の4,054件))。
これを実務に翻訳すると、B2Bでも「現場の1人称視点」を入れるだけで反応が好転するパターンがあります。19年の経験から言えるのは、「誰かの物語」として語ることで、聞き手は自然とその立場に立って考えるようになるということです。
物語の感情構造①:感情曲線の設計
物語には感情の「波」があります。導入から始まり、上昇、クライマックス、そして解決へと流れる感情曲線は、古くはアリストテレスから、現代のハリウッド脚本術まで一貫して重視されてきました。

三幕構成(序幕→中幕→終幕)は、物語の起伏を設計する枠組みとしてコンテンツ設計で広く用いられています(参考:Reedsy「The Three-Act Structure: The King of Story Structures」|年不明|三幕構成の定義と各アクトのビート、具体例を詳細解説)。
マーケティング実務では、three-act structureやhero’s journeyといった物語技法を用いて感情の進行を意図的に設計し、クライマックス付近で明確な行動喚起(CTA)を配置することが推奨されています(参考:Mailchimp「Using Story Arcs to Engage Your Audience」|年不明|three‑act structureやhero’s journey等の物語手法をマーケティングで利用することを推奨)。(参考:American Marketing Association「Story Marketing: Why It Matters and a Step-by-Step Guide」|2022|感情アークを用いた消費者エンゲージメントの仕組みとコンバージョンへの影響に関する実務的説明)。
物語の感情構造②:感情の流れの4要件
効果的な物語設計には、各段階で喚起すべき感情を明確にする必要があります。
| 段階 | 喚起すべき感情 | 実装のポイント |
|---|---|---|
| 導入 | 共感・興味 | 読者の課題や悩みを言語化する |
| 上昇 | 緊張・期待 | 障害や葛藤を描き、解決への期待を高める |
| 頂点 | 感動・驚き | 決定的な瞬間を印象的に描写する |
| 解決 | 満足・余韻 | 変容の結果と、そこから得られる価値を示す |
物語理論の詳細は「ブランドストーリーテリング完全ガイド」で体系的に解説していますので、ぜひ参照してください。
感情を動かす物語作りの5原則
ここからは、物語と感情を統合するための5つの原則を解説します。これらは、数多くの成功事例を分析する中で見出された、再現性の高い設計指針です。
原則1:顧客を主人公にする
ブランディング理論では、効果的な物語において「企業はガイド、顧客が主人公」という構図が基本とされています。多くの企業が陥りがちなのが、自社を主人公にしてしまうパターンです。
「私たちはこんなに素晴らしい会社です」ではなく、「あなた(顧客)がこう変わりました」という視点が、感情移入を生むんです。
顧客との感情的なつながりは、ブランドへのロイヤルティを高め、顧客生涯価値(LTV)の最大化に寄与すると考えられています。物語を通じて顧客をヒーローにすることで、ブランドは価値の高いロイヤル顧客を育成できるでしょう。
- 顧客事例動画:導入企業の担当者を主人公に、課題解決の旅を描く
- 採用ストーリー:求職者が入社後にどう成長するかを、先輩社員の体験として描く
- 製品紹介:「この製品の機能」ではなく「この製品であなたの生活がどう変わるか」
実装チェック:
- コンテンツ内の「私は/私たち」の一人称率は50%以上か?
- 顧客の声・体験談の比率は30%以上か?
- 企業視点の記述を顧客視点に言い換えられる箇所はないか?
原則2:感情的葛藤を描く
葛藤のない物語に、感情の揺れは生まれません。ブランドストーリーにおける葛藤には3つの類型があります。
| 葛藤の類型 | 内容 | 描写例 |
|---|---|---|
| 外的葛藤 | 環境・状況との戦い | 「市場環境が激変し、従来のやり方が通用しなくなった」 |
| 内的葛藤 | 自己との戦い | 「本当にこれでいいのか、何度も自問自答した」 |
| 哲学的葛藤 | 価値観・信念の衝突 | 「効率か品質か、どちらを優先すべきか悩んだ」 |
過剰な演出は逆効果です。事実と感情のバランスを保ち、「こんな困難があった」→「どう感じたか」→「どう乗り越えたか」の流れで自然に描写しましょう。
ここがポイントなんですが、葛藤は「問題提示」ではなく「共感の入り口」です。読者が「わかる、自分も同じだ」と思える葛藤を選ぶことが重要です。
原則3:変容(トランスフォーメーション)を示す
物語の醍醐味は「変容」にあります。Before→Afterを示す際は、外的変化と内的変化の両方を描くことで、説得力が増します。
単に「売上が30%向上しました」だけでは感情は動きません。
このように、定量的な成果と定性的な変化を組み合わせることで、物語に奥行きが生まれます。
- Before/After写真・引用の使用は許諾を必ず取得すること
- 数値は出典を明示し、誇張表現を避けること
原則4:普遍的なテーマを選ぶ
感情に響く物語には、普遍的なテーマが必要です。ブランドの人格(パーソナリティ)と整合する形で、人類共通の感情に訴えるテーマを設定します。
| テーマ | 訴求する感情 | 業界別活用例 |
|---|---|---|
| 家族愛 | 愛情・絆 | 食品(家族の食卓)、保険(家族を守る) |
| 挑戦 | 勇気・達成感 | スポーツ用品、教育サービス |
| 自由 | 解放感・希望 | 旅行、自動車、転職サービス |
| 帰属 | 安心・つながり | コミュニティサービス、ビール(家時間) |
| 喪失と再生 | 共感・希望 | ヘルスケア、保険、終活サービス |
同じテーマを扱う競合がいる場合、以下の要素で差別化できます。
- 舞台設定を変える:都会→地方、日常→非日常
- 時制を変える:現在進行形→回想形式、未来視点
- 語り手の視点を変える:当事者→第三者、顧客→スタッフ
原則5:感覚的に描写する(五感)
抽象的な説明ではなく、具体的なシーンとして描写することで、記憶に残りやすくなります。これは脳のSystem1(直感的・自動的な処理)に働きかけるアプローチです。
| 抽象的表現 | 具体的描写 |
|---|---|
| 「品質が良い」 | 「手に取った瞬間、ずっしりとした重みと、滑らかな木目の手触りが伝わってくる」 |
| 「便利になった」 | 「朝6時、まだ薄暗いキッチンで、ボタンひとつで淹れたてのコーヒーの香りが広がる」 |
| 「喜んでもらえた」 | 「箱を開けた瞬間、娘の目がキラッと輝いて、思わず『わぁ!』と声が漏れた」 |
19年のWEBマーケティング経験から言えるのは、具体的な描写は「書くのに時間がかかる」という点です。でも、その時間投資は確実にコンバージョン率に返ってきます。
感情に訴えるコピーの詳細は「感情訴求コピーライティング」で解説しています。
【深掘りコラム】「感動」と「共感」は似て非なるもの。B2Bで狙うべきはどちらか?
物語で感情を動かす際、多くの人が「感動させたい」と考えがちです。しかし、特にB2Bの領域では、「感動」よりも「共感」を優先すべき場面が多くあります。
「感動」は、非日常的な出来事や劇的な解決によって生まれる、強くも一過性の感情のピークです。一方、「共感」は「その気持ち、よくわかる」「自分たちも同じ課題を抱えている」という、持続的な心理的つながりを生み出します。
B2Bの購買決定は長期的で論理的なプロセスです。一瞬の感動は記憶に残りますが、信頼関係の構築には至りません。むしろ、課題解決の道のりを共に歩むパートナーとして「共感」を得ることこそが、長期的な関係性の礎となるのです。あなたの物語は、顧客を感動させるためのものですか?それとも、共感を得るためのものですか?その問いが、ストーリーの質を大きく左右します。
【感情曲線デザイン・チェックリスト】
読者が物語を通してどのような感情を抱くか、事前に設計し、検証するための簡易チェックリストです。
- 導入 (Empathy/Origin): ターゲットが「これは自分のことだ」と感じる課題提起か?
- 上昇 (Tension): 主人公の葛藤は、外的・内的・哲学的な深みを持っているか?
- 頂点 (Moment/Insight): 最も伝えたいメッセージと感情のピークが一致しているか?
- 解決 (Outcome/Next): Before→Afterの変容が、数字と感情の両面で描かれているか?CTAへの繋がりは自然か?
【章末補足】倫理・リスクへの配慮
感情を動かす力には責任が伴います。以下の点に十分注意してください。
- 感情操作の過剰を避ける:恐怖や不安を過度に煽る手法は短期的には効果があっても、長期的なブランド毀損につながります
- センシティブ表現への配慮:疾病、災害、差別に関連する表現は細心の注意を払う
- 実在個人の扱い:顧客事例や体験談を使用する際は、必ず本人の同意を得て、必要に応じて匿名化する
統合コミュニケーションにおける倫理配慮は、ブランドの一貫性と信頼性を保つ上で不可欠です。
実践フレームワーク「EMOTION」で感情ストーリーを設計する
ここからは、実際に感情的ストーリーを設計するための具体的なフレームワークを紹介します。
感情ストーリーを7つのステップで設計する「EMOTIONフレームワーク」
物語と感情を統合的に設計するために、当編集部では「EMOTION」という7ステップのフレームワークを整理しました。これは、ブランディング理論におけるターゲット理解(友達視点)、ストーリー要素、ブランドの約束と原則、統合コミュニケーションの知見を、実務で使いやすい形に再構成したものです。

各ステップの詳細:
| ステップ | 問いかけ | 設計のポイント |
|---|---|---|
| E-Empathy | ターゲットは何に悩み、何を願っているか? | ペルソナの感情面を深掘りする。「友達」視点で理解する |
| M-Moment | 感情が最も動く瞬間はどこか? | クライマックスとなるシーンを先に決める |
| O-Origin | 物語はどこから始まるか? | Before状態、きっかけとなった出来事を設定 |
| T-Tension | どんな葛藤があるか? | 外的・内的・哲学的葛藤を1つ以上設定 |
| I-Insight | 何に気づき、何が変わったか? | 転換点となる発見・学びを明確に |
| O-Outcome | 最終的にどうなったか? | After状態を数字と感情の両面で描写 |
| N-Next | 視聴者に何をしてほしいか? | 明確なCTAをチャネルに合わせて設計 |
実は、本記事で紹介したEMOTIONフレームワークは、神話学者のジョセフ・キャンベルが提唱した「ヒーローズ・ジャーニー」の構造と深く関連しています。

例えば、E(共感)は「日常の世界」で主人公が抱える課題の提示、T(緊張)は「試練、仲間、敵対者」、そしてO(結果)は「宝を持っての帰還」に対応します。この普遍的な物語構造を理解することで、より深く視聴者の無意識に働きかけるストーリーを設計できるのです。
すぐに使える「感情的ストーリー設計シート」
以下のテンプレートを使って、実際にストーリーを設計してみましょう。各ステップごとに「主情(感じてほしい感情)」「事実」「画・音・言葉」の3点を記入することで、抜け漏れのない設計が可能になります。
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【感情的ストーリー設計シート】
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■ 基本情報
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プロジェクト名:
制作日:
担当者:
ターゲット:
展開チャネル:
■ E - Empathy(共感)
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【主情】感じてほしい感情:
【事実】ターゲットの課題・悩み:
【表現】どう表現するか(画・音・言葉):
■ M - Moment(瞬間)
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【主情】感じてほしい感情:
【事実】決定的な瞬間の内容:
【表現】どう表現するか(画・音・言葉):
■ O - Origin(起点)
──────────────────────────────────────
【主情】感じてほしい感情:
【事実】物語の始まり・背景:
【表現】どう表現するか(画・音・言葉):
■ T - Tension(緊張)
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【主情】感じてほしい感情:
【事実】葛藤・障害の内容:
【表現】どう表現するか(画・音・言葉):
■ I - Insight(洞察)
──────────────────────────────────────
【主情】感じてほしい感情:
【事実】気づき・転換点:
【表現】どう表現するか(画・音・言葉):
■ O - Outcome(結果)
──────────────────────────────────────
【主情】感じてほしい感情:
【事実】変容の結果(数字+定性):
【表現】どう表現するか(画・音・言葉):
■ N - Next(次へ)
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【主情】感じてほしい感情:
【事実】求める行動(CTA):
【表現】どう表現するか(画・音・言葉):
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- 30分で粗案作成:まずはざっくりと全ステップを埋める
- 社内レビュー:関係者からフィードバックを受ける
- 顧客1名に読了テスト:可能であれば実際のターゲットに見せて反応を確認
- 修正:フィードバックを反映
- チャネル翻訳:展開するチャネルに合わせて調整
チャネル別「翻訳マップ」で一貫した体験を創出する
同じ物語を、異なるチャネルで効果的に展開するには、統合コミュニケーション(IMC)の考え方が重要です。一つの物語を、Web・SNS・動画・店頭・営業資料それぞれの特性に合わせて「翻訳」していきます。
| EMOTION要素 | Web/LP | SNS | 動画 | 店頭 | 営業資料 |
|---|---|---|---|---|---|
| E-Empathy | ファーストビューのコピー | フック投稿 | 冒頭3秒 | POPのキャッチ | 導入ページ |
| M-Moment | ヒーロー画像 | メイン投稿 | クライマックスシーン | 店頭ディスプレイ | 事例ページの山場 |
| I-Insight | 折り返し上の訴求 | カルーセル中盤 | ナレーション転換点 | 説明POP | 提案の核心部分 |
| O-Outcome | 事例・数字セクション | UGC活用 | エンディング | ビフォーアフター展示 | 成果ページ |
| N-Next | CTAボタン | コメント誘導 | 最終カット | レジ横設置 | 次回アクション提案 |
- Moment(M)を動画の3秒目に:SNS動画は最初の3秒で離脱判断されるため、感情が動く瞬間を冒頭に配置
- Insight(I)をLPの折り返し上に:スクロールせずに見える位置に「気づき」を配置
- Outcome(O)をUGCで補強:顧客の声や体験談は、企業発信より信頼される
2024年の業界レポートでは、62%の組織がInstagramをクリエイターマーケティングで最も重要なプラットフォームと評価しており、UGCの活用が成功の鍵となっています(参考:CreatorIQ「Key Takeaways from the 2024 Influencer Marketing Trends Report」|2024|62%の組織がInstagramをクリエイターマーケティングで最も重要なプラットフォームと評価)。
また、インタラクティブコンテンツは静的コンテンツより高いエンゲージメントを得るとの報告もあり、物語の中にインタラクション要素を組み込むことも効果的です(参考:Switch「Brand Storytelling Trends in 2024」|2024|インタラクティブコンテンツは静的より52.6%高いエンゲージメント)。
ストーリーの具体的な作り方は「ブランドストーリーの作り方」で、戦略設計は「感情マーケティング戦略」で詳しく解説しています。顧客体験全体への落とし込みについては「顧客体験の感情設計(記事No.60)」(近日公開予定)も参考にしてください。
【事例分析】P&G、Googleの成功に学ぶ感情ストーリーテリング
ここからは、EMOTIONフレームワークを使って、実際の成功事例を分析してみましょう。
(※本章で紹介する事例は、一般に公開されている情報に基づいた分析であり、特定の企業との提携関係を示すものではありません。)
事例1:P&G “Thank You, Mom”
P&Gの「Thank You, Mom」キャンペーンは、感情的ストーリーテリングの代表的成功事例です。2010年のバンクーバー冬季オリンピックに合わせてローンチされ、その後のオリンピックでも継続的に展開されました(参考:Wieden+Kennedy「P&G Thank You, Mom」|年不明|P&G Thank You, Momキャンペーンの主要実績とKPI)。
報告されている成果:Wieden+Kennedyによれば、このキャンペーンは以下の成果を生んだと報告されています(測定方法・期間は出典で明示されていないため、引用時には留保が必要です)。
- $500 million in global incremental P&G sales
- 76 billion global media impressions
- Over 74 million global views
- Over 370 million Twitter interactions
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| E-Empathy | 母親の無償の愛、子どもを支え続ける姿への共感 |
| M-Moment | オリンピックでの勝利の瞬間、母親と抱き合うシーン |
| O-Origin | 幼少期からの練習風景、朝早くから送り迎えする母 |
| T-Tension | 怪我・挫折・失敗を乗り越える苦しみ |
| I-Insight | 「いつもそばにいてくれた」という気づき |
| O-Outcome | 金メダル獲得、成功への到達、母への感謝 |
| N-Next | P&G=母親の味方、という連想形成→製品購買 |
このキャンペーンの秀逸な点は、P&G製品を直接売り込むのではなく、「母親」という普遍的な存在への感謝を通じて、ブランドへの好意を形成している点です。
事例2:Google “Loretta”
Google “Loretta”は、2020年のSuper Bowlで放映され、大きな反響を呼んだ広告です。高齢男性がGoogleアシスタントを使い、亡き妻Lorettaとの思い出を呼び起こすという感動的なストーリー。Google製品が日常生活の支援になることを訴求しています(参考:TEGNA「How Google Won the 2020 Super Bowl with its Loretta Ad」|2020|Google Loretta広告の制作意図とYouTube視聴数)。
報告されている成果:
- YouTubeで公開当日の夜までに約1,040万回再生
- 2020年9月時点で約6,200万回再生
- UnrulyEQスコア:6.5/10(Super Bowl LIVで最高評価)
- 視聴者の49%が「強い感情的反応」を示した
- ブランド好意度:49%(米国平均37%)
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| E-Empathy | 記憶の喪失への不安、愛する人を忘れたくないという普遍的な願い |
| M-Moment | 「彼女の笑い声が好きだった」という音声が再生される瞬間 |
| O-Origin | 妻を亡くした高齢男性の日常 |
| T-Tension | 記憶が薄れていく恐怖、思い出せなくなる不安 |
| I-Insight | テクノロジーが人の感情を支えることができる |
| O-Outcome | 思い出が立ち上がり、妻との時間を再び感じられる |
| N-Next | Googleアシスタントへの信頼形成 |
注目すべきは、製品機能の説明をほとんどせずに、「テクノロジーは人の感情を支える」というメッセージを物語で伝えている点です。
事例3:サントリー「金麦」
日本企業の事例として、サントリー「金麦」のCMを分析します。
キャンペーン概要:2025年1月6日から放映開始された新TV-CMは、「今日も帰る(彼)」篇と「今日も帰る(彼女)」篇の2篇構成。仕事終わりの「家時間」を描く構成で、竹野内豊、黒木華が各篇に主演しています(参考:共同通信PRワイヤー「サントリー金麦 新TV-CM『今日も帰る(彼)』篇」|2024|サントリー金麦新TV-CMのストーリー構成と放映開始日)。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| E-Empathy | 日常の疲労、「帰りたい」という普遍的な願望 |
| M-Moment | 自宅に帰った瞬間、金麦を開ける音 |
| O-Origin | 仕事場でのストレス、長い一日 |
| T-Tension | 「まだ帰れない」という葛藤、日常の小さなストレス |
| I-Insight | 家に帰ることの幸せ、日常にある安らぎ |
| O-Outcome | 穏やかな食卓、金麦とともにリラックスする姿 |
| N-Next | 「帰れば、金麦」というメッセージによる想起形成 |
「帰属」「安らぎ」「家時間」という普遍的テーマで視聴者の共感を形成し、金麦=家での安らぎという連想を構築しています。大げさな演出ではなく、日常の何気ない瞬間を丁寧に描くことで、リアリティのある感情訴求を実現しています。
感情マーケティング事例の詳細は「感情マーケティング事例15選」で業界別に解説しています。
章末:理論と実装の深掘り
事例分析をさらに深めたい方は「感情マーケティング理論(記事No.58)」(近日公開予定)で学術的な裏付けを、広告制作の具体的手法は「感情に訴える広告」で解説しています。
まとめ
本記事では、ストーリーテリングと感情マーケティングを統合するための理論と実践方法を解説してきました。
最後に、これからの運用を始める、あるいは見直すあなたに最も伝えたいメッセージは「完璧を目指すより、まず始めてみること」そして「小さく素早くPDCAを回し続けること」です。
本記事の重要ポイントの振り返り:
- 物語は感情の乗り物
- 脳科学研究が示すように、物語は話し手と聞き手の脳を同期させ、感情を自然に喚起する
- 5つの原則で設計する
- 顧客を主人公に/感情的葛藤を描く/変容を示す/普遍テーマを選ぶ/五感で描写する
- EMOTIONフレームワークで再現可能に
- E(共感)→M(瞬間)→O(起点)→T(緊張)→I(洞察)→O(結果)→N(次へ)の7ステップで設計
- チャネルに合わせて翻訳する
- 同じ物語を、Web/SNS/動画/店頭それぞれの特性に合わせて展開
SNSの世界に、たった一つの絶対的な正解はありません。成功事例を参考にしつつも、最終的にはあなた自身のキャラクターとファンに真摯に向き合い、試行錯誤を繰り返す中でしか、自社にとっての「最適解」は見つからないのです。
まずは、この記事で紹介したテクニックの中から、明日からすぐに試せるものを一つ選んで実行してみてください。そして、その反応をデータで確認し、少しずつ改善を加えていく。その地道な積み重ねが、数ヶ月後、一年後には、ファンに愛され、ビジネスに貢献する強力なアカウントへと成長しているはずです。
ファンとのエンゲージメントをさらに深め、強固なコミュニティを築く方法については、「キャラクターファンコミュニティ構築の方法」で詳しく解説しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 感動の押し付けにならないコツは?
A. 最も重要なのは、「企業が伝えたいこと」ではなく「顧客が感じたいこと」から設計することです。具体的には以下の点に注意してください。
- 過剰な演出を避ける:BGMや映像効果で無理に泣かせようとしない
- 事実をベースにする:架空の物語より、実際の顧客体験に基づく方が説得力がある
- 押し付けず、共感を誘う:「感動してください」ではなく、「こんなことがありました」と語る
- ターゲットの温度感を確認する:制作前に想定顧客に方向性をヒアリングする
19年の経験から言えるのは、「泣かせよう」と思って作ったコンテンツほど、空振りしやすいということです。自然体で、事実を丁寧に描写することを心がけてください。
Q2. B2Bで感情的ストーリーは有効?
A. B2Bでも感情的ストーリーは非常に有効です。むしろ、競合との差別化に効果的です。
B2Bの購買決定も、最終的には「人」が行います。論理的な比較検討の後、「この会社と仕事がしたい」「この担当者を信頼できる」という感情が決め手になることは少なくありません。
- 導入事例動画:担当者の「苦労→解決→成果」のストーリーを描く
- 創業ストーリー:なぜこの事業を始めたのか、原体験を語る
- 社員紹介:「この人たちと仕事ができる」という安心感を醸成
- 失敗からの学び:課題に真摯に向き合う姿勢を見せる
ただし、B2Cよりも「事実」と「数字」の比重を高め、感情は補助的に使うバランスが重要です。
Q3. 短尺動画(TikTok・Reels)でもEMOTIONを使える?
A. 使えます。ただし、7ステップすべてを入れるのではなく、要素を絞り込む必要があります。
- 冒頭3秒でM(Moment):感情が動く瞬間を最初に見せてフックにする
- 次の5-10秒でO(Origin)→T(Tension):背景と葛藤を圧縮して提示
- 残りでO(Outcome)→N(Next):結果とCTAを示す
E(共感)やI(洞察)は、キャプションやコメント返信で補完する方法もあります。
Instagram Reelsは相対的に高いエンゲージメント傾向が報告されており、短尺での感情訴求は有効な戦略といえます(参考:Breakroomchoices「Fresh Data: TikTok Ads Outperform YouTube & Instagram Instagram Campaigns In 2024」|2024|Instagram Reelsの高いエンゲージメント傾向とコンテンツ効果への寄与)。
※本記事は、当編集部が世界的エンタメ企業での実務経験を持つ専門家の知見をもとに作成したものです。各企業の事例・データは公開情報に基づいており、個別の効果を保証するものではありません。
