ブランドエクスペリエンスとは?4次元モデルと5原則で解き明かす顧客体験設計の教科書【5ステップ実装】

同じ機能を持つスマートフォンなのに、なぜ特定のブランドだけが行列を生むのでしょうか?同じ価格帯のコーヒーなのに、なぜ通勤前に必ず立ち寄る店が決まっているのか。宿泊施設も価格や立地が似ているのに、「次もここに泊まりたい」と思わせる場所がある一方、二度と訪れない場所もあります。

これは偶然ではなく、ブランドエクスペリエンス(ブランド体験)の設計の差なのです。たった1回の悪い体験で37%の顧客が離脱する可能性もあると言われています(参考:Medallia「The State of Brand Loyalty」|2024|37%の顧客が1回の悪い体験で関係を終える可能性)。

当編集部では、世界的エンタメ企業で35年間にわたりブランドビジネスの最前線で活躍してきた専門家の知見をもとに、中小企業でも実践可能な体験設計の実務を体系的に解説してきました。19年間WEBマーケティング会社を経営する私たちの視点で分析すると、興味深いことがわかります。製品の機能や価格が横並びになった今、顧客の意思決定を左右するのは「体験価値」になっているのです。

しかし、多くの企業が次のような課題を抱えています。

  • 「CXには取り組んだが、ブランドの”世界観体験”が場当たり的で一貫性がない」
  • 「ブランドガイドラインはあるのに、実際の体験がチャネルごとにバラバラ」
  • 「『体験設計』と言いながら、五感や感情の扱い方が曖昧で施策に落とし込めない」

本記事では、ブランドエクスペリエンスの定義(4次元モデル)から始め、CXとの違いを組織で説明できる比較フレーム(【表】CXとブランドエクスペリエンスの比較)で明確にしたうえで、設計の5原則と5ステップの実装プロセスを解説します。理論だけでなく、チェックリストや翻訳マップも提供し、明日から実務で使える形に落とし込みます。

この記事を読むことで、以下が得られます:

  • ブランドエクスペリエンスの正確な定義とBrakus 2009の4次元理解
  • CXとの違いを組織で説明できる比較フレーム
  • 五感統合・一貫性・独自性・感情・パーソナライゼーションの5原則
  • すぐに使える設計プロセス5ステップ
  • 実践事例から学ぶ中小企業での応用ポイント

全体像を先に掴みたい方は「ブランド体験(記事No.70)※近日公開」へ、より深い理論を知りたい方は本記事を読み進めてください。

目次

第1章:ブランドエクスペリエンスとは

1-1 定義と4つの次元

ブランドエクスペリエンスとは何か、その構造を【図】4+1次元モデルで見ていきましょう。ブランドエクスペリエンスとは、顧客がブランドとのあらゆる接点を通じて得る、五感・感情・認知・行動の総合体験です。

学術的にはBrakus et al.(2009)が提唱した4次元モデルが基礎となっています(参考:J. Jo ˘sko Brakus, Bernd H. Schmitt, & Lia Zarantonello「Brand Experience: What Is It? How Do We Measure It? And Does It Affect Loyalty?」|2009|4次元:感覚・情動・知的・行動で測定する12項目尺度を開発)。この4次元とは以下を指します:

  1. 感覚的体験(Sensory):視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚を通じて受け取る刺激。店舗の香り、パッケージの手触り、Webサイトのビジュアルデザインなどが該当します。
  2. 感情的体験(Affective):ブランドとの接触で喚起される感情や愛着。喜び、安心、期待、ノスタルジアといった感情の動きです。
  3. 知的体験(Intellectual):ブランドが提供する思考の刺激や気づき。「なるほど、そういう使い方があったのか」という発見や、ブランドの世界観を理解する過程が含まれます。
  4. 行動的体験(Behavioral):ブランドを通じて促される身体的行動やライフスタイルの変化。製品の使い方、イベントへの参加、SNSでの発信などです。

さらに最新の研究では、この4次元に社会的次元(Social Presence)を加えた拡張モデルも提案されています(参考:Min Li , Wonjun Chung「Enhancing brand experience and brand authenticity: The role of octomodal mental imagery and social presence」|2025|social presenceがbrand experience→brand authenticityの関係を正に調整 βinteraction=0.295)。オンライン環境での「つながり感」が体験の真正性を高める効果が実証されたのです。

これらの学術的な次元をまとめたのが、以下の『ブランドエクスペリエンスの4+1次元モデル』です。この図は、ブランド体験が多層的な要素で構成されていることを示しています。

当編集部がこの定義を実務で翻訳すると、ブランド体験=顧客がブランドの「約束」を全接点で”生きる”ことと言えます。ブランドの約束(ブランド戦略の基本となる「約束と原則の2層構造」における北極星)を、店舗でも、Webでも、カスタマーサポートでも一貫して実感できるかが鍵です。設計のガードレールは「原則」であり、この原則が各接点での体験品質を支えます。

【専門的フレームワーク:戦略的経験価値モジュール(SEMs)】
Brakusの4次元モデルが体験の”構成要素”を示すのに対し、B. H. シュミットが提唱する戦略的経験価値モジュール(SEMs)は、体験を「Sense(感覚)」「Feel(情緒)」「Think(知的)」「Act(行動)」「Relate(関係性)」の5つのモジュールで捉えることで、体験を「設計する際の視点」を提供します。
例えば、「Think」モジュールを強化するためにクイズコンテンツを、「Relate」モジュールを強化するためにユーザーコミュニティを設計するなど、具体的な施策に落とし込みやすくなります。このSEMsは、単に体験を分類するだけでなく、どのように体験を創出し、顧客との関係性を深めるかという、より実践的なアプローチを可能にするフレームワークと言えるでしょう。

1-2 CX(カスタマーエクスペリエンス)との違い

「ブランドエクスペリエンス」と「CX(カスタマーエクスペリエンス)」は混同されがちですが、概念も測定方法も異なります。以下の比較表で整理しましょう:

CX(カスタマーエクスペリエンス)とブランドエクスペリエンスの比較

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比較観点CX(カスタマーエクスペリエンス)ブランドエクスペリエンス
定義取引プロセス中心の顧客体験ブランド全体との世界観・価値観の体験
焦点機能性・利便性・問題解決(スムーズさ)感覚・感情・自己表現の共鳴(らしさ)
範囲購入や利用の前後に発生する一連のプロセスブランドに接触する全ての瞬間(広告認知も含む)
目標顧客満足度向上・離脱防止・効率化ブランドへの愛着形成・ロイヤルティ向上
代表KPINPS, CSAT, CES, 解決時間ブランド体験尺度, ブランド好意度, 再購入意向
主管部署CX部門、カスタマーサービス、営業ブランド部門、マーケティング、経営企画
出典:NASHVILLE, Tenn., and CAMBRIDGE, Mass.「2024 US Customer Experience Index :Brands’ CX Quality Is At An All-Time Low」|2024|customer-obsessed組織の優位性、McKinsey&Company「What’s next in experience-led growth」|2024|CXを事業成長に直結する戦略的領域と位置付けを基に編集部作成

まとめ:
CXは「取引をスムーズにする」ことに焦点を当て、ブランドエクスペリエンスは「ブランドの世界観を体感させる」ことに焦点を当てます。両者は層で重なり合い、統合することで成果を最大化します。
McKinsey(2024)はCXを「事業成長に直結する顧客行動と財務成果を促進する戦略的領域」と位置付け、Forresterの2024 CX Indexでは、顧客中心組織が収益+41%、利益+49%、顧客維持+51%という優位性を示すことが報告されています(参考:NASHVILLE, Tenn., and CAMBRIDGE, Mass.「2024 US Customer Experience Index :Brands’ CX Quality Is At An All-Time Low」|2024|customer-obsessed組織は収益+41%、利益+49%、顧客維持+51%)。
実務では、CXチームがオペレーションを最適化し、ブランドチームが世界観を設計する。この連携がうまくいかないと、「接客は完璧だが、ブランドらしさがない」「ビジュアルは美しいが、対応が冷たい」という断絶が生まれます。
CXとブランドの関係性については、今後の記事「カスタマーエクスペリエンスとブランドの関係(記事No.69)※近日公開」でさらに詳しく解説予定です。

1-3 注目背景:なぜ今”体験”か

なぜ今、ブランドエクスペリエンスが重要視されているのでしょうか?背景には以下の4つの潮流があります。

  1. コモディティ化の加速
    製品の機能や価格が横並びになり、差別化が困難に。体験こそが差別化の源泉になっています。
  2. 体験経済の到来
    モノ消費からコト消費へ。顧客は「所有」よりも「体験」に価値を見出すようになりました。
  3. 接点の増加(デジタル化)
    店舗・Web・SNS・アプリ・カスタマーサポートなど、接点が爆発的に増加。一貫した体験設計の難易度が上がっています。
  4. SNS拡散の影響
    一度の悪い体験がSNSで拡散され、ブランド価値を毀損するリスクが高まっています(参考:Medallia「The State of Brand Loyalty」|2024|1回の悪い体験で12.5%の顧客がブランドを永続的に離脱)。

これらの変化により、体験が記憶・選好・価格耐性に与える影響が増大しました。研究によれば、感情的なつながりを持つブランドは、機能的価値だけのブランドに比べて顧客維持率が大幅に高いことが示されています。

【専門家としての独自インサイト:ブランド体験への投資は「収益ドライバー」】
Forrester社の最新調査「The US Customer Experience Index, 2024」では、CXスコアが1ポイント向上すると、特定業界では顧客一人当たりの年間収益が平均XXドル増加すると試算されています。このデータから専門家として言えるのは、ブランド体験への投資は単なるコストではなく、LTV(顧客生涯価値)に直結する“収益ドライバー”であるということです。特に、顧客のポジティブな感情を喚起する体験は、価格競争から脱却し、持続的な利益成長を実現するための鍵となります。

次の章では、この体験をどう設計するかの5つの原則を解説します。

第2章:ブランドエクスペリエンス設計の5つの原則

原則1:五感の統合

ブランド体験の第一原則は、五感を統合的に設計することです。

人間は五感を通じて世界を認識します。視覚だけ、聴覚だけではなく、複数の感覚が連動することで記憶に残る体験が生まれます。音の手がかりを含む広告は視覚のみの広告に比べて8.53倍効果的であるという報告もあります(参考:Rebellion Group「Sonic Branding:Leveraging The Power of Sound for Your Brand」|2026|Ipsosメタ分析より8.53倍効果的)。

  1. 視覚:カラー・レイアウト・VIガイドライン。ブランドの世界観を最も直接的に伝える要素です。
  2. 聴覚:サウンドロゴ・BGM・音声UI。店舗のBGM、動画広告の音楽、アプリの通知音など。音は感情を直接喚起する力を持ちます。
  3. 触覚:素材・手触り・温度。パッケージの質感、店舗の椅子の座り心地、製品の重さなど。
  4. 嗅覚:店舗香・香りポリシー。香りは記憶と強く結びつき、無意識のうちにブランドを想起させます(参考:Majestic Hospitality「Hotel Scent Branding: Elevating Guest Experience Through Strategic Fragrance Design」|2025|香りがゲストの評価・満足度・ブランド忠誠に影響)。
  5. 味覚:該当業態(飲食・食品)でのフレーバー設計。味覚は最も個人差が大きい感覚ですが、一度定着すると強い愛着を生みます。

クロスモーダル効果の活用
感覚間の相互作用(例:音×味、色×香り)を意識した設計も重要です。ただし、過度な刺激は逆効果になるため、ブランドの原則に沿った整合性を保つことが前提です。

原則2:一貫性

第二の原則は一貫性です。ブランド体験の一貫性が崩れると、顧客は混乱し、信頼を失います。ブランドのVI(ビジュアル・アイデンティティ)ガイドラインやIMC(統合マーケティングコミュニケーション)が示すように、すべての接点で統一されたメッセージと体験を提供することが不可欠です。

  1. ビジュアル一貫性:ロゴ・カラー・フォントがすべてのチャネルで統一されているか。
  2. メッセージ一貫性:広告・Web・接客で語られるブランドストーリーやトーン&マナーが揃っているか。
  3. 体験品質一貫性:店舗・オンライン・カスタマーサポートの対応品質が同水準か。
  • Web↔店舗のギャップ:Webでは洗練されたビジュアルなのに、店舗は雑然としている。→ 店舗環境もVIガイドに準拠させる。
  • 広告↔接客のトーン差:広告は親しみやすいのに、接客は事務的。→ 接客トレーニングにブランドトーンを組み込む。

実装Tips:ライト版”ブランドブック”運用
中小企業では大規模なブランドブックは不要です。A4で5〜10ページ程度の「ライト版ブランドブック」を作成し、以下を明記します:

  • ブランドの約束と原則(2層構造)
  • ロゴ・カラー使用ルール
  • トーン&マナー(文体・接客の口調)
  • 禁止事項リスト(やってはいけないこと)

これを全スタッフ・外注パートナーに共有し、定期的に更新します。

【深掘りコラム】”一貫性”の落とし穴:なぜ最高の体験は”意図的な非一貫性”から生まれるのか?
ブランド体験の原則として「一貫性」は不可欠です。しかし、すべての体験を均一化することは、顧客を退屈させる危険もはらんでいます。心理学の「ピーク・エンドの法則」が示すように、人の記憶に強く残るのは体験のピーク(最も感情が動いた瞬間)と終わり方です。
優れたブランドは、日常的な接点では安定した一貫性を提供しつつ、特定のタッチポイントで意図的に感情の山場、つまり”ポジティブな非一貫性”を創出します。例えば、ホテルのチェックアウト時に予期せぬお土産を渡す、ECサイトの購入完了画面で特別なメッセージを表示するなどです。これは、ブランドの「原則」は守りつつ、期待を超える「例外」を戦略的に設計する高度な手法と言えるでしょう。

原則3:独自性

第三の原則は独自性です。記憶に残る「らしさ」を体験として翻訳することが求められます。

ブランドパーソナリティ(例:「冒険好き」「洗練された」「親しみやすい」)を、具体的な体験要素に落とし込む必要があります。

ピークエンド効果で”覚えてほしい瞬間”を設計
心理学のピークエンド効果(体験のピーク時と終了時が記憶に残りやすい)を活用し、意図的に「ここで感動させる」瞬間を作ります。
例:

  • 開封体験の最後に手書きメッセージカード
  • チェックアウト時のサプライズギフト
  • アプリの初回起動時の特別ウェルカム画面

独自の世界観を「儀式化」する
入店・開封・受け取りシーンを「儀式」として設計します。
例:

  • 高級コーヒーチェーン:名前を呼ぶ儀式
  • スマートフォンブランド:開封手順が美しく設計されたパッケージ
  • 高級自動車:納車時のセレモニー

これにより、ブランドとの接触が「特別な瞬間」として記憶に残ります。

原則4:感情的つながり

第四の原則は感情的つながりです。顧客を「友達」として捉える視点で、ブランドと顧客の関係性を構築し、感情的な絆を深めます。

五感→感情→記憶の流れを設計
五感刺激(視覚・聴覚など)→ 感情喚起(喜び・安心・期待・ノスタルジア)→ 記憶定着、という流れを意識的に設計します。

  • 店舗の香り(嗅覚)→ 懐かしさ(感情)→ 「またこの店に来たい」(記憶)

感情サイロ(No.47-66)と統合
感情マーケティングの記事群(記事No.47〜66)と本記事を統合し、日常的なトーンと「感情の山(ピーク体験)」を作り分けます。
日常:親しみやすく安定したトーン
ピーク:驚き・感動を喚起する演出

詳細は、「顧客体験における感情設計」で解説しています。

原則5:パーソナライゼーション

第五の原則はパーソナライゼーションです。

個別化された体験は顧客エンゲージメントを高めますが、やりすぎると「気味悪さ(creepy)」を感じさせるリスクもあります。約80%の消費者がパーソナライズされた体験に快適さを感じる一方、2/3(約66.7%)が誤りや侵襲的と感じるパーソナライズ体験を経験したと報告されています(参考:Mark Abraham, TR Geng, Florian Kogler, and Lauren Taylor「What consumers want from personalization」|2024|約80%の消費者がパーソナライズされた体験に快適、2/3が侵襲的体験を経験)。

  1. セグメント別(例:年齢層・地域)
  2. 行動履歴ベース(例:閲覧商品に基づくレコメンド)
  3. 1to1(例:名前・誕生日を活用したメッセージ)

期待値管理と”気味悪さ”回避ルール

  • 透明性:データ利用目的を明示
  • 選好コントロール:ユーザーが設定をON/OFFできる
  • 適度な距離感:過度に詳細な情報を使わない

ミニマムでも出来る:名寄せ・レコメンド・メッセージ差分の始め方

中小企業でも以下から始められます:

  • 名寄せ:顧客名を記録し、次回訪問時に名前で呼ぶ
  • レコメンド:「この商品を買った人はこれも購入」リスト
  • メッセージ差分:新規顧客と既存顧客で異なるウェルカムメッセージ

高度なAIやCDPは不要。まずは「名前を覚える」ことから始めましょう。

【実践ツール:ブランドエクスペリエンス設計:5原則セルフチェックリスト】
ブランド体験の設計は、多岐にわたる要素の統合が求められます。以下のチェックリストを活用し、自社のブランドエクスペリエンスが5つの原則に照らしてどの程度満たされているか、現状を自己評価してみてください。各項目を1(未着手)から5(非常に良い)で評価し、合計スコアで強みと弱みを把握しましょう。

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原則チェック項目自己評価(1~5)
1. 五感の統合1-1. 視覚要素がブランドガイドラインに準拠しているか
1-2. 聴覚要素(BGM・効果音)がブランドの雰囲気と一致しているか
1-3. 触覚体験(素材・質感)がブランドの品質約束を体現しているか
1-4. 嗅覚要素が設定されている場合、ブランド世界観と調和しているか
1-5. 味覚要素が該当業態で一貫したフレーバー戦略を持っているか
2. 一貫性2-1. ロゴ・カラー・フォントがすべてのチャネルで統一されているか
2-2. 広告・Web・接客で語られるブランドストーリーやトーン&マナーが揃っているか
2-3. 店舗・オンライン・カスタマーサポートの対応品質が同水準か
2-4. 顧客がチャネル間でシームレスな体験を得られているか
2-5. スタッフ全員がブランドの「ライト版ブランドブック」を理解・実践しているか
3. 独自性3-1. 記憶に残る「ブランドらしさ」を体験として翻訳できているか
3-2. 顧客が「特別な瞬間」と感じるピーク体験を意図的に設計できているか
3-3. ブランドとの接触が「儀式化」された瞬間(入店・開封・受け取りなど)があるか
3-4. 競合ブランドとは異なる、独自の体験価値を提供できているか
3-5. ブランドパーソナリティ(例:冒険好き)が体験要素に落とし込まれているか
4. 感情的つながり4-1. 顧客の喜び・安心・期待・ノスタルジアといった感情を喚起する接点があるか
4-2. 五感刺激が感情喚起、ひいては記憶定着につながる流れを意識できているか
4-3. 顧客を「友達」と捉え、感情的な絆を構築するコミュニケーションができているか
4-4. 日常的なトーンと、驚き・感動を喚起する「感情の山」を作り分けできているか
4-5. 顧客との関係性において、ポジティブな感情体験が優勢であるか
5. パーソナライゼーション5-1. 顧客をセグメント別に分け、個別のメッセージやレコメンドを提供できているか
5-2. 行動履歴に基づいたレコメンドなど、個別最適化された体験を提供できているか
5-3. 顧客データ利用の目的を透明化し、設定をコントロールできる選択肢を提供しているか
5-4. 過度に詳細な情報を使わず、顧客が「気味悪さ」を感じない距離感を保てているか
5-5. 顧客名を覚える、次回訪問時に呼ぶといったミニマムなパーソナライゼーションから着手しているか
合計スコア / 25

第3章:ブランドエクスペリエンス設計のプロセス

ここでは、設計プロセスを5つのステップで解説し、各原則がどのようにKPIに結びつくか(【表】5原則と関連KPI例)も示します。

ステップ1:ブランドの核を定義

設計の第一歩は、ブランドの核(約束と原則)を明文化することです。ブランド戦略の基本となる「約束と原則の2層構造」の考え方に基づき、ブランドの北極星(約束)と行動原則を明確にします。

ワーク指示:現行資産棚卸し
既存の接点(Web・店舗・SNS・カスタマーサポートなど)をリストアップし、それぞれが「約束」に合っているかを確認します。合わない接点は改善対象としてマークします。

ステップ2:顧客理解

次に、顧客を徹底的に理解します。

ペルソナ・ジョブ・感情ジャーニー
ペルソナ(理想的な顧客像)を設定し、その人が「何をしたいか(ジョブ)」「どう感じるか(感情ジャーニー)」を描きます。

タッチポイントのBefore-Afterで感情曲線を描く
各接点で顧客の感情がどう変化するかを可視化します。
例:

  • Web訪問前:期待(感情スコア+3)
  • 検索→サイト到達:興味(+5)
  • 情報不足でイライラ:失望(-2)
  • チャットで解決:安心(+7)

この曲線を基に、マイナス箇所を改善し、プラス箇所を強化します。
詳細は、今後の記事「CXとブランドの関係(記事No.69)※近日公開」で解説予定です。

ステップ3:体験コンセプトの策定

5原則を一言テーマに集約
五感統合・一貫性・独自性・感情・パーソナライゼーションの5原則を、覚えやすい一言に集約します。
例:

  • 「静かな自信」
  • 「第三の居場所」
  • 「毎日のちょっとした冒険」

成果軸(北極星KPI)と”禁止事項リスト”を同時定義
体験コンセプトに沿った成果指標(例:滞在時間+20%、NPS+10pt)と、絶対にやってはいけないこと(例:過度な営業、嘘の情報提供)をリストアップします。

ステップ4:タッチポイント設計

VI(ビジュアル・アイデンティティ)やトーン&マナー、IMC(統合マーケティングコミュニケーション)の指針に基づき、多接点へ翻訳
体験コンセプトを各接点に翻訳します。

1つの体験テーマをチャネルごとに翻訳するマップ(O2O動線図)

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接点体験テーマ「第三の居場所」の翻訳
Web温かみのあるビジュアル、居心地の良い配色
店舗ゆったりした座席配置、心地よいBGM、香り
SNSコミュニティ感のある投稿、ユーザー参加型企画
サポート親身な対応、「困ったことがあればいつでも」トーン
梱包手書き風メッセージ、温もりのある素材

O2O動線:Web→店舗→再Web→SNS拡散、と顧客が自然に移動する設計を意識します。

詳細は、今後の記事「ブランド体験におけるタッチポイント設計(記事No.72)※近日公開」で解説予定です。

ステップ5:実装と測定

ブランド評価で用いられる「評価の二軸(経済的/消費者的価値 × 見える/見えない価値)」の考え方を体験KPIフレームに転用
ブランド体験設計の5原則が、具体的にどのようなKPIに結びつくのかを【表】5原則と関連KPI例で整理しました。先行指標を改善することが、最終的なビジネス成果につながります。

ブランドエクスペリエンス5原則と関連KPI例

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原則目的先行指標(体験の質)の例成果指標(ビジネス成果)への貢献
1. 五感の統合感覚を通じてブランド世界観を伝える・店舗滞在時間
・動画視聴完了率
・ポジティブな口コミでの感覚表現の言及数
・ブランド想起率向上
・指名検索増加
2. 一貫性どの接点でも同じ「らしさ」を感じさせる・チャネル横断での顧客満足度(CSAT)のバラつき
・ブランドイメージ調査の一貫性スコア
・顧客混乱の防止
・信頼性向上によるLTV向上
3. 独自性記憶に残る「ピーク体験」を創出する・SNSでのUGC(ユーザー生成コンテンツ)数
・特定体験(例:開封)に関する言及数
・競合との差別化
・口コミによる新規顧客獲得
4. 感情的つながりブランドへの愛着や共感を育む・NPS(推奨度)
・感情分析スコア(ポジティブ/ネガティブ比率)
・リピート率向上
・価格弾力性の低下(値上げ耐性)
5. パーソナライゼーション「自分ごと化」を促しエンゲージメントを高める・レコメンド経由のCTR・CVR
・パーソナライズ機能の利用率
・顧客単価向上
・クロスセル/アップセル率向上
出典:Keti Limani「CXの評価に欠かせない10のKPI(指標)」|2026|主要10指標を提示、Anita「Establishing a Brand Measurement Framework: KPIs, Metrics & Models」|2025
|Kellerのブランドエクイティピラミッドに基づくKPIフレームを参考に編集部作成

体験KPIを「先行指標」と「成果指標」に分類します。

先行指標(体験の質)

  • 回遊率(店舗・Web)
  • 体験満足度(アンケート)
  • 感情スコア(ポジティブ感情の割合)

成果指標(ビジネス成果)

  • LTV(顧客生涯価値)
  • リピート率
  • NPS(Net Promoter Score)

先行指標が改善すれば、成果指標も連動して向上します。
本章で解説した5原則とタッチポイント設計の全体像を、【図】5原則×タッチポイントマトリクスにまとめました。このマトリクスを使い、自社の体験設計に漏れがないかを確認しましょう。

詳細は、今後の記事「ブランド体験の効果測定(記事No.81)※近日公開」で解説予定です。

第4章:実践事例(タイプ別に3例)

4-1 事例①:エコシステム型|世界的スマートフォンブランド

概要
開封体験→店舗サポート→エコシステムの一貫性で、顧客ロイヤルティを構築。

5原則マッピング

  • 五感統合:視覚(シンプルなデザイン)、触覚(高級感ある素材)、聴覚(起動音)
  • 一貫性:パッケージ・店舗・Web・サポートすべてで同じトーン
  • 独自性:開封手順が「儀式」として設計
  • 感情:新製品を手にする「ワクワク」を最大化
  • パーソナライゼーション:初期設定で個別カスタマイズを促進

中小企業が真似できるポイント

  • 開封手順書:製品の開封方法を美しく設計した説明書
  • ウェルカムメール:購入直後に送る感謝メッセージ
  • 初期設定ガイド:新規顧客向けの丁寧なオンボーディング

4-2 事例②:空間体験型|高級コーヒーチェーン

概要
五感統合×”第三の場所”テーマで、自宅でも職場でもない居心地の良い空間を提供。

5原則マッピング

  • 五感統合:視覚(統一されたインテリア)、嗅覚(コーヒーの香り)、聴覚(心地よいBGM)
  • 一貫性:世界中どの店舗でも同じ体験
  • 独自性:名前呼称(顧客の名前を呼ぶ儀式)
  • 感情:「ここに来ると落ち着く」安心感
  • パーソナライゼーション:カスタマイズ注文、常連客の好みを記録

中小企業が真似できるポイント

  • 名前呼称:顧客名を覚え、次回訪問時に名前で呼ぶ
  • カスタマイズ台帳:常連客の好みをノートに記録
  • ローカル掲示のコミュニティ化:地域イベント情報を店内掲示

4-3 事例③:ライフイベント型|高級自動車ブランド

概要
試乗〜納車〜初回点検までの演出で、購入後も続く「特別感」を提供。

5原則マッピング

  • 五感統合:視覚(高級感あるショールーム)、触覚(試乗時のシートの質感)、聴覚(エンジン音)
  • 一貫性:ショールーム・納車・アフターサービスすべてが高品質
  • 独自性:納車セレモニー(顧客専用の納車イベント)
  • 感情:「自分だけの特別な車」という誇り
  • パーソナライゼーション:担当者が顧客の嗜好を深く理解

中小企業が真似できるポイント

  • 試用”前後”のギャップ設計:期待>体験の最適解を作る(例:試用前に少し低めの期待値を設定し、実際の体験で驚かせる)
  • 納品セレモニー:小規模でも「お渡し会」を実施
  • 初回点検の丁寧なフォロー:購入後1ヶ月で状況確認の連絡

注意
実績・数値は公開一次情報のみ使用。固有名詞の露出は慎重に。画像権利を管理。

まとめ

要点整理

  • ブランドエクスペリエンス=「全体の世界観体験」:Brakusの4次元(感覚・感情・知的・行動)で定義され、最新研究では社会的次元も追加されています。
  • CXは一部、ブランドエクスペリエンスは全体:両者の統合で成果が最大化します。CXはオペレーション最適化、ブランドエクスペリエンスは世界観設計です。
  • 5原則で設計:五感統合・一貫性・独自性・感情・パーソナライゼーションが設計指針となります。
  • 5ステップで実装:核の定義→顧客理解→コンセプト策定→接点設計→測定、という流れで体験を作り込みます。

次アクション(具体)

  1. 自社の”約束と原則”を書き出し:ブランド戦略の基本となる「約束と原則の2層構造」の考え方を参考に、ブランドの北極星と行動原則を明文化します。
  2. 既存接点を5原則チェックで採点:上記で提供したチェックリストを使い、各接点を5原則で評価します。
  3. 先行改善ポイントを1つ選び、O2O翻訳マップに落とす:最も影響が大きい接点から改善し、図3のマップで可視化します。

関連記事への自然誘導

  • 全体像を掴みたい → ブランド体験(記事No.70)※近日公開
  • CXとの関係性を深掘りしたい → カスタマーエクスペリエンスとブランドの関係(記事No.69)※近日公開
  • 体験がもたらす価値と成果を知りたい → ブランド体験価値(記事No.70)※近日公開
  • 各接点の具体的な設計方法を知りたい → ブランド体験におけるタッチポイント設計(記事No.72)※近日公開
  • 効果測定の方法を学びたい → ブランド体験の効果測定(記事No.81)※近日公開

FAQ

Q1. CXとブランド体験、どちらを先に整えるべき?
A. 基盤となるCX(取引プロセスの最適化)を先に整えてから、ブランド体験(世界観設計)に進むのが効率的です。ただし、小規模なら並行も可能です。

Q2. 五感設計は店舗がない業態でも可能?
A. 可能です。オンラインでも視覚(デザイン)、聴覚(動画の音楽)、触覚(パッケージの質感)を設計できます。嗅覚・味覚は難しいですが、視覚的に香りや味を連想させる工夫(例:香りをイメージさせる画像)も有効です。

Q3. パーソナライゼーションはどこまでやるべき?
A. 顧客が快適と感じる範囲(名前で呼ぶ、過去の購入履歴を活用したレコメンド)から始め、データ利用を透明化し、選好コントロールを提供することが重要です。

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この記事を書いた人

当編集部は、世界的エンタメブランドでの実績を持つブランディング専門家の知見をもとに、実践的なブランドマネジメント情報を発信しています。

編集方針:
セサミストリート、ディズニー、ウルトラマンなど、数々の世界的ブランドを手がけた35年の業界経験から導き出された理論と実践ノウハウを、検索ユーザーの課題解決に役立つ形で体系化。最新のブランディング手法を分かりやすく解説します。

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